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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 33

2022年01月18日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 その夜。さとみは自分の部屋でベッドの転がっていた。ピンクのスエットを着て、ふんふんふんと鼻歌を歌いながら、膝を曲げて重ねた脚の爪先をぶらぶらと振っている。顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。

 みつを助けた後、三時限目と四時限目を目いっぱい寝て(得意の目を開けたまま寝るを使った)、すっかり回復した。昼休みにアイと朱音としのぶがやって来た。
「会長、なんだか機嫌が良いですね」アイが言う。「何か良い事があったんですか?」
「え? 会長、抜け駆けはダメですよう!」朱音が言う。「わたしたちにも教えてくださいよう!」
「そうです」しのぶが言う。「そこの所、詳しく」
「ふふふ……」さとみは笑む。「例の窓の件なんだけど、解決しちゃったの」
「ええええ~っ!」
 三人は同時に声を出すが、アイと朱音は驚居いた顔をし、しのぶは悔しそうな顔をしている。
「何があったんですか!」しのぶがずいっと前に出て、さとみに迫る。「どうやったんですか? ……あ、霊体を抜け出させたんですね」
「まあ、そんな所ね」
「じゃあ、恋人の霊の仲を裂いていた悪い霊を退治したって事ですか?」朱音もずいっと前に出る。「じゃあ、恋人たちは無事に助かったんですね!」
「まあ、そんな所ね……」さとみはきゃあきゃあ言っている朱音としのぶを見ながら言う。「なので、今日のサークルは無しにしていいかな? ちょっと疲れちゃって……」
「元気そうに見えますけど?」
「こら、朱音!」アイが叱る。「会長がおっしゃっているんだ。そんな時は舎弟はどうすると教えた?」
「すみませんでしたあ!」朱音がさとみに上半身を直角に曲げて頭を下げ、大きな声で言う。「舎弟が出過ぎましたあ! 今日はゆっくりとお休みください!」
「あ、ありがとうね……」行き交う生徒たちがひそひそ言いながら通り過ぎるのをさとみは見ながら小さな声で答える。「まあ、そう言う事なんで、松原先生には明日は中止って伝えてくれないかしら?」
「分かりましたあ!」朱音が答える。「五時限目に授業があるんで、伝えますう!」
「じゃあ、百合恵さんにはわたしから」アイが言う。「今日、百合恵さんのレストランでバイトですから」
「みんな、ありがとう」さとみはぺこりと頭を下げる。「今日の事は落ち着いたら話すわね」
「是非、お願いします!」しのぶが鼻息荒く割り込む。「それと、新たな情報があるんですけど……」
「しのぶ、今日は止めておけ」アイがしのぶを諭す。「会長はお疲れだ」
「分かりました……」しのぶはちょっと不満そうだ。「じゃあ、もう少し詳しい情報を集めておきます」
 そこへ麗子が教室から出てきた。
「あ、麗子」アイが言って麗子と並ぶ。「今日はサークルが中止だ」
「さとみから聞いたわ」麗子が言う。「残念だわぁ。楽しみにしていたのに……」
 ……な~に言ってんのよう! 「弱虫麗子」全開だったくせに! さとみは思ったが口にしなかった。しかし、小馬鹿にしたような表情が出てしまい、麗子に睨まれた。
「じゃあ、そう言う事で、今日は解散!」
 さとみが言った。
「分かりましたあ! ありがとうございましたあ!」
 アイと朱音としのぶが、上半身を直覚に曲げ、大きな声で挨拶をする。麗子は必死に他人の振りをしていた。

「……ははは、麗子ったら、幾ら他人の振りをしたって、周りはみんな仲間だって思っているわ」さとみは笑う。「……それにしても、みつさんが助かってよかったわ……」
 さとみはしみじみとつぶやいて、目を閉じる。ふと、気配を感じた。さとみは目を開けて壁を見る。そこには、正座をし両手を床に付けて頭を下げているみつの姿があった。
「みつさん!」さとみは霊体を抜け出させ、みつの前に座る。「何をしているのよう! そんな事はやめてよう!」
「いいえ」みつは頭を下げたままで言う。「わたしは自分の事ばかりを気にしてしまい、礼を申し上げるのを忘れておりました。まだまだ未熟です……」
「そんなに気にしないで。真面目過ぎるのがみつさんの困った所だわ。良い所でもあるんだけど……」
「いえ、これはけじめです」みつは言うと深く頭を下げた。「誠、有り難う御座いました」
「ええ、もう充分に分かったわ。分かったから、頭を上げて!」
「はい……」みつは顔を上げる。少し鬢が乱れている。疲れているのだろう。「一度ならず、二度も相手の術に陥るとは、修行不足を痛感します」
「そんな事無いわ。それだけ相手が強力なのよ。みつさんが敵わないんなら、わたしたち誰も敵わないわ」
「ですが、さとみ殿は一人でわたしを助けに来てくださった……」
「思い立ったら、じっとしていられなくなっちゃって……」
「勝算はあったのですか?」
「へへへ…… 何にも考えていなかった……」
「さとみ殿が黄金色に輝いていました」
「そう言えば からだから何だか明るい輝きが湧いて出たような気がしたわね。まあ、偶然なんだろうけど。みつさんを助けたいって思いがおばあちゃんに通じたのかもしれないわ」
「そうだったとしても、もう少し御身を大事になさってください」
「は~い……」さとみはぺろっと舌を出す。「偶然なんて二度はないものね」
 二人は笑い合う。
「ところで……」みつは居住まいを正す。「お聞きしたい事があります」
「何かしら?」
「わたしはミツルに拉致され、気がついたらさとみ殿が居た。わたしは咄嗟にミツルに天誅を食らわせました。その間の記憶が無いのですが、わたしはどうなっていたのでしょうか?」
「え?」
 さとみは答えに困った。ミツルの呪のせいであったとは言え、あのような、とんでもない事があったとは絶対に言えない。もし話したなら、みつは自分自身に天誅を加えるだろう。
「みつさんは、ずっと眠っていたわ」さとみは、真剣な眼差しを向けて来るみつに笑顔で答えた。「そして、ミツルはわたしも眠らせてコレクションにしようとしたの」
「そうですか……」みつはほっと息をつく。「安心しました」
 ……みつさん、ごめんなさい。でも、絶対に本当の事は言えないの! 心の中で必死に謝るさとみだった。
「ところで……」さとみは話題を変える。「あの冨美代さんのお相手の嵩彦さん、見つかった?」
「いえ、それがまだでして……」みつが困った顔をする。「冨美代殿、嵩彦殿が見つかるまで共に居たいと申されまして……」
「良いと思うけど、それが困るの?」
「冨美代殿のわたしを見る目が気になりまして……」みつは溜め息をつく。「さらに、こっそりと『素敵』などど耳元で囁かれてしまって……」
「まあ!」
 ……一難去って、また一難ね。危うく言いかけたさとみは、何とかその言葉を飲み込んだ。


つづく

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