エリは赤い瘤の上を勢い良く転がった。やっと止まると、呻きながら上半身を起こす。目が回っていた。
「うえっ!」正気に戻った途端にエリは顔をしかめ、鼻と口を手で覆う。「イヤな臭い!」
押さえたまま周囲を見回す。赤い瘤で作られた広大な空間が、毒々しいまでの赤い光と腐臭で満ちて拡がっていた。見える範囲に葉子と妖介は居なかった。
「これは・・・」手を下ろし、呆然とした表情でエリは呟いた。「かなりヤバイかも・・・」
いつものように肩からぶら下げているバッグに手を伸ばす。しかし、バッグは無かった。気がつくと、握り締めていた葉子の『斬鬼丸』も無かった。転がっている間に離れたのだろう。周囲を改めて見回す。エリのバッグは少し離れた所に転がっていた。葉子の『斬鬼丸』は見つからない。
「ま、良いや。とりあえずはわたしの『斬鬼丸』・・・」
ゆらゆらと立ち上がったエリの足元が大きく揺れた。瘤の空間は新たな獲物に敏感に反応したのだ。溜まらずエリは尻餅をつく。
「なんなのよう!」エリは文句を言う。「妖魔のクセに生意気よっ!」
突然、開いた脚の間から瘤が塔のように盛り上がり始める。
「うわあ!」エリは悲鳴を上げた。「何のつもりよう!」
足元が揺れていて、身動きが出来ない。盛り上がり続ける塔は、座り込んでいるエリが見上げるほどの高さになっている。
「絶体絶命ってやつかあ・・・」塔を見上げてエリが諦めたように言った。「妖介とお姉さんは居ないし、身動きは出来ないし、『斬鬼丸』は取れないし、お姉さんのは、どっか行っちゃうし・・・」
盛り上がった塔から枝のようなものが四本、エリに向かって伸びだした。身動きの取れないエリの手首と足首のその先端が絡みついた。強い力で締め上げられる。
「いやっ! なにすんのよう! 放しなさいよう!」
エリは四肢を振り回すが、外れない。絡みついた四本は左右に開き始める。腕と脚が大きく開かれた。
「ちょっと、やめてよう!」エリは抗うが、動かせるのは頭と胴だけだった。「まだ嫁入り前なんだからあ!」
塔から新たに三本がエリに向かって伸び始めた。三本は、二本は並行に、一本はそれより下に向かった。先端が人の手の形になった。エリはそれらの向かう先に気がついた。
「本当、やめてよう! わたし、見られたことはあっても、触られたことはないんだからあ!」
伸びた三本の手に生じた指が淫靡に蠢く。エリは目をきつく閉じ、顔をそむけた。無意識に全身に力が入る。
「・・・」胸に触られた感触があった。次いで、太腿ににちゃにちゃしたものが触れた。「イヤだああ!」
不意に掴まれていた感触、触れられた感触が全て消えた。
エリは手足を広げたままの格好で、恐るおそる目を開けた。塔は無かった。黒い靄のようなものが漂い、消えた。腕が肩からだらりと下がった。
「・・・『斬鬼丸』・・・?」エリは身を起こし、塔のあった場所に転がっている葉子の『斬鬼丸』に手を伸ばした。「わたしを助けてくれたの・・・?」
途端に『斬鬼丸』が光り出した。慌てて手を引っ込める。『斬鬼丸』は静かに明滅を繰り返している。エリは再び手を伸ばす。熱くはなかった。エリは『斬鬼丸』を拾い上げると強く握り締めた。
「わっ!」突然、白く光る刀身が伸びた。エリは、頭上より高く伸びた刀身を呆けたように見上げた。「すっごーい・・・」
『斬鬼丸』はさらに輝きを増した。エリは思わず目を細める。『斬鬼丸』の抑え切れずに溢れ出る力のせいなのだろうか、握り締めたエリの手が小刻みに震える。
「もうダメ! 持ってられない!」
エリが手を放そうとした時、『斬鬼丸』が意思を持ったかのように、切っ先の向きを大きく変えた。その勢いでエリは尻餅をついた。しかし、両手で『斬鬼丸』を握り締めたまま、腕が真っ直ぐに伸びている。
「・・・分かった! この方向に妖介とお姉さんが居るのね!」エリは立ち上がった。周りを見回す。転がっているバッグに目を留めた。「でも、わたしのバッグくらいは拾わせてよう」
つづく
