「じゃあさ、お礼じゃなかったら、何だって言うんだい?」コーイチは言う。「ぼくには見当もつかないよ」
「あのねえ、コーイチさん……」逸子が言う。「お礼の反対よ」
「反対……?」コーイチはつぶやきながら考え込む。「反対って事は、いわゆるクレーム?」
「クレームではないな」ケーイチが言う。「なんたって、タイムマシンを使っているのだからな。クレームなら、こんなもの使えるかって事になるだろう?」
「そうだよね…… じゃあ、何だろう?」コーイチは腕組みして考える。「お礼の反対で、クレームじゃなくて……」
「連中はコーイチさんだけに話があるようだったわね」逸子が言う。「と言うか、タイムマシンの問題を解決したコーイチさんに用があるみたいだったわ」
「じゃあ、ぼくを未来に連れて行こうと言う事なのかな?」コーイチは言って笑った。「ははは、そんな事したって、ぼくはタイムマシンの事なんて何にも分からないんだよ。万が一、未来の学会に呼ばれて、何か話せって言われても、何にも話せない」
「だがな、連中の様子じゃ、未来の学会へのご招待と言う感じではなかったな……」
「そうね。まるで捕まえてやろうって雰囲気だったわ……」
ケーイチと逸子はコーイチを見た。妙な沈黙が広がっている。
「え? え?」沈黙に耐えきれず、コーイチが不安そうな顔をする。「それじゃ、何? ぼくが未来人に捕まってしまうって事なのかい?」
「そう言うことになるな」ケーイチが重々しく言う。「場合によっては、お前を亡き者にしたいのかもしれん。理由は分からないがな」
「だって、タイムマシンの完成に貢献したんだよ。それなのに、どうして……」
「理由は分からないと言っているだろうが。まあ、可能性としては、タイムマシンが未来に良からぬ影響を与えてしまったからかもな」
「でもさ、でもさ!」コーイチは必死に言い返す。「もし、タイムマシンが邪魔なものならば、トキタニって人が電話をする時点に現われて、ケーイチ兄さんと話をさせなければいいじゃないか!」
「そんな事をしたら、タイムマシンは存在しなくなる」
「それが目的なんだろう?」
「……いいか、コーイチ……」ケーイチは慌てふためくコーイチの両肩に自分の両手を置いて、落ち着かせようとする。「もし、トキタニ氏とオレとの会話をさえぎって、タイムマシンが完成しなかったら、それを阻止すべくタイムマシンで来た連中はどうなると思う?」
「どうなって……」コーイチは考え込む。「……乗って来た車が無くなるって考えたら、帰れなくなるけど、それと同じかな…… でも、そうなっちゃうと、タイムマシンが完成していない未来から、タイムマシンでそのトキタニって人のところに来たことになるのか…… でもさ、現にタイムマシンで来たんだよ。それが無い事になっちゃうんだよ。え? タイムマシンのある未来とない未来があるって事か? 訳が分かんないよう!」
「落ちつけ、コーイチ」ケーイチが諭すように言う。「タイムマシンは実際にあるのだから、完成をさせたくないと言う事はあり得ない」
「でも、未来に悪い影響を与えたかもって、兄さんが言うから……」
「オレは、タイムマシンの存在よりも、タイムマシンの使い方が問題ではないかと思うのだ」
「使い方?」
「そうだ。なぜ、連中がここに来て、コーイチを捜しているのかを考えるとだ、タイムマシンを人探しに使っているようだ」
「それはいけないことなのかい?」
「いけなくはないだろうが、何か良からぬ事のような気がする」
「でもさ、本当はケーイチ兄さんがタイムマシンの完成に貢献したんだよ! もし今度現われたらその点をしっかり伝えなきゃ!」
「無理だな。未来では、コーイチの一言でタイムマシンが完成したって歴史が出来上がっているんだよ」
「そりゃあ、ぼくには迷惑な話だな……」
「そう言うな。歴史なんてのは実際にはどうなっているかなんて、当事者じゃなきゃ分からないものだ」
「でも、兄さんは悔しくないのかい? 本当は兄さんの功績じゃないか!」
「オレはオレの理論が正しいと言う事が証明されたから、それで良い」
「そんなぁ…… それだと、タイムマシン完成のコーイチは、ぼくって事になるじゃないか!」
「まあ、良いじゃないか」
「良くないよ! それに、どうして未来からやって来るのかも分からないままじゃないか!」
「そうだったな……」ケーイチは軽く咳払いをして改まった。「その点について考察してみたのだがな……」
「うん」コーイチは期待のこもった眼差しを兄に向けた。「考察の結果は?」
「そうだな……」ケーイチはにやりと笑った。「オレにも全く分からんよ」
「どわああああっ!」
コーイチは叫ぶと、床に転がった。
つづく
