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ジェシル、ボディガードになる 150

2021年06月25日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
「ムハンマイド!」
 格納庫にジェシルの声が響く。修理道具を準備していたムハンマイドが顔を上げた。
「ジェシル、何かあったのか?」ムハンマイドの表情が強張る。「まさか、オーランド・ゼムか、ミュウミュウが……」
「いえ、そうじゃないわ」ジェシルは明るく答える。「ミュウミュウはオーランド・ゼムが見てくれているわ。なので、わたしはあなたのボディガードってわけよ」
「子供じゃないって、言っただろう!」ムハンマイドはむっとして言い返す。「ボクにも覚悟が出来たんだ。分かってくれたと思ったんだけどね」
「でもね、あなたにもしもの事があると、宇宙船が飛ばないでしょ? しかも、この星は通信が出来ないし。もしもの事が起こっちゃうと、死ぬまでここに居なくちゃならないわ。そんなの御免だわ!」
「……なるほどね」ムハンマイドは納得したように深くうなずく。「その判断は賢明だな。確かにボクが殺されてしまったら、そこでおしまいだな」
「そう言う事よ。だから、わたしが見張っているわ」ジェシルは言うと、腰のホルスターから熱線銃を抜き取る。「まあ、わたしに任せて」
「分かった。じゃあ、ボクは修理に専念するとしよう」ムハンマイドはそう言うと、ハービィに向いた。「ハービィ、準備は出来ているかい?」
「完了しておりましてございますです」
 ハービィは言うと、道具の入った袋を両手で持ち上げた。ぎぎぎと油切れの音がする。
「……ハービィ、昨日も思ったんだけど、あなたが壊れちゃうんじゃないかって、心配だわ」
「ハニー。わがはいのからだはアーレムフィット合金で作られているのだ。だから、丈夫なのだ」
「そうなんだ……」ジェシルは答えた。……アーレムフィット合金なんて聞いた事が無いわ。きっと、大昔の素材なのね。今はもっと別な素材だわ。ジェシルはそう思ったが口には出さず、何となく得気げな様子のハービィに笑顔を向けた。「じゃあ、頼りになるわね」
「任せておいてくれたまえ、ハニー」
 ハービィはオーランド・ゼムのような口振りで答えると、袋を持って外へと出て行った。
「なんだか、ハービィ、張り切っているようだなぁ……」ムハンマイドはハービィの後ろ姿を見てつぶやく。「君が関係しているようだね」
「オーランド・ゼムの話だと、ハービィはわたしがお気に入りらしいわ」
「それで君をハニーって呼んでいるのか!」ムハンマイドは驚いたようだ。「ボクは単に君のニックネームだと思っていたよ! その割に、ハービィ以外は使わないから不思議に思っていたんだ」
「小さな事に気が回るのねぇ……」ジェシルは呆れた顔をする。「でも、そう言う事なのよ」
「ちょっと、待てよ……」ムハンマイドは腕組みをして考え込む。「じゃあ、何か? アンドロイドが、いわゆる恋心を抱いたって言うのか? そんな話、聞いた事が無いぞ」
「わたしだって初めての経験よ」ジェシルはハービィが出て行った格納庫の出入り口を見る。「……でもね、悪い気はしないわ」
「……アンドロイドと人の恋愛か……」ムハンマイドはつぶやく。「とても興味深いテーマだな。……最近なら、恋愛をするようにとプログラムしておけば、可能だろう。……でも、ハービィが作られた頃には、そんなプログラムは無かったはずだ。と言う事は、ハービィ自身で学習したって事だろう? これって、凄い事じゃないのか!」
「あのねぇ……」ジェシルは勝手に興奮しているモハンマイドを、うんざりした表情で見つめる。「その研究はこのミッションが終わってからにしてくれない? 今は、宇宙船の修理が最優先でしょ!」
「……え?」ムハンマイドは夢から覚めたような顔でジェシルを見る。「ああ、そうだったな。修理が先だった。……それにしても、これは面白いテーマだぞ」
「それは良いから!」
 ジェシルはムハンマイドの背中を押しながら外に出た。
 外では、ハービィが小型ジェット推進装置を腰回りに装着した姿で立っていた。両手で道具の入って袋をぶら下げている。
「ハービィ、待たせたね」ムハンマイドは言うと、自分も推進装置を装着した。「では、始めようか」
「ハービィ、わたしがあなたとムハンマイドを守るわ」ジェシルは冗談めかして言う。「だから、安心して作業をしてね」
「ハニー、わがはいが、ハニーを守るのだ」ハービィが答える。「それが逆になるのか?」
「そうね、この修理作業が終わるまでの間ね」
「そうか……」
 ハービィは言うと、動きが止まった。
「ハービィ、始めるぞ」ムハンマイドはハービィの肩を叩く。しかし、ハービィに反応が無い。「……おい、ハービィ」
「ムハンマイド、ハービィは計算中なのよ」
「何を計算してるんだ?」
「修理が終わるまで、わたしがハービィを守るって言ったじゃない? ハービィにはそれが許しがたい話なのよ。だから、出来るだけ早く修理を終わらせる方法を思索中なのよ」
「……良くそんな事が分かるものだなぁ……」ムハンマイドは感心したようにつぶやく。「ジェシル、ひょっとしたら、君とハービィは相思相愛なんじゃないのか?」
「ふふふ、それはどうかしら?」ジェシルは笑む。「……そろそろ答えが出そうだわ」
「ムハンマイド」ハービィがぎぎぎと音を立てながら頭をムハンマイドに向ける。「今から休まず夜まで作業すれば、日付が変わる前に完了しますです。さあ、始めましょう」


つづく

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