お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

盗まれた女神像 ①

2019年06月29日 | 盗まれた女神像(全22話完結)
「君も知っていると思うが、メルーバ教の御神体の女神像が盗まれた。ただし、この像は公開されていない。メルーバ教に写真等の提供を依頼したが拒否された。分かっているのはオラルグ石で作られている事だけだ。
 容疑者は三人。だが、三人が三人とも厄介だ。
 まず、コール人のマグ。こいつは西宙域一帯を牛耳るマフィアのボスだ。
 次は、東宙域一帯のマフィアのボス、デライ人のゼドだ。
 こいつらのファミリーは、常に抗争を繰り返している。我々も頭が痛い。
 最後は、ダスタ人のアルミーシュだ。男子禁制のヤリラ教の女教主だ。
 この三人の誰かの手中に女神像はある。
 君の任務は、犯人逮捕と女神像の確保だ」
 相変わらず、トールメン部長の指令は無理難題だ。しかも、モルバ人特有の責任丸投げ気質が殊更強く、言うだけ言うと、もう関係が無いとばかりに、座っていた回転椅子を百八十度回して背中を向けた。
 ため息をつきながら、部長のデスクに置かれた容疑者三人のファイルを手に取り、部長のオフィスを出た宇宙パトロール捜査官ジェシル・アンだった。
 自分のオフィスへ戻る途中で、以前の仕事で相棒だったカルース・モスに会った。
「おや、ジェシル。なんだかご機嫌斜めだね」カルースはいつもの低い声で言った。「また部長から無理難題の丸投げかい?」
「まあ、ね」ジェシルは苦い表情とは裏腹なかわいい明るい声で答え、腰まである豊かな黒髪を軽く揺すった。「メルーバ教の女神像の件よ」
「あれかい。勿体つけて像を公開しないもんだから、皆が腹立てて取り組もうとしなかったって事件だ。当々君の所に回って来たか」
「じゃあ、わたしはジョーカーを引いたって事なの?」
「いやいや、誰もやろうとしない事件を担当するんだ。勇気と使命感に燃えた、我々宇宙パトロ-ル捜査官の鑑だよ」
「からかっているでしょ?」
「そんな事はないよ。手伝ってやりたいけど、オレも別の事件を丸投げされててさ」
「最初から当てにはしてないわ」
「相変わらず、きついなあ。一つ屋根の下で過ごした仲じゃないか」
 カルースは笑いながら行ってしまった。……あの軽い乗りのおかげで、地球と言う未開の惑星での任務に耐える事ができたのだから、良しとしよう。ジェシルは地球での日々を思い出し、身震いした。


 つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ある男の日記 ⑤ | トップ | 盗まれた女神像 ② »

コメントを投稿

盗まれた女神像(全22話完結)」カテゴリの最新記事