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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

聖ジョルジュアンナ高等学園 1年J組 岡園恵一郎  第1部 恵一郎卒業す 27

2021年08月20日 | 岡園恵一郎(第1部全44話完結)
 ……とにかく、これで僕は高校生になれるんだ。恵一郎はほっとした。しかし、その途端に、恐ろしさが襲ってきた。……上流の人たちの子供たちが僕の同級生になるんだぞ。僕の常識なんか通じないんじゃないか? いきなり両親の危惧が恵一郎の中にも芽生えてしまった。
 これ安かったんだよ、ほんの二百万円くらいでさ、なんて会話が普通に飛び交うのかもしれない。そんな中で、僕は珍獣扱いをされてしまうのかもしれない。へえ、こんな安いもの見た事がないなぁ? お小遣いが四桁って、四桁って幾らだい? あなたの御家庭は何処の社長様でいらっしゃいますの? きっと、同級生たちに全く悪気はないんだよな。苛めの自覚のない苛めになるんだろうな。理事長先生に相談したら助けてくれるだろうか? いや、待てよ、そもそも僕にあると言ってくれた才能って、何だろう? 理事長先生は言及しなかったけど、母さんが言っていたように、馬鹿にされ笑われるって言う才能なんだろうか…… 
 恵一郎は、肉食獣の群れに囲まれた草食動物の動画を思い出した。
 必死に声を上げて抵抗する草食動物。正面に並ぶ肉食獣どもは舌を垂らして、空しい威嚇を続ける草食動物を見ている。その背後にはすでに別の肉食獣どもが隙を窺っている。いや、隙を窺うにも値しない草食動物を、どう嬲ろうかと算段しているようだった。正面の一匹が唸りながら一歩近づく。草食動物は負けじと精一杯の威嚇をする。正面に全神経を集中させた草食動物の背後はがら空きだ。背後の一匹が、唸り声も上げずに跳躍し、草食動物に襲い掛かった。それが合図になった。肉食獣どもは一斉に草食動物に殺到した。肉を裂き骨の砕かれる音に混じり草食動物の断末魔がかすかに聞こえた…… 肉食獣の去った後には血塗られた草原があるだけだった。
『聖ジョルジュアンナ高等学園』に行くって言うのは、まさに動画の草食動物だ。でも、動画の草食動物は最後まで抵抗していた。僕は抵抗も出来ず、ただやられてしまうんだろうなぁ…… 恵一郎はその草食動物に自分を重ねる。急に不安と恐怖に押しつぶされそうになった。
 ……やっぱり、身の程を知るべきだよな。僕は平凡が服を着て歩いているんだ。それ以上の事を望んではいけないんだ。僕には情けない人生がお似合いなんだ。表通りを胸を張って歩ける人間じゃないんだ。陽の当たらない、暗くじめじめした裏路地を、おどおどきょろきょろしながら、来る人に道を譲りながら、何もされないように意味も無く笑顔を作りながら、のそのそと歩き回るのがお似合いなんだ。そうだ、そうに決まった!
 恵一郎は普段着に着替えると階下へ降りた。理事長先生には断りの電話を入れよう。そうすれば父さんも母さんも安心してくれる。僕も何だか浮かれていただけだったんだ。やっぱり分相応って言うのが正しいんだ。降りる階段で恵一郎は思った。
 両親は二階に上がる前と同じだった。恵一郎はローテーブルに残っていた封筒を手にした。両親は恵一郎を見る事もしない。封筒には学校に住所と代表電話が印刷されている。
 ……よし、ここに電話して、すみません、申し訳ありません、ごめんなさいって言おう。僕一人が入学しなかったからって、世の中には全く影響はないだろうさ。
 恵一郎が電話に手を伸ばそうとした時、電話が鳴った。恵一郎は驚いて封筒を落とした。恵一郎は両親を見た。電話に気が付いていないのか、関心が無いのか、全く動かない。仕方なく、恵一郎が受話器を取った。


つづく

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