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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 24

2022年01月09日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 校門でたむろっていると、用務員の高島さんがやって来た。アイの合図で、朱音としのぶは高島さんの前に出て「おはようございますぅぅぅ! よろしくお願いいたしますぅぅぅ!」と大きな声で挨拶し、からだを直覚に曲げて礼をする。
「はい、おはようございます……」高島さんは驚いている。「皆さん、お揃いで。昨日は二人だったのに、松原先生まで……」
「いやいや、ボクはこの子たちのサークルの顧問でしてね」松原先生が言う。「こんな早くから生徒だけで活動って言うのも何ですからね」
「ほう、教育熱心ですなぁ」高島は感心している。「……それで、そちらのご婦人は?」
「ははは、我がサークルの特別顧問です。関心がおありとかで、いらっしゃったんですよ」
「初めまして、百合恵と申します」百合恵は言うと飛び切りの笑みを高島さんに送る。高島さんは相好を崩す。「まあ、素直な方ですわね」
「いやあ、朝から目の保養をさせてもらいましたよ」高島さんは照れくさそうに頭を掻く。「……では、少し早いですけど、行ってみますか?」
「はい! ぜひお願いしますぅ!」しのぶがずいっと前に出てきて鼻息荒く言う。興奮が押さえきれない様子だ。「わたし、デジカメ持って来たんです!」
「ほう、用意が良いねぇ……」高島さんは一応褒めはしたが、呆れ顔だ。「それだけ準備していれば、手形も喜ぶだろう」
 皆はぞろぞろと高島さんを先頭に、松原先生と百合恵、朱音としのぶ、アイと麗子、最後はさとみだ。途中で、しのぶは高島さんと並び、手形の様子などを聞いている。心霊モードが全開だ。朱音は今になって眠くなってきたのか、当たり憚らず大きなあくびを連発している。アイは不機嫌な麗子を宥めるように肩に手を置いて並んで歩いている。さとみは振り返る。学校に入れない豆蔵たちを心配そうに見ていた。豆蔵はにやりと笑い右人差し指で上を指し、皆でふわりと浮いて行った。三階の窓の外で待っているのだろう。
 裏の職員専用出入口から入る。高島さんは自分の下駄箱から運動靴を出す。松原先生は素早く自分と百合恵のためにスリッパを出す。生徒の分は出さない。朱音としのぶがスリッパを並べた。アイの教育が行き届いているようだ。
 ぺたぺたとスリッパの音を立てながら三階へと向かう。
「松原先生にはぜひ黙っていて頂きたい事があるんですが」高島さんは三階の用具室の前で、松原先生に振り返る。「実は、昨日のうちにここの鍵を持って帰りましてね。本来は事務所で保管するものなんですが、朝一でと、生徒さん方と約束をしたもので……」
「ははは、良いですよ、ボクは気にしません」
「まあ、心の広い先生です事」百合恵が松原先生を見ながら言う。続いて、高島さんを見る。「あなたも生徒さん思いですわね。素敵ですわ」
 百合恵に褒められた男二人は照れくさそうにしている。
「……じゃあ、ま、開けましょう」
 高島さんは咳払いをして鍵を開ける。ぎぎぎと蝶番が小さく軋む。しのぶが待ち切れずに最初に飛び込んだ。
「うわああっ!」しのぶの叫び声がする。恐怖では無く歓喜の叫びだ。「これは! これは凄いですぅ!」
「なになに? どうなってんの!」朱音も叫びながら飛び込んで行く。そして、すぐにしのぶに負けないほどの歓喜の叫びを上げた。「うっひゃあぁぁぁ!」
「おい、お前ら、うるせぇぞ!」アイが怒鳴りながら入って行く。「うおっ! こりゃぁ……」
 麗子はさりげなく後ろへと下がっている。顔が青褪めている。
 さとみは麗子の様子に気づくことなく、用具室へと入って行く。
 窓ガラスには手形が付いていた。だが、それは、高島さんが言っていた、重なり合う男女の手形とは違い、乱雑に手形が付いていた。さらには、室内の壁にも幾つもの手形が付いていた。しのぶと朱音はきゃあきゃあ言いながら、あちこちを撮影して回っている。
「凄いですね! これだけの霊障が残っているなんて!」しのぶは興奮している。「窓ガラスだけだと思っていたんですけど、壁にもあるなんて、最高ですね! ね、会長!」
「え? ああ、そうね……」
 さとみは気もそぞろと言った様子だ。目は窓や壁を行き来している。さとみには窓の外に集まっている豆蔵たちが見えている。その時、ぽんと肩を叩かれた。振り返ると百合恵が立っていた。百合恵はサングラスを外した。厳しい眼差しで周囲を見回している。それから、窓の傍へと向かう。
「あのさ……」百合恵は窓の外にいる豆蔵に言う。「窓に付いている両手で叩いたような跡って、豆蔵?」
「……へい、そうだと思いやす」豆蔵がうなずく。「竜二さんも叩いておりやしたら、二人の分かと」
「そう。外の出されちゃってからの分ね」
「何とかミツルを止めようとしたんですが、出来やせんでした」豆蔵が悔しそうに言う。「こんな薄っぺらいものが超えられねぇなんて、情けなくって……」
「それだけ、相手の力が強かったのね」百合恵は室内を見回す。「部屋の手形は?」
「おそらくですが、ミツルと闘ったみつ様や虎之助さんたちのじゃねぇかと……」
「わたくしは、ただただ震えておりました……」冨美代が申し訳なさそうに言う。「何も出来ませんでした……」
「ミツルって、相当強かったわ」虎之助が言う。「あの力は修行だけじゃ身に付かないわね」
「やっぱり、あの影が手助けしていると考えた方が良いわね……」百合恵はさとみに振り返る。「さとみちゃん、これはちょっと大変よ」
「そうなんですか……」さとみは緊張した面持ちだ。「みつさん、何処にいるんでしょう……」


つづく

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