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ブラック・メルヒェンその22 「あるバレンタインデーのお話」

2012年02月14日 | ブラック・メルヒェン(一話完結連載中)
 タカシはあまりにも平凡すぎて全く目立たない大学生です。
 前日から、溜息と自嘲の笑みの繰り返しです。
 そう、今日はいわゆる「バレンタインデー」です。
「どうせ俺なんか、もらえるわけないよなあ・・・」溜息をつきます。
「そりゃそうだよな。女の子に全く関心を持ってもらえないし、もらえるような外見でもないし、性格でもないし・・・」自嘲の笑みが浮かびます。
 大学構内のベンチに一人腰掛け、あちこちで行なわれている賑やかなチョコレートのやり取りを、生気のない眼差しで眺めています。
「俺だって、本当はもらいたいよなあ・・・」心でつぶやきます。「俺だってさあ・・・」
 がっくりと肩を落とし、足元の蟻を見つめます。・・・蟻にはバレンタインなんて関係ないよなあ・・・ 蟻がうらやましく思えました。
「あのう・・・」
 声がしました。可愛らしい女の子の声です。タカシは思わず顔を上げました。
 目の前に、両手を後ろにした可愛らしい女の子が立っています。首をややかしげ、にっこりと微笑んでいます。
「あ、は、はいっ!」タカシは思わず立ち上がってしまいます。がちがちに緊張した声で言います。「な、何がご用で、しょうかあ?」
 こんな可愛い女の子に声をかけられたのは、初めてのことです。どうしたら良いのか分かりません。
「お隣に座っていいですか?」女の子はくすくす笑いながら言います。
「え、はいはい、どうぞ、どうぞお・・・」タカシはギクシャクした動きで座ろうとします。
「あ、その前に・・・」女の子は後ろに回していた手を、すっとタカシの方に差し出します。「はい、どうぞ、もらってください」
 差し出された手には、赤いリボンと付いた四角い白い小さな箱が乗っています。
「こ、これは・・・」タカシの喉が鳴ります。「まさか、あの・・・」
「ええ、チョコです。バレンタインのチョコです」
 渡されたチョコを手にしたタカシは、そのままドスンとベンチに座り込んでしまいます。
 やった、やったあ、やったあああああ!! 心がはじけそうなほどの感激です。なんて素晴らしい日なんだ! 生きていて良かったああ!! 
 女の子はその隣にふわっと座ります。嬉しそうにしているタカシに優しい眼差しを向けています。
「・・・でも、でも、どうして、俺なんかに・・・」ふと冷静に戻ったタカシは、チョコと女の子を交互に見ながら。首を傾げます。「俺は君の事なんか、全然知らないし・・・」
「でもわたしはよく知っています」女の子はとびきり可愛い笑顔をタカシに向けます。「実はわたし、バレンタインチョコの妖精なんです」
「はあ?」
「毎年毎年、つらそうにして過ごしているあなたがとても気の毒で、今回こうして姿を現したんです。喜んでいただけました?」
「・・・」タカシは混乱しています。「じゃあ、君は本物の女の子じゃないんだ・・・」
「そうですけど・・・」妖精は悲しそうな顔をします。「妖精じゃ、イヤですか?」
「・・・いや、そんな事はないんだけど・・・」溜息が出ます。「たださ、妖精でも、君のような可愛い子は、俺には全く相応しくないよ。なんたって、俺は平凡で目立たない男だからなあ・・・ 華やかさなんて無縁で生きてきたからさ、戸惑ってしまって・・・」
 自信の持てないタカシは、がっくりと肩を落とし、再び蟻に目をやります。
「・・・じゃあ、こんな感じなら良いですか?」
 妖精の声に顔を上げます。
「ええええっ!」
 タカシは思わず声を上げます。
 あまりのも平凡で、目立った特徴のない女の子が座っています。慣れない笑顔を無理に作っているようで、口元がぴくぴくと震えています。
「あなたの特徴に合わせてみました」妖精が言います。「これなら戸惑わないですか?」
「・・・」タカシは頭を抱えます。「・・・いや、そう露骨に、俺に合わされると、悲しくなっちまう。俺ってこんなもんなのかってってさ・・・」
「・・・」妖精はすっと立ち上がり、タカシを見下ろします。元々の姿なのでしょう、最初の可愛い女の子になっています。「可愛い女の子はダメ、あなたに相応しい女子もダメ・・・ わたしはどうしたら良いんですか?」
「どうしたらって、言われても・・・」
「そんなんじゃ、これからずっと、永遠に、バレンタインには縁がもてなくなりますね!」
 妖精はぷっと頬を膨らませ、アッカンベーをして見せ、すうっと消えてしまいました。
「・・・」
 タカシは大きな溜息をつきます。・・・これからずっと永遠に、かあ・・・
 手には妖精からのチョコがあります。・・・ま、こんな平凡な俺にとっては、一生の思い出ってのができたから、良しとするか・・・ 自嘲の笑みが浮かびます。

 
 今日が辛い男性の皆様、あまりご自分を貶めませんように。せっかくの機会を失うかも知れませんから・・・



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