お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

蚊取り線香の思い出

2021年06月26日 | Weblog
 今は電子マットやスプレーなんかで蚊を退治するが、昔は蚊取り線香一択だった。

 真四角な紙製の箱型パッケージに渦巻き状の蚊取り線香が二本、それぞれの渦巻きの間に挟み込み合うように並んで何段にも重なっていた。その並び具合に幼心に感心したものだった。また、長方形で中央部に切り込みが入っている柔らかな金属の薄い板が付いていて、その切り込みを立てると先端がやや細く丸く突起している。それを蚊取り線香の中心部(蚊取り線香の最終部分でもある)のやや太くなったところの細い穴に差し込む。それで蚊取り線香は倒れることなく使えるようになる。その仕組みにも感心したものだった。

 準備の出来た蚊取り線香を大きめの平らな皿の上に置き、先端部にマッチやライターで火をつけると、しばらくして煙が立ち上り、あの独特の、まさに線香の香りがしてくる。

 金属製の洗濯ばさみ(今もあるのか分からないが)で蚊取り線香の途中を挟んでおくと、そこで火が消えるようになっていた。皿の上には、渦巻き状の灰が、ところどころ壊れながら落ちていた。

 子供時分に嫌だったのは、線香の煙の効き目で蚊がゆらゆらと床に落ち、それを父が拾い上げ、まだ燃えている線香の、赤く燃えている火の上に置く事だった。じゅっと言う音がして、一瞬焦げくさい臭いがする。それをする父が得意げに笑うのも嫌だった。「父さん、それは残酷だよ」と文句を言うと「手でぺちゃんこにつぶすのだって残酷じゃないか?」と言われて、何も言えなくなったのを覚えている。


 そんな事を思い出しながら、蚊に転生したオレは、今日も人の血を求めて飛び回る。 

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