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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 4

2022年08月24日 | コーイチ物語 1 1) 黒皮表紙のノート 
 カバンからどさっと出てきたのは、事務パートのくせに字は汚い、パソコンもコピー機も満足に扱えない、毎日短いスカートをはいてきて、太ももをちらちらと吉田課長に見せつけている川村静世がホチキス止めをしたに違いない、がたがたになって綴じられている各三十ページで全五冊の会議用資料。続けてひらひらと朝のテレビ占いの「今日は思い切って告白しましょう。ラッキーアイテムはペアの映画チケット!」を信じて買ったものの、告白相手がいない事に気づき、そのままになった正月映画『おいらはつらいよ! 米次郎、二番星にお願い』のチケット二枚。
 それと、全く見覚えのない黒いもの……
 よく見ると、黒い表紙のA4サイズのノートだった。簡単に開けないようにするためか、赤い紐のようなもので何重にも縛られている。
 手に取ってみた。
 表と裏の表紙が、珍しい動物の皮で出来ているのだろうか、ごわごわしたイヤな感触とつんと鼻をつくイヤな臭いとがしていた。
 コーイチは同じ課の清水薫子の持ち物ではないかと思った。二つ上の先輩だが、いつもコーイチ相手に幽霊だの悪霊だのの話ばかりをする。いつもカメラを持ち歩き何かを感じるとシャッターを押す。出来た写真をコーイチに見せながら「ここに何か見えるでしょ? 見えないの? 見えないと祟られるわよ。うふふふふ」と、目だけ笑っていない笑顔で話す。
 あの人ならこんなへんなノートを持っていても不思議じゃないな。
 でも待てよ……
 四つ上の林谷晋吾の可能性も捨て難い。実家が大富豪だそうで、見たことも無い高級銘柄のタバコを吸っていたり、聞いたこともない高級ブランドのスーツを着てきたり、とにかく珍しい高級品が好きなようだ。ただそれが食べるものにも波及し、コーイチも連れて行ってもらった無国籍レストラン『ドレ・ドル』の、数万円もした味も素っ気もない一口で終わってしまう野菜炒めのような料理を「これこそが最高級の味だよ、コーイチ君! また来ようではないか、わっはっはっは!」となってくると困りものだ。さすがに奢りだから文句は言えないが。
 ……しかし、清水さんのにしても、林谷さんのにしても、どうやってこのカバンに潜り込んだんだろう?
 コーイチは腕を組んで考え込んでしまった。

             つづく   


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