ユウジはドアに駆け寄った。
「お嬢! お嬢!」
何度も大声で呼ばわり、閉じられたドアを激しく叩き続ける。
「開けてくだせえよお!」
ドアノブをカチャカチャと乱暴に回す。ノブは回るが、ドアは開かなかった。
「・・・こりゃあ、俺にはよくはわかんねえが、大変な事が起きてるんじゃねえのか・・・」ユウジは手を止め、喉を大きく鳴らした。そして、自分の頭を拳骨で何度も叩いた。「チクショウめ! どうして俺はいつもこうなんでえ! 肝心なときには、まったく役に立てねえ!」
ユウジは再びドアを叩き、ノブを回し続けた。そうしながら「お嬢! 開けてくだせえよお!」と大声で繰り替えした。
「おい! そこで何をしている!」
後ろから怒鳴られた。腹の底に響く強い声だった。思わずユウジの動きが止まる。振り返ると、いきなり目の前が明るくなった。目を閉じ、顔をそむける。眩しさを避けようとして顔の前に上げた手の手首を強く握られた。
明るさに慣れたユウジの目に飛び込んできたのは、二人組みの大柄な制服の警官だった。一人が懐中電灯で照らし、一人がユウジの手首を抑えている。
「こんな夜中に何をやってんだ、お前?」手首をさらに絞り上げながら警官が言った。「近所から騒いでいる男と女の声がすると通報があったんだが」
「・・・お前、ユウジじゃないか!」
懐中電灯の警官が歩み寄り、ユウジの顎を掴んで顔を上げさせた。もろに照らされたユウジは強く目を閉じた。それしか出来なかった。
「今度は借金取立てでもやらされてるのか?」からかい半分の声で言われ、顎を掴む手に力が加わる。ユウジの唇が歪んだ。「お前と居たとか言う女はどこへ行ったんだ?」
「おや、知り合いかい?」
手首を握っている警官が楽しそうな声を出す。こちらにも力が加わる。ユウジは軽く呻いた。
「まあな。いっぱし気取りの小チンピラだよ。実際は単なる使いっ走りだけどさ」
「ほう・・・」掴んだ手首をユウジの背中に回して締め上げた。苦痛にユウジの顔が歪む。それを見て警官は残忍な笑顔を作る。「そうなのか? 言われて借金の取立てにでも来たのか?」
顎を掴まれ、腕を締め上げられているユウジは呻き続けた。
「女はどうしたんだ?」
顎をつかんだままの警官は、そのままでユウジの頭を振り回した。そうしながら、懐中電灯で葉子の部屋のドアや窓を照らす。部屋はしんと静まり返っている。
「まさか、お前、借金のかたにでもって連れて行ったんじゃないだろうな!」
「とにかく、こいつは事情聴取だな」腕をさらに締め上げる。「あの巡査長のボケの怒鳴られた分、じっくりと聞き出さないとな。腹の虫が治まらないぜ」
「まったくだ。きちんと白状するまで聞き出すことにするか」懐中電灯でユウジの頭を軽く小突く。「どうせチンピラだ、どうなってもどこからも文句は出ないだろうさ」
ユウジは思い切りからだを揺すった。警官は思わず手を放した。ユウジは警官を押し退け、階段を駆け降りた。
「おい、きさま! 止まれ!」
「待てぇ!」
警官が怒鳴りながら後を追った。
・・・俺はどうなってもかまわねえ! とにかく、誰もあそこに居させちゃあいけねえ!
ユウジは走り続けた。
・・・お嬢、これが俺にできるせめてもの事でやす!
