逸子と洋子の間に小さなつむじかぜが起こった。
巻き上がる風がコーイチの頬に当たった。・・・マズい! また闘いになってしまうぞ! 清水さんは面白がるだけで、絶対に止めてはくれないだろう。となれば、ここは僕しかいない!
うつ伏せていたコーイチは、すっくと立ち上がった。満面に出来る限り最高の爽やかな笑顔をたたえ、逸子と洋子を交互に見た。
「いやあ、なんて言うのかなぁ・・・ 二人に好かれちゃって、僕はうれしいなぁ・・・」
精一杯照れくさそうな、満足してそうな声を出す。
にらみ合っている二人はコーイチに視線を移した。二人とも笑顔になっていない。むしろ微妙な雰囲気を増長させてだけのようだった。コーイチは笑顔のままで冷や汗をかいた。
「コーイチさん・・・」逸子がこわい顔をして一歩コーイチに寄る。「二人に好かれてうれしいですって?」
「そう言っていたわよぉ」清水が楽しそうに逸子の感情を逆なでする。「笑顔で、満足そうに言っていたわぁ・・・」
「清水さん!」コーイチが叫んだ。「喋らないで下さい!」
「わたし一人じゃ、ダメなの・・・?」コーイチと清水のやり取りなど全く眼中にないかのように、コーイチをにらみつけた逸子の声が低くなり、さらにこわい顔になる。「こんな、ぽっと出の娘に好かれてうれしいの?」
「ぽっと出って、少し失礼な言い方じゃありませんか?」洋子は逸子に文句を言い、それから一歩コーイチに寄った。「コーイチさん、逸子さんって、こわい人なんですね」
「まあ・・・ 芳川さんも、十分こわいんじゃないかしらぁ」清水はわざとらしく驚き呆れたような表情をして見せた。「コーイチ君、あなたってこわい娘に好かれるのかしらねぇ?」
「清水さん!」コーイチは半べそをかいて叫んだ。「お願いですから、これ以上二人を焚き付けないで下さい!」
「あらぁ、こんな面白いこと、やめられないじゃないの!」
「そ、そんなぁ・・・」
コーイチを間にして逸子と洋子がにらみ合いを始めた。
「さ、二人とも、ここは仲良く、仲良く・・・」コーイチは二人の顔を笑顔でのぞき込みながら言った。「せっかくのパーティなんだから、ねっ?」
「コーイチさん」逸子は真剣な顔でコーイチを見た。「わたしってこわい女なの?」
「え?」・・・なんだ、僕の話を何も聞いていなかったんだ・・・「いや、こわいって思ったことはないけれど・・・」
「じゃあ、わたしの方がこわいですか?」洋子も真剣な顔で言った。「一日文句ばかり言っていたから、嫌いになりましたか?」
「え?」・・・芳川さんも話を聞いていなかったんだ・・・「いや、そんな事はないけれど・・・」
「じゃあ! どっちにするかハッキリしてよ!」
「この際ですからハッキリして下さい!」
逸子と洋子が同時に言い、左右からコーイチに詰め寄った。
その時、エレベーターが軽やかなベルの音を立てた。扉が開いた。
もじゃもじゃ頭にぼうぼうの髭、その間から火の付いていないタバコを突き出し、おもむろにサングラスの位置を直し、黄色いシャツの上に黒薔薇の花弁を幾つもプリントした赤いスーツと同じ柄のスラックス、そして、首から三つのカメラを下げた巨漢が降りて来た。
巨漢はきょろきょろしていたが、逸子を見つけると手を振って叫んだ。
「逸子ちゃ~ん!」
そして、うれしそうに駆け寄って来た。
「あらあ! ナメちゃん!」
逸子もうれしそうに言って、手を振った。逸子がモデルをしている雑誌のカメラマン、滑川大三郎だった。
・・・逸子さん、『ナメちゃんがいると、もうそれだけでイヤの事忘れて楽しくなっちゃうのよね!』なんて言っていたよな。滑川さん、この場の救世主になってくれるかもしれないぞ。コーイチも何となくうれしくなっていた。
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(来年の公演は二、三月! チケット取れるといいですね! 取れたら教えて下さいね!)
