吹く風ネット

釣り師

 先週の休日の話。昼間、友人から電話がかかってきて、「今から釣りに行くけど、来んか?」と言う。
 ぼくは釣りはしない人間だ。糸に針を付けたり針に餌を付けたりと、準備が面倒そうだし、何よりも魚を触った後の生臭さが嫌いなのだ。
 とはいえ、釣りを見るのは嫌いではない。ということで、所用をすませてから、友人が釣りをしている芦屋の柏原漁港へ向かった。

 着いてみると、友人は複雑な顔をして糸を垂れていた。
 開口一番、「全然釣れん」と言う。
「ここは釣れる場所なんか?」
「前はここでたくさん釣れたんやけど…」
 周りには家族連れで釣りにやってきている人もいたが、誰もが浮かぬ顔をしている。
「周りの人も釣れてないみたいやのう」
「おう…」

 1時間ほどたっても、まったく釣果がない。もう夕方である。周りにいた人は諦めたようで、次々と帰って行った。
 それを見て友人も「やっぱりダメやのう…」と言った。しかし、彼は諦めてはなかった。
「場所変えよう」と言うのだ。
「どこに行くんか?」
「遠賀川の河口堰。あそこはボラが釣れる」
 ということで、ぼくたちは遠賀川河口堰に移動した。

 なるほど、河口堰は釣れるのだろう。釣り人の数は、柏原漁港よりも多かった。川面では魚が飛び跳ねているし、川底にはいくつも魚影が見える。
「ここは釣れるんやのう」
「まあな。でも、あそこにおる人たちは釣れてないと思うぞ」
「えっ、何で?」
「釣り竿見てみ。ルアーやろうが」
 と言われても、ぼくはルアーが何なのか知らない。
「竿と関係あるんか?」
「あるよ。ここはルアーじゃ釣れんのよ」

 と、釣り師がうんちくを語っている時だった。竿がしなったのだ。
「おい、来たぞ」
 友人はゆっくりとリールを回し、引き上げた。ボラである。体長は30センチ強というところだった。ところが友人は「50センチだ」と言う。さすが釣り師である。

 ボラは狭いバケツの中に、頭から突っ込まれた。態勢が悪かったのか、何度も何度も体を揺らして向きを変えようとしていた。ぼくがそれを見ていると、ボラは恨めしそうにぼくの顔を見た。
 ちょっと哀れに感じたぼくが「このボラ、まさか今日死ぬとは思ってなかったやろうのう」と言うと、友人は「ボラがそんなこと思うわけないやろ」と言った。
 このへんが、『自称詩人』のぼくと『自称釣り師』の友人との、感性の違いなのだろう。

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