お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 42 FINAL

2022年08月14日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「……やっと、終わったみたいね」
 さとみは片岡たちを見てつぶやく。
「その様ですね……」みつは深いため息をつく。それから、慌ててさとみの膝を抱えていた手を放した。「あ、これは失礼を……」 
「いえ、おかげで助かったんですもの、お礼を言います」足を離されて、さとみはふわっと床に降り立ち、みつに向かって頭を下げた。「もちろん、みんなにも感謝」
 さとみは、腰をつかんだままの冨美代、虎之助、豆蔵に頭を下げた。
「嬢様、よしてくだせぇ」豆蔵は虎之助の腰から手を放し、その手を顔の前で左右に振る。「当然の事をしたまででさぁ」
「そうよ」虎之助も冨美代から手を放して言う。「さとみちゃんが一緒に封印されたらって思うと、必死だったわ」
「わたくしも……」冨美代はみつの腰に回した手を放さない。「みつ様も吸い込まれるのではと、心底案じてしまいましたわ」
「わたしの心配じゃないの?」さとみが意地悪そうに冨美代に訊く。「それに、もう腰をつかんでいなくても大丈夫だけど?」
「あら、わたくしとした事が!」 
 冨美代は真っ赤になって、困惑しているみつの腰から手を放す。皆が笑う。やっと普通に笑えるようになったんだ、と、さとみは思った。
「まあ、さゆりと一緒にあの影も封印されたからね。安心だ」そう言って珠子はうなずく。「……それにしても、さとみちゃんのあの変な顔、面白かったわねぇ」
「そうそう」静も言う。「驚いちゃったよ。力も抜けちゃうしさ」
「そうだったのですか」みつが言う。「さとみ殿を押さえるのに必死で、気がつきませんでした」
「それが良かったんだよ」静が言う。「あの顔を見たら、みんな力が抜けて、下手したら、みんな筒に吸い込まれて封印されてたよ」
「そんな危険なお顔だったのですか」みつが真剣な表情でさとみを見る。「万が一に備え、今一度そのお顔を見せてはくれませんか? 見慣れておかなければいけませんから」
「え……」
 さとみは返答に困る。気がついたら、みんながじっとさとみの顔を見ている。
「わたし、豆蔵が虎之助に言った言葉で、思いついてやってみただけだから……」
「あっしがですかい?」豆蔵は自分を指差す。「何を言いやしたかねぇ?」
「ほら、虎之助の腰に手を回した時に、豆蔵の腕が逞しいって言って、力が抜けちゃうって答えたじゃない?」
「本当の事よ……」虎之助は思い返すような顔で、ぽうっとしている。「ああ、今もこのからだに感触が残っているわ……」
「それで思いついたわけよ」さとみは虎之助の感想を無視して続ける。「力を抜かしちゃえばいいんじゃないかって。それで、変な顔をしてみたの」
「なるほど、優れた策ですね。急に思いもよらぬ事をされて、さゆりも不意を突かれたのですね」みつが何度もうなずき、感心している。「ならば、尚の事、そのお顔を見ておかねばなりません」
「……ふぇぇ……」
 さとみは困惑した顔だ。あの時は、さとみも必死だったから、どんな顔をしていたのか、あんまり覚えていなかった。
「さとちゃん」冨が言う。「そろそろ生身に戻らなきゃ。見てごらんなさい」
 富が指差す方を見ると、大の字になって倒れているさとみを、アイ、麗子、朱音、しのぶが、取り囲んでしゃがんでいる。皆心配そうな顔をしている。
「呼びかけても返事が無い、大変だってアイちゃんが困っているわ。朱音ちゃんとしのぶちゃんは、さとちゃんの霊体がどこかにいるはずだから大丈夫ってアイちゃんを説得している。麗子ちゃんは……早く帰りたそうねぇ」
「じゃあ、わたし、生身の戻ります!」さとみが言う。「みんなに心配かけたくないから」
「それがいいわね」冨が言う。「さっきの変顔は、また別の時に見せてあげなさいな」
「えええっ、やっぱり見せるのぉ……」さとみは憂鬱そうな顔をする。「イヤだなぁ……」
 と、虎之助の胸元が光り始めた。虎之助は胸元に手を差し入れ、白く光る珠を取り出した。それを床に置く。光が人の大きさくらいまで広がり、それが消えると、ぼうっとした顔の竜二が立っていた。
「きゃあっ! 竜二ちゃん!」虎之助が竜二に抱きついた。涙を流している。「良かった、良かったわぁぁ!」
 全力でしがみつかれた竜二は苦痛に顔を歪めている。みつたちも口々に良かったと言っている。さとみはその隙に霊体を生身に戻した。

