大歓声が上がった。
どこからともなく紙吹雪が降って来て、パンパンパンとクラッカーがあちこちで鳴った。印旛沼さんはやる事が派手だな、コーイチは思った。
「いやいやいやいや、西川新課長! これで営業四課は磐石になりましたねぇ! 何時かこんな日が来るとは思ってましたよ!」
林谷が拍手をしながら叫んだ。今度はオペラでアンコールを求める聴衆みたいだな、コーイチは思った。
「素敵ですわ! これからは白魔術も覚えて新課長をお助けしますわ、うふふふふ」
清水が胸元に手を当てて頬を上気させながら言った。清水さん、妙に乙女な感じだなぁ、コーイチは思った。
周りの反応とは裏腹に西川は眉間に縦皺を寄せ、つかつかと社長に方へ歩み寄った。
「社長! 本当に私で良いんですか!」
西川が真面目な顔で社長に詰め寄った。社長はやれやれと言うように頭を軽く左右に振る。
「相変わらず硬いねぇ…… ま、良いんじゃないの? Youやっちゃいなよ」
「そうそう、もともと吉田課…… いや、部長よりも、らしく見えていたしね」
北口も言い添える。
「わかりました。ですが、正式な命令書が発行されるまでは『仮課長』と呼んでもらいます」
「本当に、Youはガチガチだね!」
一堂がどっと沸いた。
「そうだ! 西川新課長の昇進祝いをやりましょう! 場所は例の無国籍レストラン『ドレ・ドル』にしましょう!」
林谷が嬉しそうに叫んだ。
「仮課長だ!」すかさず西川が言う。
「もしもし!」林谷はすでに携帯電話を掛けていた。「林谷ですが、今日の夜予約したいんだけど…… え! 百人用の大部屋しかない? ま、いいや。……はいはい、じゃ夜八時からと言う事で。支払い方法? そんな野暮は言わないの! ……そう、いつものゴールデン・オーバー・サウザンドカードで、ちゃっちゃっちゃっとやっちゃって! それから、パーティタイトルは『西川新課長昇進パーティ』で、お願いね。……はいはい、ではよろしく!」
「仮課長だ!」すかさず西川が言う。
林谷は皆の方を振り返り、
「と言うわけで、会場が百人用の場所になりました。全員ご招待ですから、皆で手分けしてどんどん人を集めましょう! せっかくですから社長も来ませんか?」
「いいねぇ。じゃ、ボーイスカウト協会の理事たちも呼んじゃおう!」
「そうですか、じゃ、ボクは親父を呼びます。あのパーティ好きの親父のことだから、勝手に友人を連れて来るでしょう。あ、そうそう、さっき駅で別れた仕立て屋君にも連絡しとこう」
林谷はまた携帯電話を掛けた。
「そういう話なら、私もさっき駅で別れた娘に連絡してみるかな。ひょっとしたらモデルのお友達も連れて来るかもしれないね」
印旛沼はそう言ってぱちんと指を鳴らした。いつの間にか携帯電話が握られていた。
「私は本を出してくれると言ってた出版社に連絡してみますわ。それと『黒仲間』にも…… うふふふふ」
清水はバッグから普通の携帯電話と真っ黒な表面に真っ赤な訳の分からない文字の書かれた携帯電話とを取り出した。
コーイチはそんな光景を呆然と見つめていた。……皆こういう事になると張り切るんだな。それにしても、なんか凄い事になりそうだぞ…… その時、ふとコーイチがある事に気付いた。
「あのう、林谷さん……」
「どうしたね、コーイチ君。君もお友達をどんどん呼んでくれよ!」
「はぁ…… いえ、そう言う事じゃなくて……」
「じゃ、なんだい?」
「昇進は、西川さんだけじゃないんですが……」
「えっ?」
「吉田課長もなんですが……」
つづく
どこからともなく紙吹雪が降って来て、パンパンパンとクラッカーがあちこちで鳴った。印旛沼さんはやる事が派手だな、コーイチは思った。
「いやいやいやいや、西川新課長! これで営業四課は磐石になりましたねぇ! 何時かこんな日が来るとは思ってましたよ!」
林谷が拍手をしながら叫んだ。今度はオペラでアンコールを求める聴衆みたいだな、コーイチは思った。
「素敵ですわ! これからは白魔術も覚えて新課長をお助けしますわ、うふふふふ」
清水が胸元に手を当てて頬を上気させながら言った。清水さん、妙に乙女な感じだなぁ、コーイチは思った。
周りの反応とは裏腹に西川は眉間に縦皺を寄せ、つかつかと社長に方へ歩み寄った。
「社長! 本当に私で良いんですか!」
西川が真面目な顔で社長に詰め寄った。社長はやれやれと言うように頭を軽く左右に振る。
「相変わらず硬いねぇ…… ま、良いんじゃないの? Youやっちゃいなよ」
「そうそう、もともと吉田課…… いや、部長よりも、らしく見えていたしね」
北口も言い添える。
「わかりました。ですが、正式な命令書が発行されるまでは『仮課長』と呼んでもらいます」
「本当に、Youはガチガチだね!」
一堂がどっと沸いた。
「そうだ! 西川新課長の昇進祝いをやりましょう! 場所は例の無国籍レストラン『ドレ・ドル』にしましょう!」
林谷が嬉しそうに叫んだ。
「仮課長だ!」すかさず西川が言う。
「もしもし!」林谷はすでに携帯電話を掛けていた。「林谷ですが、今日の夜予約したいんだけど…… え! 百人用の大部屋しかない? ま、いいや。……はいはい、じゃ夜八時からと言う事で。支払い方法? そんな野暮は言わないの! ……そう、いつものゴールデン・オーバー・サウザンドカードで、ちゃっちゃっちゃっとやっちゃって! それから、パーティタイトルは『西川新課長昇進パーティ』で、お願いね。……はいはい、ではよろしく!」
「仮課長だ!」すかさず西川が言う。
林谷は皆の方を振り返り、
「と言うわけで、会場が百人用の場所になりました。全員ご招待ですから、皆で手分けしてどんどん人を集めましょう! せっかくですから社長も来ませんか?」
「いいねぇ。じゃ、ボーイスカウト協会の理事たちも呼んじゃおう!」
「そうですか、じゃ、ボクは親父を呼びます。あのパーティ好きの親父のことだから、勝手に友人を連れて来るでしょう。あ、そうそう、さっき駅で別れた仕立て屋君にも連絡しとこう」
林谷はまた携帯電話を掛けた。
「そういう話なら、私もさっき駅で別れた娘に連絡してみるかな。ひょっとしたらモデルのお友達も連れて来るかもしれないね」
印旛沼はそう言ってぱちんと指を鳴らした。いつの間にか携帯電話が握られていた。
「私は本を出してくれると言ってた出版社に連絡してみますわ。それと『黒仲間』にも…… うふふふふ」
清水はバッグから普通の携帯電話と真っ黒な表面に真っ赤な訳の分からない文字の書かれた携帯電話とを取り出した。
コーイチはそんな光景を呆然と見つめていた。……皆こういう事になると張り切るんだな。それにしても、なんか凄い事になりそうだぞ…… その時、ふとコーイチがある事に気付いた。
「あのう、林谷さん……」
「どうしたね、コーイチ君。君もお友達をどんどん呼んでくれよ!」
「はぁ…… いえ、そう言う事じゃなくて……」
「じゃ、なんだい?」
「昇進は、西川さんだけじゃないんですが……」
「えっ?」
「吉田課長もなんですが……」
つづく
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