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「うえっ!」正気に戻った途端にエリは顔をしかめ、鼻と口を手で覆う。「イヤな臭い!」
押さえたまま周囲を見回す。赤い瘤で作られた広大な空間が、毒々しいまでの赤い光と腐臭で満ちて拡がっていた。見える範囲に葉子と妖介は居なかった。
「これは・・・」手を下ろし、呆然とした表情でエリは呟いた。「かなりヤバイかも・・・」
いつものように肩からぶら下げているバッグに手を伸ばす。しかし、バッグは無かった。気がつくと、握り締めていた葉子の『斬鬼丸』も無かった。転がっている間に離れたのだろう。周囲を改めて見回す。エリのバッグは少し離れた所に転がっていた。葉子の『斬鬼丸』は見つからない。
「ま、良いや。とりあえずはわたしの『斬鬼丸』・・・」
ゆらゆらと立ち上がったエリの足元が大きく揺れた。瘤の空間は新たな獲物に敏感に反応したのだ。溜まらずエリは尻餅をつく。
「なんなのよう!」エリは文句を言う。「妖魔のクセに生意気よっ!」
突然、開いた脚の間から瘤が塔のように盛り上がり始める。
「うわあ!」エリは悲鳴を上げた。「何のつもりよう!」
足元が揺れていて、身動きが出来ない。盛り上がり続ける塔は、座り込んでいるエリが見上げるほどの高さになっている。
「絶体絶命ってやつかあ・・・」塔を見上げてエリが諦めたように言った。「妖介とお姉さんは居ないし、身動きは出来ないし、『斬鬼丸』は取れないし、お姉さんのは、どっか行っちゃうし・・・」
盛り上がった塔から枝のようなものが四本、エリに向かって伸びだした。身動きの取れないエリの手首と足首のその先端が絡みついた。強い力で締め上げられる。
「いやっ! なにすんのよう! 放しなさいよう!」
エリは四肢を振り回すが、外れない。絡みついた四本は左右に開き始める。腕と脚が大きく開かれた。
「ちょっと、やめてよう!」エリは抗うが、動かせるのは頭と胴だけだった。「まだ嫁入り前なんだからあ!」
塔から新たに三本がエリに向かって伸び始めた。三本は、二本は並行に、一本はそれより下に向かった。先端が人の手の形になった。エリはそれらの向かう先に気がついた。
「本当、やめてよう! わたし、見られたことはあっても、触られたことはないんだからあ!」
伸びた三本の手に生じた指が淫靡に蠢く。エリは目をきつく閉じ、顔をそむけた。無意識に全身に力が入る。
「・・・」胸に触られた感触があった。次いで、太腿ににちゃにちゃしたものが触れた。「イヤだああ!」
不意に掴まれていた感触、触れられた感触が全て消えた。
エリは手足を広げたままの格好で、恐るおそる目を開けた。塔は無かった。黒い靄のようなものが漂い、消えた。腕が肩からだらりと下がった。
「・・・『斬鬼丸』・・・?」エリは身を起こし、塔のあった場所に転がっている葉子の『斬鬼丸』に手を伸ばした。「わたしを助けてくれたの・・・?」
途端に『斬鬼丸』が光り出した。慌てて手を引っ込める。『斬鬼丸』は静かに明滅を繰り返している。エリは再び手を伸ばす。熱くはなかった。エリは『斬鬼丸』を拾い上げると強く握り締めた。
「わっ!」突然、白く光る刀身が伸びた。エリは、頭上より高く伸びた刀身を呆けたように見上げた。「すっごーい・・・」
『斬鬼丸』はさらに輝きを増した。エリは思わず目を細める。『斬鬼丸』の抑え切れずに溢れ出る力のせいなのだろうか、握り締めたエリの手が小刻みに震える。
「もうダメ! 持ってられない!」
エリが手を放そうとした時、『斬鬼丸』が意思を持ったかのように、切っ先の向きを大きく変えた。その勢いでエリは尻餅をついた。しかし、両手で『斬鬼丸』を握り締めたまま、腕が真っ直ぐに伸びている。
「・・・分かった! この方向に妖介とお姉さんが居るのね!」エリは立ち上がった。周りを見回す。転がっているバッグに目を留めた。「でも、わたしのバッグくらいは拾わせてよう」
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