西宙域一帯を牛耳るマフィアのボス、コール人のマグは自身が直接経営している高級クラブ「ラ・ヴィンランクス」の支配人室に居た。
高価なリーズ織りの絨毯を敷き詰めた室内に据えられた貴重なムーグ材製のデスクに組んだ足を乗せ、絶滅危惧種のパレッツァ牛の革を張った椅子の背凭れを軋ませている。
手には、マクラン星の一地域でのみ育成されるヲンカの樹の実を発酵させた超高級酒ゼドゼドが、並々と注がれたベルム製のグラスを持っている。
銜えているダイランド産の葉巻の灰が絨毯の上に落ちるのも構わず、壁に掛かっている大画面のモニターで、次々と切り替わる店内の様子をつまらなさそうな表情で見ている。
「なあ、ダンダリオよ。こう穏やかな日が続いちゃあ、ちったぁ東のヤツらに手ぇ出したくなっちまうなぁ……」
低い声でマグが言うと、壁に凭れて立っていた同じコール人でナンバーツーのダンダリオが、仕立ての良いスーツの内ポケットからザクバク製の折り畳みナイフを取り出し、鋭利な刃を立てた。
「へい、まったくで……」マグに負けない低い声でダンダリオは答えた。ナイフの刃を照明に当ててギラリと光らせる。「こいつも最近じゃ御無沙汰ですからね……」
「頼もしい事、言ってくれるじゃねぇか」
二人は「けっけっけ」とコール人特有の笑い方をする。
不意にマグの笑顔が消え、ゼドゼドを一気に呷った。モニター画面を固定し、四つの目を細めて睨むように凝視する。
「ボス、どうしやした?」ダンダリオが慌ててモニターを見た。「また、東の毛むくじゃらのドグ人の馬鹿野郎ですかい?」
「そうじゃねぇ。あれだよ……」
モニターの右下に、シーツが漂っているような動きが映っている。……なんだ、ありゃあ…… ダンダリオは困惑する。
「分かんねぇのかよ!」マグはモニターを操作し、シーツのようなものをアップにする。「ほら、あれだよ」
横向きになったシーツだと思われたものは、白いドレスだった。そのドレスもはち切れそうになっている。 着ている女は、一足ごとに全身の脂肪を縦横に揺らして大儀そうに歩き、見つけたロドム製のソファに腰を下ろし、剥き出しの両腕を背凭れの縁に乗せた。女が座ったソファは三人掛け用だったが、他の者が座る隙間は無く、背凭れの縁から下がる二の腕の脂肪は重々しい。頬の弛んだ性格の悪そうな大きな顔に付いている細くて小さな目は、カジノに興じている様々な惑星人達をつまらなさそうに見ていた。
「あれ、ですかい……」ぶよぶよでぶの大女じゃねぇですかいと、口元まで出かかったのを必死で飲み込むダンダリオだった。「あの女をどうしろと?」
「野暮な事を聞くんじゃねぇよ!」マグはネクタイを緩め、ワイシャツの第一ボタンを外す。「連れて来るんだよ」
……また、始まったぜ。ダンダリオは内心苦笑する。
「分かりやした。すぐにお連れしまさあ」
ダンダリオは言うと部屋を出た。
ホールに出て、件の女の前にダンダリオがゼドゼドを注いだグラスを持って立つ。
「うちのボスが、あんたを見初めた」ダンダリオはグラスを女に差し出す。「一緒に来てくれ。決して悪い話じゃねえよ」
「西のボスがあたしにかい」女は太い声で言い、鼻で笑うとグラスを引っ手繰り、一気に呷る。「こんなんじゃ、全然足りないよ」
「続きはボスの所で。好きなだけ飲ませてくれるさ」
女は面倒臭そうに立ち上がった。
……ボスは今頃、大慌てでベッドメイクしているぜ。ダンダリオは思い、その姿を想像してにやりと笑った。
つづく
高価なリーズ織りの絨毯を敷き詰めた室内に据えられた貴重なムーグ材製のデスクに組んだ足を乗せ、絶滅危惧種のパレッツァ牛の革を張った椅子の背凭れを軋ませている。
手には、マクラン星の一地域でのみ育成されるヲンカの樹の実を発酵させた超高級酒ゼドゼドが、並々と注がれたベルム製のグラスを持っている。
銜えているダイランド産の葉巻の灰が絨毯の上に落ちるのも構わず、壁に掛かっている大画面のモニターで、次々と切り替わる店内の様子をつまらなさそうな表情で見ている。
「なあ、ダンダリオよ。こう穏やかな日が続いちゃあ、ちったぁ東のヤツらに手ぇ出したくなっちまうなぁ……」
低い声でマグが言うと、壁に凭れて立っていた同じコール人でナンバーツーのダンダリオが、仕立ての良いスーツの内ポケットからザクバク製の折り畳みナイフを取り出し、鋭利な刃を立てた。
「へい、まったくで……」マグに負けない低い声でダンダリオは答えた。ナイフの刃を照明に当ててギラリと光らせる。「こいつも最近じゃ御無沙汰ですからね……」
「頼もしい事、言ってくれるじゃねぇか」
二人は「けっけっけ」とコール人特有の笑い方をする。
不意にマグの笑顔が消え、ゼドゼドを一気に呷った。モニター画面を固定し、四つの目を細めて睨むように凝視する。
「ボス、どうしやした?」ダンダリオが慌ててモニターを見た。「また、東の毛むくじゃらのドグ人の馬鹿野郎ですかい?」
「そうじゃねぇ。あれだよ……」
モニターの右下に、シーツが漂っているような動きが映っている。……なんだ、ありゃあ…… ダンダリオは困惑する。
「分かんねぇのかよ!」マグはモニターを操作し、シーツのようなものをアップにする。「ほら、あれだよ」
横向きになったシーツだと思われたものは、白いドレスだった。そのドレスもはち切れそうになっている。 着ている女は、一足ごとに全身の脂肪を縦横に揺らして大儀そうに歩き、見つけたロドム製のソファに腰を下ろし、剥き出しの両腕を背凭れの縁に乗せた。女が座ったソファは三人掛け用だったが、他の者が座る隙間は無く、背凭れの縁から下がる二の腕の脂肪は重々しい。頬の弛んだ性格の悪そうな大きな顔に付いている細くて小さな目は、カジノに興じている様々な惑星人達をつまらなさそうに見ていた。
「あれ、ですかい……」ぶよぶよでぶの大女じゃねぇですかいと、口元まで出かかったのを必死で飲み込むダンダリオだった。「あの女をどうしろと?」
「野暮な事を聞くんじゃねぇよ!」マグはネクタイを緩め、ワイシャツの第一ボタンを外す。「連れて来るんだよ」
……また、始まったぜ。ダンダリオは内心苦笑する。
「分かりやした。すぐにお連れしまさあ」
ダンダリオは言うと部屋を出た。
ホールに出て、件の女の前にダンダリオがゼドゼドを注いだグラスを持って立つ。
「うちのボスが、あんたを見初めた」ダンダリオはグラスを女に差し出す。「一緒に来てくれ。決して悪い話じゃねえよ」
「西のボスがあたしにかい」女は太い声で言い、鼻で笑うとグラスを引っ手繰り、一気に呷る。「こんなんじゃ、全然足りないよ」
「続きはボスの所で。好きなだけ飲ませてくれるさ」
女は面倒臭そうに立ち上がった。
……ボスは今頃、大慌てでベッドメイクしているぜ。ダンダリオは思い、その姿を想像してにやりと笑った。
つづく
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