Mr.メンドーサ

　朝起きると、いつもぼくは本能に今日という日を聞いている。
「今日はいい日ですか？悪い日ですか？」
　だいたい本能はわかっていて、いろいろアドバイスをしてくれる。
「今日はいい日だから飛ばしていけ」
「今日はあまり無理をしないほうがいい」
　そのアドバイスは実に的確で、これまで外れたためしがない。

　ところがそんな貴重なアドバイスに従わせようとしない、困った人がいる。Mr.メンドーサだ。どこかで聞いたことのある名前だが、いったいどこの人なんだろう。いつの頃からかぼくの中に棲みついて、本能が何かアドバイスをくれるたびに、
「面倒なことはやめたほうがいい」
　と、いちいちぼくの邪魔をする。

　そういう時、なぜか本能の呼びかけが見えなくなる。そしてMr.メンドーサの呼びかけを、ぼくは本能の呼びかけと勘違いして、ついつい逆流に乗せられてしまうんだ。そのせいで何度チャンスを逃したことか。
　本能のアドバイスに従っていたら、もっと楽に人生は流れていたに違いない。