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巻き上がる風がコーイチの頬に当たった。・・・マズい! また闘いになってしまうぞ! 清水さんは面白がるだけで、絶対に止めてはくれないだろう。となれば、ここは僕しかいない!
うつ伏せていたコーイチは、すっくと立ち上がった。満面に出来る限り最高の爽やかな笑顔をたたえ、逸子と洋子を交互に見た。
「いやあ、なんて言うのかなぁ・・・ 二人に好かれちゃって、僕はうれしいなぁ・・・」
精一杯照れくさそうな、満足してそうな声を出す。
にらみ合っている二人はコーイチに視線を移した。二人とも笑顔になっていない。むしろ微妙な雰囲気を増長させてだけのようだった。コーイチは笑顔のままで冷や汗をかいた。
「コーイチさん・・・」逸子がこわい顔をして一歩コーイチに寄る。「二人に好かれてうれしいですって?」
「そう言っていたわよぉ」清水が楽しそうに逸子の感情を逆なでする。「笑顔で、満足そうに言っていたわぁ・・・」
「清水さん!」コーイチが叫んだ。「喋らないで下さい!」
「わたし一人じゃ、ダメなの・・・?」コーイチと清水のやり取りなど全く眼中にないかのように、コーイチをにらみつけた逸子の声が低くなり、さらにこわい顔になる。「こんな、ぽっと出の娘に好かれてうれしいの?」
「ぽっと出って、少し失礼な言い方じゃありませんか?」洋子は逸子に文句を言い、それから一歩コーイチに寄った。「コーイチさん、逸子さんって、こわい人なんですね」
「まあ・・・ 芳川さんも、十分こわいんじゃないかしらぁ」清水はわざとらしく驚き呆れたような表情をして見せた。「コーイチ君、あなたってこわい娘に好かれるのかしらねぇ?」
「清水さん!」コーイチは半べそをかいて叫んだ。「お願いですから、これ以上二人を焚き付けないで下さい!」
「あらぁ、こんな面白いこと、やめられないじゃないの!」
「そ、そんなぁ・・・」
コーイチを間にして逸子と洋子がにらみ合いを始めた。
「さ、二人とも、ここは仲良く、仲良く・・・」コーイチは二人の顔を笑顔でのぞき込みながら言った。「せっかくのパーティなんだから、ねっ?」
「コーイチさん」逸子は真剣な顔でコーイチを見た。「わたしってこわい女なの?」
「え?」・・・なんだ、僕の話を何も聞いていなかったんだ・・・「いや、こわいって思ったことはないけれど・・・」
「じゃあ、わたしの方がこわいですか?」洋子も真剣な顔で言った。「一日文句ばかり言っていたから、嫌いになりましたか?」
「え?」・・・芳川さんも話を聞いていなかったんだ・・・「いや、そんな事はないけれど・・・」
「じゃあ! どっちにするかハッキリしてよ!」
「この際ですからハッキリして下さい!」
逸子と洋子が同時に言い、左右からコーイチに詰め寄った。
その時、エレベーターが軽やかなベルの音を立てた。扉が開いた。
もじゃもじゃ頭にぼうぼうの髭、その間から火の付いていないタバコを突き出し、おもむろにサングラスの位置を直し、黄色いシャツの上に黒薔薇の花弁を幾つもプリントした赤いスーツと同じ柄のスラックス、そして、首から三つのカメラを下げた巨漢が降りて来た。
巨漢はきょろきょろしていたが、逸子を見つけると手を振って叫んだ。
「逸子ちゃ~ん!」
そして、うれしそうに駆け寄って来た。
「あらあ! ナメちゃん!」
逸子もうれしそうに言って、手を振った。逸子がモデルをしている雑誌のカメラマン、滑川大三郎だった。
・・・逸子さん、『ナメちゃんがいると、もうそれだけでイヤの事忘れて楽しくなっちゃうのよね!』なんて言っていたよな。滑川さん、この場の救世主になってくれるかもしれないぞ。コーイチも何となくうれしくなっていた。
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