アパートへ戻る途中、いつも利用しているコンビニエンス・ストアに寄った。
いつもと言っても、たまに深夜に夜食のパンと牛乳を買いに来るくらいだが、その時の店員は、長い髪を後ろでぎゅっと縛った一見ロックバンドをやってそうな、若い無愛想なアルバイトの男で、下を向きっぱなしでレジ操作をしていた。
しかし、朝は、恰幅の良いおばさんだった。コーイチは散々迷って、いつものようにパンと牛乳を持ってレジへ向かった。
「あっしゃいませー! パンが百円! 牛乳が八十円! 合計が百八十円でーし!」
恰幅だけでなく、声も大きいおばさんだった。しかも少し発音が変わっていた。店内にいた女子高生らしい三人組が、ちらちらこちらを見ながらくすくす笑っていた。
おばさんは丁寧に袋に入れてくれた。コーイチはそれを恭しく受け取り「ありあとござっした! またどーぞ!」の大声と共に店を出た。
アパートに戻り、いつものジャージ姿になる。六畳一間の部屋の真ん中にでんと座って、買ってきたパンをかじり、牛乳を飲む。
そういえば、明日は、所属している営業四課の定例会議があるはずだ。
吉田課長はいつも会議用に分厚い資料を作って事前に配布し、目を通しておくようにと課員全員に言い渡す。
だが、誰も読みはしない。
なぜなら、会議はこの資料を吉田課長が偉そうにただ読むだけ、それだけで一日を費やす。そして最後に「何か質問はないか、ないな」の一言で終わる。
こんなつまらない事をしているんなら、お得意先回りの方がよほど役に立つのにと言うのが、同僚たちの一致した見解だった。
たぶん吉田課長は会議を自分を偉そうに見せる場所にしているんだ。家じゃ奥さんの尻に敷かれっぱなしなんだろう。子供たちにもバカにされ、居場所がないんだろう。会社が唯一の居場所なんだろう。そんなことを考えていると、コーイチは気の毒なような可笑しいような気分になった。
そうだ、今日は暇だし、資料を読んで、吉田課長の決めゼリフ「何か質問はないか、ないな」の時に、もの凄い質問をして困らせてやろう。そして、会社にも居場所をなくしてやろう。
コーイチはにたにたしながらカバンを引き寄せた。それからカバンを逆さにして、中味を布団の上に撒き散らした。
……おや?
つづく
いつもと言っても、たまに深夜に夜食のパンと牛乳を買いに来るくらいだが、その時の店員は、長い髪を後ろでぎゅっと縛った一見ロックバンドをやってそうな、若い無愛想なアルバイトの男で、下を向きっぱなしでレジ操作をしていた。
しかし、朝は、恰幅の良いおばさんだった。コーイチは散々迷って、いつものようにパンと牛乳を持ってレジへ向かった。
「あっしゃいませー! パンが百円! 牛乳が八十円! 合計が百八十円でーし!」
恰幅だけでなく、声も大きいおばさんだった。しかも少し発音が変わっていた。店内にいた女子高生らしい三人組が、ちらちらこちらを見ながらくすくす笑っていた。
おばさんは丁寧に袋に入れてくれた。コーイチはそれを恭しく受け取り「ありあとござっした! またどーぞ!」の大声と共に店を出た。
アパートに戻り、いつものジャージ姿になる。六畳一間の部屋の真ん中にでんと座って、買ってきたパンをかじり、牛乳を飲む。
そういえば、明日は、所属している営業四課の定例会議があるはずだ。
吉田課長はいつも会議用に分厚い資料を作って事前に配布し、目を通しておくようにと課員全員に言い渡す。
だが、誰も読みはしない。
なぜなら、会議はこの資料を吉田課長が偉そうにただ読むだけ、それだけで一日を費やす。そして最後に「何か質問はないか、ないな」の一言で終わる。
こんなつまらない事をしているんなら、お得意先回りの方がよほど役に立つのにと言うのが、同僚たちの一致した見解だった。
たぶん吉田課長は会議を自分を偉そうに見せる場所にしているんだ。家じゃ奥さんの尻に敷かれっぱなしなんだろう。子供たちにもバカにされ、居場所がないんだろう。会社が唯一の居場所なんだろう。そんなことを考えていると、コーイチは気の毒なような可笑しいような気分になった。
そうだ、今日は暇だし、資料を読んで、吉田課長の決めゼリフ「何か質問はないか、ないな」の時に、もの凄い質問をして困らせてやろう。そして、会社にも居場所をなくしてやろう。
コーイチはにたにたしながらカバンを引き寄せた。それからカバンを逆さにして、中味を布団の上に撒き散らした。
……おや?
つづく
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