お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 45

2022年08月31日 | コーイチ物語 1 5) 部長・吉田吉吉  
「いやいやいやいや、吉田第二営業部長! 自分で仕事を作り出せるなんて、素晴らしい事ですねぇ!」
 林谷が両手を広げて叫んだ。青いスーツがキラキラと光った。……まるでオペラ歌手の歌うアリアの最高潮の時の様だな。
 以前、行きたくもないのに「これは見なきゃ一生涯の損だよ。僕が奢るから」と無理矢理連れて行かれたオペラの舞台を、コーイチは思い出していた。ロイヤルシートとか言う特別席で、コーイチは最後までとにかく見ていたが、その隣で林谷は最初から最後まで大いびきをかいていた。
「本っ当に良かったですわね、吉田第二営業部長。どんなお仕事をされるのか、期待してますわ。うふふふふ」
 清水が言いながら右手を動かし、空に何か書くような仕草をした。……あれは、確か「呪いの印」!
 以前、聞きたくもないのに「聞かなきゃコーイチ君にかけちゃうわよ、うふふふふ」と脅され、コーイチが約三時間教え込まれた印行だった。内容は、嫌な相手に一生涯不幸を付き纏わせるためのものだった。
「もうあの朗読会も楽しめなくなるんですねぇ…… 残念です」
 印旛沼が溜息交じりで言った。……そういえば、印旛沼さん、言ってたなぁ。
「課長の、あの起伏の無い、感情のない、だらだらとした、不快感を植えつける声質。あれが妙に脳を刺激して、これまでにいくつもの手品を考案できたんだよ。いわば、私の大いなる源泉なんだなぁ」
 ……これから新作を考えるのが大変だろうなぁ。コーイチは印旛沼に同情し、涙ぐんでしまった。
「ところで社長」北口が言った。「新営業四課の課長は誰が……」
「Oh! 相変わらずYouは先の展開を見るのに長けているね! Good!」
 社長は北口に向けて右の親指を立てて見せた。
「これはビビッと来るまでもなかったね。新課長は……」
 社長は営業四課のメンバーを一人ずつ見回した。
 コーイチの頭の中でドラムロールがドロドロドロドロと鳴っていた。
「Youだね!」
 ジャーン! とシンバルが鳴った。パパパパパパパーン! とファンファーレが響き渡った。
 社長の指先は西川に向いていた。

       つづく

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