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醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  405号  白井一道

2017-05-22 11:47:16 | 日記

 「邂逅の森」を話す

暖簾をくぐると源ちゃんがにいた。
 しばらくだね。一牟ぶりくらいかな。
 よせやぁい。おとといここであったばかりじゃないか。
 そうだったかな。本当にしばらく逢ってにいないような感じがするんだけどね。
 アルツの心配はないの。若年性痴呆症が流行っているから気をつけた方がいいかも。
 源ちゃんがこの間、言っていた小説、何というんだっけ。
 「遜遁の森」かい。
 そうそう、その小説、読んだよ。
 どうだった。
 面白かったよ。「夜這い」のところなんか、面白く読んだよ。
 今でも通ずる話だと俺、思ったけどね。若い男が皆、憧れる女には男はいない。男たちが敬遠してしまう。思い切って「夜這い」をかけたら、受け入れてくれた。やはり、男は度胸だね。駄目元でアタックする。
 俺は「マタギ」の話に興味をもったよ。山の神令まは醜女(しこめ)で嫉妬深い。内の山の神も同じだ。嫉み始めたらどうにも手がつけられない。だから大事に清く貧しく美しく生きねば、と思うね。
 マタギは山の神さまの怒りをかわないよう、初めて冬山の熊狩りに参加する者は一月も前から女を断ち、禁欲生活をする。山に入ると若者は下半身を露出し、勃起させ、祈る。参加している者は皆、真剣にこの儀式を執り行う。こうして、山の神さまに祈り、猟がうまくいくと信じて疑わなにい。
 神話的な世界がつい最近まであったんだね。
 こうしたことって、とても大事なことのように思うよ。子熊を抱えた熊は絶対に捕らなにい。自然の摂理には逆らわない。こうして掟や仕来りのようなものがつくられ、それを厳格に守る。山の恵みは神様からの恵みだと村人は皆感謝する。今のような自然環境の破壊はなかった。自然に対する畏敬の念のようなものを失ったとき、自然破壊は進むのかななんてこの小説を読んで思ったけどね。
 難しいことを言うね。
 そうさ、俺は哲学者だからね。小説の中に人間の真実のようなものを見いだすから。
 こりゃ、驚いたね。哲学者ときましたか。
 源ちゃん、面白い小説があったら、また紹介してよ。
 うん、小説なんてたまにしか読まないからね。