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大怪獣オチラ 参

2007年09月29日 | 大怪獣 オチラ(全六話完結)
 イタリアの言語学者マリオ=マウリッツィオ・カルロマイネーネが、オチラの雄叫びは高低、長短に数パターンあり、それらを複雑に絡み合わせて発していると、国際的な言語学の雑誌「インタナショナル・ランゲッジ」誌上に発表した。また、このような発声はかなり知性が高くなければ出来ないとも付け加えた。
 これを読んだスウェーデンの生物学者シャロン・ポアンソンは、その時々の発声事のオチラの行動パターンの解析に着手した。彼女は故カール・ホーヒマイスターの愛弟子の一人だった。そして、彼女のホーヒマイスターの弔い合戦と言った決意に共感した世界中の優れた生物学者達が解析の援助を申し出た。
 解析の作業は実物のオチラを観察する事が出来ない為、出現の模様を捕らえたニュース映像や一般人が偶然に撮影した映像、破壊の中を生き残った人々の記憶による証言などが中心だった。作業は困難を極め、難航を繰り返したが、シャロン達の不眠不休の研究活動はついに実を結んだ。オチラの行動パターンと雄叫びとの相互関係を解き明かし、さらに言語認識が可能となったのだ。またその成果は、雄叫びだけではなく唸り声や鼻息にまで及んだ。
 この成果を受け、音響設備開発では世界最高のレベルを持つスペインのメーカー「ホセ・フェルナンド・アントニオ社」が、オチラの音声を人工的に作り出す装置を完成したと発表した。しかも、知能の高いオチラなればこそ、音声の配列を操作してオチラと対話できると言う画期的な機能も備えていた。装置は「オラシオン」と名付けられた。
 国連は「オラシオン」を各国の主要都市に配置した。オチラが出現した際には最寄の都市の市長が装置を作動させ、オチラの雄叫び以上の音量で、入力したメッセージ「我々は敵ではない。共存の道を共に探そうではないか」を繰り返し流し、オチラの説得を試みる事とした。
 装置を設置して三週間が過ぎた頃、地震とともにオチラがロンドン近郊に出現した。かねてからの手配通り、ロンドン市長のロバート・アンダスンが「オラシオン」を作動させ、耳を聾さんばかりの大音量を発生させた。
 オチラは雄叫びを止め、歩みも止め、両腕をだらりと下げて、しばらくはその音声に聴き入っている様子を示した。が、突然一際大きな雄叫びを上げると、ロンドン市内に侵入し、今まで以上の破壊を行った。何一つ地上に残っていないのを確かめるように周囲を見回したオチラは、唸り声を上げながら地中に姿を消した。どう言う訳か「オラシオン」の大音量メッセージはその時も流れて続けていた。
 この出来事の直後、シャロン達このプロジェクトに関わった学者全員が揃って記者会見を開き、突然上げた一際大きな雄叫びは何を語っていたのか、その内容を公表した。内容はこうだった。「やかましい! 大きなお世話だ!!」
 軍事力も科学力もオチラには通じないと人類は悟らざるを得なかった。
 いつ出現するか判らないオチラ。破壊の限りを尽くすオチラ。そのような認識が強まるにつれ、破壊された都市の再興も滞りがちとなり、同時に種々の生産力も落ち始めた。また、人々の生活も荒れ始めていた。どうせ明日はオチラの餌食となると開き直った若者たちは徒党を組み暴行や略奪を繰り返した。彼らは「オチラ・ギャング」と呼ばれ、オチラ以上に恐れられた。富や名声を持つ者たち、特に老人たちは長年積み重ねてきたそれらが身の守りとしては何の役にも立たず、さらには、下の者たちから足手まといのような扱いを受け始めたために精神を病むものが増加した。これは「オチラ症候群」と呼ばれ、治療のしようがない難病とされた。
 人々はいつしかオチラを避ける事の出来ない一種の自然災害と見なす様になって行った。
 が、ここにオチラに対する真の解決策を見出した若者がいた。


次回「大怪獣オチラ 四」の怒涛の展開を待て!

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