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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 21

2022年07月24日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 その日はそれでお開きとなった。
 準備は出来た。後は実行あるのみだ。『百合恵会』のメンバーも気合が入っている。が、一人だけそうでは無い。麗子だ。校長室を出てから、ずっと黙ったままだった。
 すでに午後の授業が始まっていて、校内はしんとしている。教室へ戻る途中でさとみが呼びかけても、顔を向けようとしない。アイは二階の三年の教室へ、朱音としのぶは四階の一年の教室へと向かった。二年生の教室の並ぶ三階の廊下で、先に歩く麗子は立ち止まった。さとみも立ち止まる。
「さとみぃ……」麗子はさとみに背中を向けたままで言う。「あのさぁ……」
「なあに?」さとみは訊く。「どうしたのよう? 校長室を出てから、ずっとだんまりでさぁ」
「あのさぁ……」同じことを言いながら、麗子はさとみに振り返る。顔が青褪めている。「わたし…… わたし自身が怖い……」
「どうして?」
「どうしてって……」麗子は呆れた顔をする。「あなたも見てたでしょ? わたし、片岡さんの筒の蓋を開けちゃったのよ! みんなが開けられなかったのに!」
「それって、凄い事じゃないの」
「凄いって、何よ? わたし、こんな事なんて出来たくなかったわよ!」
「そんな事言ったって、出来ちゃったんだから仕方がないじゃない」
「イヤよ! わたしもさとみみたいになっちゃうなんて、絶対にイヤ!」
「イヤって言われても……」さとみは返答に困る。「でもさ、片岡さん、麗子は何もしなくて良いって言っていたじゃない?」
「そうだけど、わたし、こんな変な能力を持っている事がイヤなのよ!」麗子の声が次第に大きくなって行き、廊下に響いた。「さとみ、何とかしてよ!」
「何とかって……」さとみはため息をつく。「無理よ。それにさ、麗子だって『百合恵会』のメンバーなんだから、少しくらい霊力があったって良いじゃない?」
「イヤよ!」
 麗子は悲鳴に近い大きな声を出した。すぐそばの教室のドアが開いて、先生が顔を出した。
「何をやってんだ? 早く教室に戻りなさい」
 先生は言うとドアを閉めた。 
「……どうしてイヤなのよ?」
 さとみは声を殺して麗子に訊く。……そもそも、霊が憑きやすいって時点で、霊力があると思うんだけどなぁ。さとみは思った。……今まで面と向かってこの事は言った事が無かったけど、そろそろ言っても良いのかもしれないわ。さとみは一人うなずいた。
「何よ?」麗子がむっとした顔でさとみを見る。「何を一人でうなずいているのよ?」
「……あのね、麗子……」
「イヤよ! 聞きたくない!」麗子は両手で両耳を塞いだ。「何にも言わないで!」
「どうしてそこまで?」
「だってさ!」麗子は答える。耳を塞いでもさとみの声は聞こえているようだ。「このままだったら、怖くって夜寝られないじゃない!」
 麗子は言うと、駈け出した。残されたさとみは、おでこをぺちぺちと叩き始めた。
 と、すぐそばの壁から豆蔵が現われた。さとみは霊体を抜け出させる。
「……嬢様、麗子さん、怖がっておいででやすねぇ」豆蔵はにやにやして言う。「おからだはしばしば使わせて頂いているんですけどねぇ……」
「その事、麗子は知らないのよ。話そうかなって思ったら、行っちゃったわ」霊体のさとみもおでこをぺちぺちしながら言う。「まあ、すぐに忘れるって言うか、慣れちゃうって言うか、何とかなるんじゃないかしら?」
「その伝で行くと、アイさんにもお力がありそうですけどねぇ……」豆蔵が腕組みをして言う。「むしろ、麗子さんよりも強い力を持っていそうなんでやすが……」
「そうね」さとみはおでこの手を止めてうなずく。「でも、蓋も開けられなかったし、『般若心経』も読めなかったし……」
「まあ、それだけが力を示す所って事もねぇでやしょう。きっと、別の所で何かありやすよ」
「そうよね」さとみはうなずく。「……で、姿を見せたって事は、何かあったの?」
「へい……」豆蔵はうなずく。「実は、片岡さんと珠子様とが話し合いましてね。やはり、こちらから仕掛ける方が良いだろうと言う事になりやした」
「そうよねぇ…… 待っていたら、碌で無しどもが、もっと集まって来ちゃうものね」
「へい。そうなれば、さゆりの力もより強くなる。『般若心経』じゃ、効かなくなるって事でして」
「分かったわ」さとみは力強くうなずいた。「……で、いつ決行? まさか、今からとか……?」
「いえ、それはさすがに無ぇですぜ」豆蔵は苦笑する。「実は、片岡さん、他に片付けなきゃならねぇ用件がおありとかで。もちろん、早く片付けるとはおっしゃっておりやしたが」
「忙しいのねぇ」
「そうですね。最近、あちこちで悪い霊が現われて来ているそうでして」
「うわぁ……」さとみは思い切りイヤな顔をする。「どうなってんだろう……」
「まあ、そんな事なので、嬢様や他の方々には、十分にからだや思いを休ませておいてほしいって事でやす。それと、くれぐれも屋上へは勝手に行かないでほしいと言う事です」
「分かったわ。『百合恵会』のみんなに伝えておく。……百合恵さんも来てくれるのかなぁ?」
「そっちはみつ様と冨美代様が仲良く行っておりやすんで、もう、お伝えしておりやしょう。……もちろん、その時には、あっしらも全員で参ぇりやす」豆蔵は言うとにやりと笑う。「いわゆる『ふるめんばあ』ってヤツですね」


つづく

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