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ジェシル 危機一発! ㉚

2019年12月05日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
「ジェシル! おい、ジェシル!」
 カルースの低い声がする。ジェシルはソファから勢い良く身を起こした。……あいつ、また侵入してきたのね! しかし、カルースはいなかった。声はデスクにあるインターホンから流れていた。
「もう昼だぜ! いくら公私混同可でも、ちょっとのんびりしすぎだ」カルースに説教された。ジェシルはぶんむくれる。「ま、いいや。それより昼食でもどうだ? オレがいてやるから外で食わないか?」
「……」ジェシルはインターホンを操作する。「カルース…… 朝早くにトールメン部長に呼び出されちゃったから、眠いのよ……」
 ジェシルはわざと眠そうな声を出した。付き合うつもりはないと言外に強くにおわせている。しかし、わかっていても挫けるカルースではなかった。
「そうかい? じゃ眠気覚ましに辛いもので食べに行こうか。これからそっちに向かうから、支度して待っていてくれ」
 カルースは言うだけ言うと通信をオフにした。
 ジェシルは憮然として再びソファに寝転がった。……カルースが来ても寝たふりして追い返そうかしら。ジェシルは思った。でも、まだ容疑者から外しきれないカルースに、変に勘繰られるのも危険かもしれないわ。それに、食事だけなら、大勢の中だし、無茶な事はしないでしょ? そう思い直すとジェシルはソファから起き上がった。
 その時扉がノックされた。モニター画面で、来たのがカルースだと確認した。カルースは制服姿だった。……じゃあ、わたしのそれに倣う事にするわ。ジェシルは大きく開いていた制服の前ジッパーを引き上げた。それから、「ジェシルモデル」の小型メルカトリーム熱線銃をポケットにしのばせた。扉を手動から自動に切り替える。扉が音も無く開いた。
「おや、オレを迎えてくれるとはね」カルースがにやりと笑う。「寝たふりをして追い返されるかと思ったぜ」
「あらそう? わたしはそんな意地悪はしたことなんてないわよ」
「へえ、そうだったけか?」カルースはちょっと不満そうな顔をする。「ま、いいや。じゃあ、ペゴの店に行こう。あいつには色々と面倒を見てやっているから、安くしてくれるはずだ」
「あら、奢ってくれるってこと?」
「そうさ。たまには良いじゃないか」
「……わかったわ」
 二人は並んで通路を歩く。カルースはパトカーの駐車場への通路へ向かう。
「カルース。そっちはパトカー駐車場よ。まさか、昼食に行くのに使うつもり? 使用目的は禁止よ」
「ほう!」カルースは笑う。「君が法令遵守家だとは知らなかったよ」
「そうじゃないわ!」ジェシルはむきになって答える。一番言われたくない言葉だ。「単にパトカーが嫌いなのよ!」
「ジェシル、これは君の警護を兼ねているんだ。パトカーを襲う者はいないだろう?」
「でも、パトカーを絶対に襲わないって言えないじゃない?」
「う~ん、そうかも知れないけど、気持ちの問題さ。徒歩数分のところでも、何があるか分からないしさ」
 ……あなただって分からないわよ! ジェシルは心の中で言うと、見えない爆裂脚をカルースに放った。
 パトカー駐車場に着いた。カルースが一台に乗り込もうとする。
「こっちの車にして」
 ジェシルは別の一台の隣に立って言った。
 カルースはやれやれと言った表情でジェシルが隣に立っているパトカーの運転席のドアを開けた。
「そんなにオレが信じられないのかい?」カルースは言った。「ま、用心に越したことはないけどさ……」
「そう、用心に越したことはないの」ジェシルは答えた。「恨まないでね。あなたの容疑が晴れるまでの辛抱よ」
「わかった、わかったよ」カルースが運転を手動操作に切り替えた。「さあ、乗ってくれ。万が一、変なプログラムがされていたら大変だからオレが運転するよ」
「自動運転より信頼できるの?」
「それは君次第だよ」
 ジェシルは後部座席に乗り込んだ。パトカーは滑るように動き出す。
「そうだ!」ジェシルは思い出したように言う。「実はわたし、しばらく身を隠すことにしたわ」
「ほう、そうなんだ」
「こう見えて、わたし貴族でしょ? 親戚に有力者が色々居てね、その一人に極秘で頼んだの。そうしたら協力してくれるって」
「そりゃ、よかったじゃないか。その間に事件は解決するだろうさ」
「そう願うわ」
 ペゴの店に着いた。駐車場係はイヤそうな顔をしていたが、カルースは平気で停めた。パトカーを降りて店内に入り、出入口で立ち止まる。制服のままなので、店内の客たちもイヤそうな顔をする。だが、ぴっちりとして体型の良く分かるジェシルの制服姿はそんな連中でさえの目を引くものがあった。そのため、客たちのイヤそうな表情はすぐに消えた。
「よう、ペゴ!」カルースがノラム人のペゴに声をかけた。小柄だが逞しい体つきで、人懐っこい笑顔をしたペゴがちょこまかした足取りでやってきた。「話しておいたろう? よろしくな」
「へいへい、カルースの旦那」ペゴは陽気な声で言った。「旦那にゃ本当、世話になったからね。で、今日はデートかい? 勤務中に? うらやましいねぇ」
 ジェシルが文句を言おうとしたが、ペゴはそれを制して奥のテーブルに案内した。
「ま、時間の許す限りごゆっくり。うまい料理出すからね」ペゴは言うと、小声でジェシルに話しかけた。「……カルースの旦那から話は聞いてるよ。安心してくれ、この店は絶対に大丈夫だから」
 一瞬、カルースに惚れそうになった自分に呆れるジェシルだった。 


つづく



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