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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 166

2020年10月25日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「……あっ、ナナ…… どうしてここへ?」
 タケルは自分の顔を覗き込むナナの顔を見て、弱々しい声で言う。意識の戻ったタケルにナナの頬に涙が伝った。
「あれ? 泣いてんの? どうしたんだ?」タケルは現状を把握できていないのか、考え込んだ。途端に頭痛が襲ったのか、頭を抱えた。「痛てててて……」
「良いの、タケル。無理をしないで……」ナナは手の甲で涙を拭いて、笑顔を作る。「今は、何も考えないで……」
「……でも、それだと、何も考えないって事を考えるって事になるんじゃないか?」
「良いから!」ナナは少しむっとする。だが、いつものタケルの様子に内心はほっとしていた。「目を閉じて大人しくしていて」
「ああ、そうするよ……」
 タケルは素直に従った。しばらくすると、寝息を立て始めた。
「大丈夫よ」逸子がタケルを見ながらうなずく。「目を覚ませば、いつものタケルさんになっているはずよ」
「うん」ナナは言って、自分を励ますように強くうなずいた。「……でもタケルが、どうして……」
「それは分からないわ……」逸子は答える。「でもね、何か原因があるはずよ」
「そうね。後はタケルが目を覚ましてからね……」ナナは寝息を立てているタケルを見る。「わたし、タケルの事は全部知っていると思っていたけど、そうでもないようね……」
「落ち込まないで」アツコが言う。「これは何かの間違いなのよ」
「そうだと良いんだけど……」
「……あのさ……」タロウが静かに言う。「タケルさんが支持者じゃないとすれば、他に本当の支持者がいるって事だろう?」
「そうなるかしら?」ナナが言う。「その点も含めて、タケルから話を聞かなくちゃいけないわ……」
 皆はタケルを見た。穏やかな寝息を立てている。アツコと逸子のオーラ攻撃の影響はほぼ治まったようだ。
「もう少しね」逸子はタケルを見て言う。「後遺症の類も無さそうだわ」
「でも、あの究極奥義、凄かったわ……」アツコがしみじみと言う。「会得するには時間がかかりそう……」
「そう? 後でコツを伝授するわね。……とにかく、全力でオーラを撃っちゃったからね…… アツコも凄かったけど」
「わたし、正直に言うと、ちょっと殺意がったかも……」
「まあ、仕方がないわよね」ナナが言う。「二人とも、タケルだって分からなかったんだし。命を落とさなかっただけ、二人とも優しいのよ。それに、こんな事でダメになるようなタケルなら、いらないわ」
 こう言う怖い話を何食わぬ顔でする三人娘の会話に、言うに言われぬ恐怖をタロウは感じていた。出来るだけ平静な表情を装っていたが、内心は大声で叫びながら、この場から走り去りたかった。
 以前、タロウはアツコに気を失うくらいやられて入院すると言う出来事があった。病室のベッドで気がついた時、聞こえて来たのはアツコと側近とのやり取りの声だった。
『アツコ、タロウは生死の境をさまよっていたと言うのに、どこに行っていたんだ?』
『ちょっと江戸時代へね、遊びに』
『痛めつけた本人が、遊びに行くなど、そんな事で良いと思うのか?』
『だって、遊びたかったんだもん』
『タロウはブレーンだろう? 心配じゃないのか?』
『ふふふ、こんな事でダメになるようなら、いらないわ』
 アツコの最後のセリフを聞いて、タロウは再び気を失ったのを覚えている。
 ……こんなひどい事を言うのはアツコだけだと思っていたのだが、ナナさんも言うんだ。強い幼なじみを持った者同士、似たような苦労があるんだな…… タロウはそう思いながらタケルを見た。タケルは本当に寝ているようで、それが救いだなと思った。
「う…… ううう……」
 タケルの呻く声がした。ナナは素早くタケルの顔を覗き込む。先程よりも顔色が良くなっている。うっすらと開いた目に生気が感じられる。ナナはほっと息をつくと笑顔を見せた。……何だ、口では色々と冷たい事を言っていたけど、本心は心配だったんだな、だったらあんな怖い事を言わなければいいのに。タロウは思った。アツコに散々酷い目に遭っていたので、微妙な女性の心理にまで思いが至らないのは仕方ないのかもしれない。しかし、アツコにもナナと同じ気持ちがあるだろうとは考えないタロウだった。
「タケル」ナナの声は優しい。「どう? 気分は?」
「そうだねぇ…… この前の二日酔いよりはマシだよ」声もしっかりしてきた。いつものタケルだ。「チトセちゃんの丸薬があれば、すぐに回復するだろうけどね」
「残念ね。ここにチトセちゃんは居ないわ」
「じゃあ、どうしてナナが居るんだ? ……たしかここはエデンの園……」
「そうよ。あなた、ここに支持者だって言って現われたそうじゃない?」
「……そうだった。でもね……」タケルは視線をアツコと逸子に向けた。「ボクは支持者じゃないよ」
「そうなのね」逸子は大きくうなずく。「そうだと思っていたわ」
「じゃあ、どうして……」アツコが言う。「……どうして支持者のフリをしたの?」
「これは、いざって時のための訓練のつもりだったんだよ」タケルは言う。「テルキ先輩に言われてさ……」


つづく

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