足がもつれて転んだ。起き上がる前に、追ってきた警官に押さえ込まれた。
「馬鹿野郎! 逃げられると思ったか!」
後頭部を思い切り殴られた。
「さあ、じっくりと話を聞かせてもらうぞ! 時間はタップリあるからな!」
乱暴に引き立てられた。手錠が掛けられる。
「・・・お嬢・・・ ご無事で・・・」
ユウジは小さく呟いた。
つづく
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「お嬢! お嬢!」
何度も大声で呼ばわり、閉じられたドアを激しく叩き続ける。
「開けてくだせえよお!」
ドアノブをカチャカチャと乱暴に回す。ノブは回るが、ドアは開かなかった。
「・・・こりゃあ、俺にはよくはわかんねえが、大変な事が起きてるんじゃねえのか・・・」ユウジは手を止め、喉を大きく鳴らした。そして、自分の頭を拳骨で何度も叩いた。「チクショウめ! どうして俺はいつもこうなんでえ! 肝心なときには、まったく役に立てねえ!」
ユウジは再びドアを叩き、ノブを回し続けた。そうしながら「お嬢! 開けてくだせえよお!」と大声で繰り替えした。
「おい! そこで何をしている!」
後ろから怒鳴られた。腹の底に響く強い声だった。思わずユウジの動きが止まる。振り返ると、いきなり目の前が明るくなった。目を閉じ、顔をそむける。眩しさを避けようとして顔の前に上げた手の手首を強く握られた。
明るさに慣れたユウジの目に飛び込んできたのは、二人組みの大柄な制服の警官だった。一人が懐中電灯で照らし、一人がユウジの手首を抑えている。
「こんな夜中に何をやってんだ、お前?」手首をさらに絞り上げながら警官が言った。「近所から騒いでいる男と女の声がすると通報があったんだが」
「・・・お前、ユウジじゃないか!」
懐中電灯の警官が歩み寄り、ユウジの顎を掴んで顔を上げさせた。もろに照らされたユウジは強く目を閉じた。それしか出来なかった。
「今度は借金取立てでもやらされてるのか?」からかい半分の声で言われ、顎を掴む手に力が加わる。ユウジの唇が歪んだ。「お前と居たとか言う女はどこへ行ったんだ?」
「おや、知り合いかい?」
手首を握っている警官が楽しそうな声を出す。こちらにも力が加わる。ユウジは軽く呻いた。
「まあな。いっぱし気取りの小チンピラだよ。実際は単なる使いっ走りだけどさ」
「ほう・・・」掴んだ手首をユウジの背中に回して締め上げた。苦痛にユウジの顔が歪む。それを見て警官は残忍な笑顔を作る。「そうなのか? 言われて借金の取立てにでも来たのか?」
顎を掴まれ、腕を締め上げられているユウジは呻き続けた。
「女はどうしたんだ?」
顎をつかんだままの警官は、そのままでユウジの頭を振り回した。そうしながら、懐中電灯で葉子の部屋のドアや窓を照らす。部屋はしんと静まり返っている。
「まさか、お前、借金のかたにでもって連れて行ったんじゃないだろうな!」
「とにかく、こいつは事情聴取だな」腕をさらに締め上げる。「あの巡査長のボケの怒鳴られた分、じっくりと聞き出さないとな。腹の虫が治まらないぜ」
「まったくだ。きちんと白状するまで聞き出すことにするか」懐中電灯でユウジの頭を軽く小突く。「どうせチンピラだ、どうなってもどこからも文句は出ないだろうさ」
ユウジは思い切りからだを揺すった。警官は思わず手を放した。ユウジは警官を押し退け、階段を駆け降りた。
「おい、きさま! 止まれ!」
「待てぇ!」
警官が怒鳴りながら後を追った。
・・・俺はどうなってもかまわねえ! とにかく、誰もあそこに居させちゃあいけねえ!
ユウジは走り続けた。
・・・お嬢、これが俺にできるせめてもの事でやす!
足がもつれて転んだ。起き上がる前に、追ってきた警官に押さえ込まれた。
「馬鹿野郎! 逃げられると思ったか!」
後頭部を思い切り殴られた。
「さあ、じっくりと話を聞かせてもらうぞ! 時間はタップリあるからな!」
乱暴に引き立てられた。手錠が掛けられる。
「・・・お嬢・・・ ご無事で・・・」
ユウジは小さく呟いた。
つづく
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