「会長!」意識の戻ったさとみにアイが言い、涙を流した。「良かった、良かった……」
「だから、言ったじゃないですか、アイ先輩」しのぶが冷静な口調で言う。「会長はちょっと霊体を抜け出させただけだって」
「みんな……」さとみが言う。ちょっと声がかすれている。「ありがとう……」
「いえ、会長のお力がればこそです!」アイが言う。「それと、麗子とこの二人の念仏のお蔭です。わたしは何もできませんでした」
「いいえ、アイがみんなを仕切ってくれたからよ」さとみが言い、からだを起こした。そして、一人一人の顔を見る。「みんな、本当にありがとう、みんなの頑張りで解決したのよ」
「わたし、一生分の『般若心経』を唱えた気分です」朱音が言う。「喉がからからになっちゃいました」
「わたしも怖いのを何とか克服できそう」麗子が言う。「もう、『弱虫麗子』って呼ばせないわ」
 さとみは立ち上がる。それに合わせて皆も立ち上がった。
「さあ、さとみちゃんも無事だったし、わたしのお店に行こうか」百合恵が声をかけてくる。「みんなもお腹すいたでしょう?」
 答える前にさとみのお腹がぐうと鳴った。皆は笑う。
 松原先生は、倒れている谷山先生の所に行き、肩に手を掛けて揺すっている。何度目かで谷山先生は気がついた。何が自分の身に起きたのかよりも、一張羅の服が汚れたり破れたりした事の方が重大だったようで、いつものきんきん声で泣いていた。松原先生もどうしたものかと頭をぽりぽりと掻いている。
 片岡は封印した筒を持って立っていた。さとみは片岡に駈け寄った。
「片岡さん……」
「さとみさん。良く頑張ってくれました」片岡は穏やかな声で言う。「もちろん、皆さん方も」
 片岡は言うと、「百合恵会」のメンバー、松原先生と谷山先生、そして珠子たちを見る。
「お恥ずかしい話、わたしはさゆりの呪で身動きのできない状態にされてしまいました」片岡は無念そうに言う。「意識はあったので、何が起こっているかは分かっていたのですが、手を下せませんでした」
「それは大変でしたね……」
「ははは、でもさとみさんがそうならなかったので良かったですよ」
 片岡の明るい笑い声にさとみはほっとする。
「……あの、さゆりと黒い影は……?」さとみが訊く。さとみの視線は片岡の左手にある筒を見ている。「その中に……?」
「そうです」片岡はうなずく。右手を上着のポケットに入れ、幅一センチ程の、短い白い紐を取り出した。
「それは、何ですか?」
「封印した筒をさらに封印するための紐です」片岡は言うと、筒と蓋の境目の上から紐を巻き、その上に右の人差し指を当て、短い呪文のようなものを唱えた。それが終わると、さとみに笑みを向けた。「……これで、完全に封印です。これはわたしが誰の手も届かない所に納めますから、安心してください」
 さとみはうなずいた。筒に吸い込まれるときに見せたさゆりの笑顔(さとみの変顔のせいではあるが)に、何となく救いを見た気がしていた。
「さあ、片岡さんもさとみちゃんも行きましょう」
 百合恵が声をかけてくる。百合恵の隣には松原先生がいた。まだぶつぶつと文句を言っている谷山先生には朱音としのぶが何やら説明をしている。麗子はアイにもたれかかって「来週の旅行がが楽しみね」などとささやいている。
 さとみは珠子たちを見た。皆うなずきながら、消えて行った。虎之助は竜二にしがみついたままで消えた。
「……終わって良かったわ……」
 さとみは空を見上げた。雲が切れ、星が瞬いている。


おしまい

作者註:うんざりするくらい長くなってしまいましたねぇ。まあ、なんとか最終回を迎えることが出来て良かったです。お読みいただいた皆様、お付き合い下さり感謝しております。

さて、毎日掲載を心掛けてきましたが、少々疲れました。少しペースを落として行きたいと思います。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 霊感少女 さとみ 2  学校... | トップ | みなさまへ »

コメントを投稿

霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪」カテゴリの最新記事