お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ヒーロー「スペシャルマン」・8

2009年09月19日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、必殺技を持っていると言う事がある。
 必殺技――なんてイヤな言葉なんだ! 考えてもみてほしい。「必ず殺す技」と言う意味なのだ。正義のヒーローが口にすべき言葉じゃない、とオレは思う。だが、普通はそうは思わない。「オリジナルの決め技」程度の意味合いで使っているようだ。だったら、そう言え! とオレは思う。
 敵とは言え、ある日改心して正義の味方になる事だってあるかもしれない。オレはそう信じている。根っからの極悪人なんか、存在しないはずだ。そうでなければ、生れ落ちた瞬間に判別できるはずで、その時点で何か処遇を考えればいいのだ。だが、実際には出来ない。それが出来ないと言う事は、生れ落ちた時には分からない、と言う事なのだ。と言うことは、成長過程で良くも悪くもなるわけだ。ならば、突然、善意の固まりになる事だってありえるのではないか? オレの座右の銘は「罪を憎んで、人を憎まず」だ。オレは悪を倒し続けるが、最終的には救いたいと思っているのだ。どうだ、偉いだろう。
 そんなオレだから、攻撃は「普通に殴る蹴る」的なものが多い。どこかの仮面をつけたオートバイ乗りのヒーローのような度を越えた蹴りとか、巨大ヒーローの手から出る相手を粉々に打ち砕く光線(いつも思うのだが、誰が後始末をしているのだろう? 何とか特捜隊や、かんとか警備隊所属のお掃除部隊なのだろうか?)なんかは持ち合わせてはいない。そんな大袈裟なものはいらない。ダメージを与えるくらいでいい、とオレは思う。
 ある日、オレは恋人の翔子と公園でのデートを楽しんでいた。翔子はオレの正体を知っている。デートの途中でも、「ブラックシャドウ」が現われたなら、飛んで行く事を承知している。オレにとっては嬉しい理解者でもある。しかし、今回「ブラックシャドウ」はオレと翔子の目の前に現われた。
「翔子! 隠れていろ!」
 オレはそう言い、素早く変身をする。翔子は公衆トイレに逃げ込み、そこから様子をうかがっている。
 敵の「ブラックナイト三号」と部下の戦闘員たちとが、オレを取り囲む。
「スペシャルマン、今日こそはお前の息の根を止めてやる!」
「ブラックナイト三号」は言うと、戦闘員たちに攻撃の指図をした。一斉に戦闘員が飛び掛ってくる。オレはキックとパンチで応戦する。子供たちは「スペシャルキック」だとか「スペシャルパンチ」なんて言っているが、ちょっと強めなだけだ。それでも戦闘員たちは倒されて行く。
 いよいよ「ブラックナイト三号」との戦いとなった。と、その時だ。
「スペシャルマン! 必殺技で倒しちゃってよ!」
 ワクワクしたような口調の声がかかった。
 声の主へと振り返ると、それは翔子だった。いつの間にかトイレから飛び出して、当たり所が悪くてうんうん唸っている戦闘員の頭を思い切り蹴飛ばしながら、両手を振って叫んでいた。
 オレは戦闘中にも拘らず、溜め息をついた。翔子は分かってくれていると思っていたが、そうではなかったようだ。
 オレはいつものように「普通に殴る蹴る」的な攻撃を続けた。それでも、「ブラックナイト三号」は、ひるみ始めた。しかし、敵が弱まるにつれて、翔子の声援も弱まり始めた。
「おのれ、スペシャルマン! 今日のところは引き上げるが、次は叩き潰してやる!」
 ふらふらになりながらも「ブラックナイト三号」は捨てゼリフを吐き、瞬間移動装置を使って、倒れている戦闘員共々逃げ出した。
 変身を解き、オレは翔子に歩み寄った。翔子は腰に手を当て、不満そうにふくれっ面をしている。
「どうして、必殺技を使わないのよ!」
「オレはそんなものは必要ないと信じている」
 オレは続けて持論を展開しようとした。だが、翔子は呆れたように頭を振って見せた。
「じゃあ、必殺技を持っていないって言うわけぇ? それじゃあ、勝ってもつまんないじゃない! だっさいわねえ! ・・・わたし、帰る!」
 翔子はすたすたと歩き去ってしまった。公園の公衆トイレの前でオレはぽつんと一人残された。
 迂闊だった。ヒーローは格好良く勝たねばならなのだ。悪を改心させる事など無意味なのだ。ひたすらに格好良く、悪をぶっ殺せば良いのだ! それで、一般大衆をスカッとさせてやればいいんだ! 高潔な志など無用なのだ! こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。


           著者自註 
 この前、何気なく「キン肉マン」と言うマンガを見ていたら、なんと「スペシャルマン」なるキャラクターが存在していました。既にそういう名前のキャラが存在するとは知らなかったので、びっくりしました。偶然とはおそろしいものですねえ・・・






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