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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 76

2009年10月15日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 浮かれたようにぽんぽんぽんと跳ね回っていた花は、コーイチの顔の前にぐいっと寄った。
「分かったわ。じゃ、今持っているかじりかけは捨てちゃって」
「ああ・・・」コーイチは素直に従った。空になった手を花に向ける。「で、次は何をするんだい?」
「お馬鹿さんねぇ・・・」花はことさら呆れた様に言って、ため息をついて見せた。「きのこのかじり方を聞いているんでしょ? だったら、新しいきのこを拾うに決まっているじゃない!」
「あ、そうだ、そうだよね」心の底に怒りを溜め込みながら、無理な笑顔を作って、しゃがみ込んだ。・・・目的のためには我慢も辛抱も不可欠だ。これ、西川課長の言葉だけど・・・ きのこを一本千切り獲って、笑顔で花に見せた。「これでいいかな?」
「・・・」花は頭を(花の部分を)左右に振る。「傘がうんと大きいやつじゃなきゃ、ダメなの。これじゃ、全然役に立たないわ!」
「・・・」コーイチはさらに笑顔を作り、しゃがみ込んだ。花から見えないようにして、ほっぺたを膨らます。それでも、うんと大きなきのこを探し続けた。・・どんな状況でも優先順位はある。見誤る者はそこで終わる。これも、西川課長の言葉だけど・・・さんざん捜して、これはと言うのを見つけ、千切り獲った。「どうだろう、これでいいかな?」
 コーイチの差し出したきのこの周りをふわふわ漂いながら、花はきのこを検分している。傘はコーイチの手よりも大きい。しかし、その割に、茎が短い。・・・よく見ると、バランスが悪いぞ。こりゃあ、ボツだなあ・・・ あきらめのため息が,知らずに漏れた。
「いいわ! これは理想的よ!」花は言って、コーイチの顔の前に浮かび上がった。コーイチは褒められて満更でもない。「よく見つけたわね。さすが、将来わたしと一緒に住むだけの事はあるわ!」
 ・・・そうだった。ここへ残るんだった。と言うことは、一緒に住むって事になるんだな・・・
「それじゃあ、かじり方を教えるわね」花はコーイチの気持ちなどお構いなしに続けた。「まずは、その傘をはずして捨てちゃって」
「え?」コーイチは思わず聞き返した。「傘の部分をかじるんじゃないのかい?」
「甘い、甘い!」花は意味ありげに含み笑いをして見せる。「それじゃ、中途半端な大きさにしかなれないわよ。さ、傘を取っちゃって」
 言われるままにする。コーイチの手には短い茎だけが残っている。
「それを丸ごと口に入れて、がりがり噛み砕いて、飲み込むのよ!」
「これをかい・・・」コーイチは茎を目の前に持って来た。赤やら青やら緑やらの筋が入り乱れている。それに、あまり良い香りがしない。思わず眉間に皺が寄る。「本当にこれを・・・」
「そうよ! さっさとやるのよ!」花の口調が厳しくなった。「あなた、助けに行くんでしょ?」
 そうだった。逸子さん、芳川さんを助けるんだ! 鉛筆と消しゴムを奪い返すんだ! ぐちぐちと考えている時間はないんだ! ・・・大分、寄り道した気はするけど・・・
 コーイチは目を閉じ、一気に口へ放り込んだ。言われた通りにがりがりと噛み砕く。途端にコーイチの両目が見開いた。
「あ、言い忘れていたけど、これって、とっても苦いのよねえ」花は楽しそうに言うと、吐き出そうとするコーイチの口へ両の葉を当てがった。「これを飲み込まなきゃ、あなたの思った通りの体型にはならないのよ!」
 涙を流しながら、コーイチはがりがりと噛み砕き、ごくりと飲み込んだ。


       つづく




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