岩波コラム

精神科医によるコラムです

幻冬舎 puls

2016-06-23 22:32:46 | 日記
 幻冬舎の幻冬舎plusにおいて、「不寛容という病」の連載を開始しました。
 昨年の連載の続きとなる内容のものです。

 以下のサイトになります。
   http://www.gentosha.jp/preview/ae8088ff9dc43b559a2c35e1eaf094b7074fdd76


東京新聞 6月4日

2016-06-06 21:48:50 | 日記
 東京新聞6月4日朝刊に、インタビュー記事が掲載されました。その内容を以下に示します。実際の紙面は多少変更があったかもしれません。

東京新聞 6月4日朝刊 考える広場
「不謹慎狩りー寛容さを無くした社会」

精神科医 岩波明(いわなみ・あきら)さん

 ここ数年、日本社会では不寛容な人、他人を好んで非難する人が顕著に増えたと思います。その心理は、やはり現実世界での不満足感や嫉妬の裏返しというケースが多いと考えられます。ネットでバッシングをする側は、その時、絶対的な権力者になれる。人を裁く快感の味を知ってしまうと、正義派を装いつつも、バッシングすること自体が目的化してしまう。内容は何でも構わないわけです。

 もともと人間には、このような傾向があることは確かです。ただ、SNSなどのツールが発達したことで、誰にでもバッシングが容易になり、範囲と対象も広がりました。

 ベッキーさんの不倫騒動は、三十すぎの女性が妻子持ちの男に恋をするという、誰にも起こりうる話です。個人のトラブルであり、他人から人格否定までされるのはおかしい。三年前、みのもんたさんが批判された時も同様でした。週刊誌とネットが呼応して、「極悪非道の大悪人」のように書きたてました。一つの意見が主流となり、固定化されてしまうと、なかなか覆すことは困難です。正当な反論が許されなくなり、皆が飽きるまで同じ論調が続くわけです。

 こうした背景として、日本社会の同質性の高さがあります。皆同じように考え、理想とするライフコースもかなり一致している。すると、そこから外れた人物が優秀であっても問題視されやすい。価値観が多様ではないため、集団心理的に同じ攻撃をしてしまう。

 社会も明らかに不寛容になりつつあります。コンプライアンス(法令順守)重視の中で、職場の締め付けも厳しくなった。かつては問題にもされなかった、ささいなミスや不祥事でも糾弾される。企業は評判を気にして、クレームがあれば過剰に反応する。問題視されるレベルの閾値が上がり、他人を非難しやすい背景ができあがっている。

 当然、個人の規範意識のレベルも引き上げられます。その結果、騒動に便乗する人だけでなく、本当に正義感からバッシングをする人も出てくる。そうなると、相乗効果でバッシングはさらに激しくなります。今の日本は平均からはみ出さない人畜無害で面白みのない人物しか表に出られなくなりつつある。問題発言を繰り返すトランプ氏のような人が表舞台で活躍する米国の方が、より健全かもしれません。(聞き手・樋口薫)