吹く風ネット

昭和52年の夏

 カラコロという音がすると、縁側で寝ている猫が首をもたげて「ニャー」と鳴く。
「何でこの猫は、下駄の音に反応するんだ?」
「それは幼い頃に、下駄で尻尾を踏まれたからだよ」
「なるほど。それでこの猫の尻尾の先は曲がっているんだ」
「あー、触っちゃダメだよ」
「何で?もう痛みなんて、とっくに引いているはずだろ」
「そうじゃない。この猫は今でも尻尾のことで恨みを持っているんだ」
「えっ。恨みって、猫が?」
「そうだ。だから尻尾を触られると、下駄に踏まれた昔を思い出して恨みを晴らそうとするんだ」
「まさか取り憑くわけじゃないだろうな」
「そのまさかだ。こいつももう高齢だ。もし取り憑いたら大変なことになるぞ。そっとしておけ、そっと・・」
 外からは相変わらず、カラコロと下駄の音がする。
 縁側の猫は相変わらず、首をもたげて「ニャー」と鳴く。

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