「あのねえ、コーイチさん……」逸子が言う。「お礼の反対よ」
「反対……?」コーイチはつぶやきながら考え込む。「反対って事は、いわゆるクレーム?」
「クレームではないな」ケーイチが言う。「なんたって、タイムマシンを使っているのだからな。クレームなら、こんなもの使えるかって事になるだろう?」
「そうだよね…… じゃあ、何だろう?」コーイチは腕組みして考える。「お礼の反対で、クレームじゃなくて……」
「連中はコーイチさんだけに話があるようだったわね」逸子が言う。「と言うか、タイムマシンの問題を解決したコーイチさんに用があるみたいだったわ」
「じゃあ、ぼくを未来に連れて行こうと言う事なのかな?」コーイチは言って笑った。「ははは、そんな事したって、ぼくはタイムマシンの事なんて何にも分からないんだよ。万が一、未来の学会に呼ばれて、何か話せって言われても、何にも話せない」
「だがな、連中の様子じゃ、未来の学会へのご招待と言う感じではなかったな……」
「そうね。まるで捕まえてやろうって雰囲気だったわ……」
ケーイチと逸子はコーイチを見た。妙な沈黙が広がっている。
「え? え?」沈黙に耐えきれず、コーイチが不安そうな顔をする。「それじゃ、何? ぼくが未来人に捕まってしまうって事なのかい?」
「そう言うことになるな」ケーイチが重々しく言う。「場合によっては、お前を亡き者にしたいのかもしれん。理由は分からないがな」
「だって、タイムマシンの完成に貢献したんだよ。それなのに、どうして……」
「理由は分からないと言っているだろうが。まあ、可能性としては、タイムマシンが未来に良からぬ影響を与えてしまったからかもな」
「でもさ、でもさ!」コーイチは必死に言い返す。「もし、タイムマシンが邪魔なものならば、トキタニって人が電話をする時点に現われて、ケーイチ兄さんと話をさせなければいいじゃないか!」
「そんな事をしたら、タイムマシンは存在しなくなる」
「それが目的なんだろう?」
「……いいか、コーイチ……」ケーイチは慌てふためくコーイチの両肩に自分の両手を置いて、落ち着かせようとする。「もし、トキタニ氏とオレとの会話をさえぎって、タイムマシンが完成しなかったら、それを阻止すべくタイムマシンで来た連中はどうなると思う?」
「どうなって……」コーイチは考え込む。「……乗って来た車が無くなるって考えたら、帰れなくなるけど、それと同じかな…… でも、そうなっちゃうと、タイムマシンが完成していない未来から、タイムマシンでそのトキタニって人のところに来たことになるのか…… でもさ、現にタイムマシンで来たんだよ。それが無い事になっちゃうんだよ。え? タイムマシンのある未来とない未来があるって事か? 訳が分かんないよう!」
「落ちつけ、コーイチ」ケーイチが諭すように言う。「タイムマシンは実際にあるのだから、完成をさせたくないと言う事はあり得ない」
「でも、未来に悪い影響を与えたかもって、兄さんが言うから……」
「オレは、タイムマシンの存在よりも、タイムマシンの使い方が問題ではないかと思うのだ」
「使い方?」
「そうだ。なぜ、連中がここに来て、コーイチを捜しているのかを考えるとだ、タイムマシンを人探しに使っているようだ」
「それはいけないことなのかい?」
「いけなくはないだろうが、何か良からぬ事のような気がする」
「でもさ、本当はケーイチ兄さんがタイムマシンの完成に貢献したんだよ! もし今度現われたらその点をしっかり伝えなきゃ!」
「無理だな。未来では、コーイチの一言でタイムマシンが完成したって歴史が出来上がっているんだよ」
「そりゃあ、ぼくには迷惑な話だな……」
「そう言うな。歴史なんてのは実際にはどうなっているかなんて、当事者じゃなきゃ分からないものだ」
「でも、兄さんは悔しくないのかい? 本当は兄さんの功績じゃないか!」
「オレはオレの理論が正しいと言う事が証明されたから、それで良い」
「そんなぁ…… それだと、タイムマシン完成のコーイチは、ぼくって事になるじゃないか!」
「まあ、良いじゃないか」
「良くないよ! それに、どうして未来からやって来るのかも分からないままじゃないか!」
「そうだったな……」ケーイチは軽く咳払いをして改まった。「その点について考察してみたのだがな……」
「うん」コーイチは期待のこもった眼差しを兄に向けた。「考察の結果は?」
「そうだな……」ケーイチはにやりと笑った。「オレにも全く分からんよ」
「どわああああっ!」
コーイチは叫ぶと、床に転がった。
つづく
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