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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルの休日 1

2025年09月09日 | ジェシルの休日

 ぽちゃんと雫が左肩に当たった。
「あっ……」
 雫の冷たさに声を上げた。あわてて首まで湯に埋めた。湯面がぱしゃりと音を立て柔らかく動き、湯の中に見えるからだを揺らめかせる。

 ジェシルは辺境惑星地球の中でもお気に入りの日本にいた。それも、人の少ない田舎の温泉宿だった。
 リフレッシュのために地球へ行こうと決意してから、少し調べていると、日本のオンセンを知った。静かな田舎のオンセンで独り湯船につかり、地元の食材を使った料理を食べる。自然の景観に溶け込むようなロテンブロなるものでのんびりとする。元々手脚を伸ばしてだらけるのが好きなジェシルに、オンセンは格好の場所に思えた。
 ジェシルは以前に使った「川村ひろみ」を名乗った。元々がハーフっぽい日本人に見えるらしく、周りも違和感なく接してくれた。
 宿泊している温泉宿はこじんまりしていた。ジェシルの他には誰も宿泊していなかった。なのでジェシルはオンセンを独占状態で楽しめていた。

「……良いわぁ……」
 ジェシルは満足そうに、しみじみと言う。ロテンブロに浸かりながら、流れてくる涼しい風を頬に受ける。長い髪の毛はバスタオルで包んで頭の上にまとめてある。しばらくぶりに晒すうなじにも風が触れて行く。時折、鳥の鳴く声がエコーをまといながら響いてくる。
 時が止まっているようだ。
 宇宙パトロールでの激務が嘘のようだ。
「……わたし、このまま地球に居続けちゃおうかな?」
 ジェシルは立ち上がった。ざざざと湯がからだから垂れて行く。全宇宙の男たちが命に代えても見たいジェシルの裸身が、そこにあった。涼しい風を全身に感じる。腰に手を当て胸を張り、正面の雑木林を見つめる。青空の下に緑の木々が映える。
「『宇宙パトロール地球支部』を作るようにビョンドル長官に進言しようかな? で、わたしが就くの」ジェシルは言うと、くすくすと笑う。「……でも、暇過ぎてどうにかなっちゃうかもしれないわねぇ……」
 不意に目の前の雑木林の枝が幾本か揺れた。
 そして、雑木林から少女が転がり出てきた。

 

つづく


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