女スパイ ヴァイオレット

「ヴァイオレット！　どうして俺だと分かったんだ！　完璧な変装だったはずだが……」
「うふふ……　男性には、どうしても変装できないところが、一か所あるものなのよ」



「ヴァイオレット！　産婦人科から出てくるなんて！　……まさか……」
「いいえ、大丈夫だったわ。ただ、この前のお相手が射撃の名手って聞いたもので、つい心配になって……」



「ヴァイオレット、僕は君にために、組織を裏切ってしまったよ……」
「まあ！　あなた、スパイだったの？」
「いや、全国チェーンの喫茶店の勤務なんだ。実はツケは禁止だけど、君のはツケにしてしまったんだ……」



「ヴァイオレット、君、楽器を習い始めたんだって？」
「ええ。でも、ちっとも上達しないのよ」
「何の楽器なんだい？」
「クラリネットよ。吹こうとするんだけど、あの形のせいで、ついつい吸っちゃうのよね……」



「ヴァイオレット、僕のからだには、まだ君の感触が残っているよ」
「あら、ありがとう。実は、わたしにもあなたの感触が残っているわ」
「そりゃ、うれしいな！」
「……近来稀に見る下手さで、なんだけれど……」