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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 28

2022年01月13日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 廊下を抜け階段を降り北校舎へと進む。
 途中で幾つもの霊体に出会った。刀を腹から背中へと串刺しにされた侍、からだの半分が吹き飛ばされたような軍服姿の軍人、足首に重々しい鎖を巻きつけて濡れそぼっているやくざ風の男、陰湿な笑みを浮かべた下着姿の女、他にも似たようなのが見える。つい最近まで見かけたことの無い性格の悪そうな、恨みつらみを持っていそうな霊体たちだ。良からぬ事が起こりつつあるのかもしれない、そう思わせる雰囲気だ。
 さとみは不安に思いながらも進む。
 北校舎には霊体は見当たらなかった。やはり、ここは特別なんだ、さとみは思った。下衆い霊体は近寄れないのかもしれない。さとみは深呼吸をして一階の各部屋を回る。一階にはいなかった。二階を回る。そこにもいない。
「ちょっと苦しいなぁ……」
 さとみはつぶやく。長く距離を置いて生身と離れていると、霊体は戻りにくくなる。そのサインとして霊体自体に苦しい感覚が起こるのだ。
「後、三階と四階……」さとみは階段を見上げる。戻ろうと言う思いがふとよぎる。さとみは頭を振る。「ダメ! みつさのんを見つけなきゃ! 助けなきゃ!」
 自分に言い聞かせ、さとみは階段を上がる。あの夜の北階段での出来事を思い出す。さとみは周囲を見回す。明るい陽の射しこむ階段には、あの時のような禍々しい雰囲気は見られない。
 さとみは三階を回る。いなかった。苦しさが増してきている。霊体が生身から離れているだけの苦しさではないとさとみは思う。やはり、この北校舎にあの影の力が働いているのではないだろうか。さとみは不安になる。今ならまだ戻れる。それに、ここまで探しても見つからないのだから、四階にいるとは思えない。見当違いだったのだろう。弱気になるさとみだった。
「いや! しっかりするのよ、さとみ!」さとみは自分に言う。「みつさんの危機なのよ! それに、わたししか助けてあげられないのよ!」
 さとみは両手をぐっと握り締めて気合を入れる。それから、階段を上がる。
 四階に来ると、何か雰囲気が違っているように感じた。陽射しも明るいし、鳥の囀り見聞こえるし、グラウンドで体育をしている声も聞こえる。しかし、何故か、雰囲気が暗い。さとみは、みつがこの階にいると直感した。
 一番端の教室を覗く。机も椅子も一方の壁に押しつけられていて、がらんとした教室だ。教室に入ってみる。気配のようなものはなかった。
「……ここじゃないわ」
 さとみはつぶやき廊下に出る。
「わっ!」
 さとみは驚きの声を上げると、廊下に座り込んだ。少し離れた所に人が立っていたからだ。黒のビロード地のスーツの上下に黒のハイヒール、前開きにした上着から首から胸元に掛けてフリルの付いた白いシャツが見えていた。上着の手首からもフリルが覗いている。肩までの黒髪が整った顔に少し掛かっている。その人物は優しい笑みを浮かべている。
「どうしたのかな、お嬢ちゃん?」低い声だが明らかに女性だった。「ここは立ち入り禁止だよ。どこから迷い込んで来たのかな」
 相手は、さとみをうっかり迷い込んできた子供程度の持っているようだ。
「あなた……」さとみは立ち上がり、じっと相手を見つめる。「ひょっとして、ミツル?」
「ほう……」相手は目を細める。笑みが消える。「確かにわたしはミツルだよ。わたしを知っていると言う事は、ここへは目的を持って来たと言う事だね。目的とは何だね、お嬢ちゃん?」
「お嬢ちゃんじゃないわ! わたしは高校二年生よ!」
「そう……」ミツルは驚く。「ティーンエイジャーと言う訳か。わたしはてっきり小学生かと思ったよ。それだけちんちくりんだとね」
「そんな事はどうでも良いわ!」さとみはむっとする。「みつさんを返して!」
「みつを?」ミツルはくすっと笑う。その顔が悔しいが美しいと、さとみは思う。「どうしてだい?」
「どうしてって…… わたしの仲間よ、友達だわ。あなたが強引に連れ去ったって聞いたわ」
「ははは、昨日の連中だね? あの汚くて乱暴な男たちも、お嬢ちゃんの仲間なのかい?」
「ひどい事を言うのね」
「ひどくはないさ。わたしたち女性は男共のせいでいつも日陰者だった。男には許されて女には許されない、そんなものが多いのさ。だから、わたしは男が嫌い」
「それはあなたの意見だわ」
「ふん、お嬢ちゃんには分からないよ。それに、今のこういう時代じゃ尚更だ。わたしの生きた時代はひどかった……」
「だからって連れ去って良いわけないわ」
「そうかもしれない。けどね、そのせいもあって、わたしは美しい女性が好きになった」ミツルはにやりと笑う。「あの丁髷女子は、わたしが出会った中で理想的だよ。男も寄せ付けない強さと同時に女性の美しさ、品の良さ、芯の強さをも兼ね備えている。だから、手元に置いておきたい」
「そんなの勝手過ぎるわよ!」
「……ところで」ミツルは不思議そうな表情を、ぶんむくれているさとみに向ける。「君は誰だい?」


つづく

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