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ias世界の街歩き

社会空間研究所所員が世界の街で見聞きした面白い話を綴ります

グラスゴーにマッキントッシュの建築を尋ねる

2014年10月30日 | 街並み

「○○に出会う」の第2弾です。

スコットランドの独立についての住民投票も一段落。このニュースをTVで見ていて、グラスゴーにチャールズ・レニー・マッキントッシュの建築を訪ねたことを思い出した。

マッキントッシュといえば、iPhone 6‎で話題をまいているApple社のPC「マッキントッシュ」(Mac)を思い浮かべる方が多いと思われる。

また、「チャールズ・レニー・マッキントッシュ」という名のバラを思い浮かべる方や画家として、さらにデザイナーとしてのマッキントッシュを思い浮かべる方もいると思う。

今回訪ねたグラスゴーのマッキントッシュは、建築家であるが、バラの名前にも、画家にも、デザイナーのどれも当てはまる。つまり、コンピュータ以外は、すべて該当する。

マッキントッシュは、

アール・ヌーヴォー期におけるグラスゴー派の建築家であり、『アーツ・アンド・クラフツ運動』※1の推進者といわれているが、その作品を見るとアール・ヌーヴォーからアール・デコの時代※2への橋渡しをした建築家の一人ではないかと思える。

実際、後期になると直線で構成された抽象性を持ったデザインを手がけており、アール・ヌーヴォーから脱したデザインの先駆者と評価する人もいる。

ジェフリー・バワ※3が、熱帯における建築家として、光と影、外部空間と内部空間の扱いにおいて自然と融合したのに対し、マッキントッシュは、スコットランドの厳しい自然の中で、独特の田園風景との融合を図った建築家といえる。 

地球規模の環境が問題となっている現代において、ジェフリー・バワ、チャールズ・レニー・マッキントッシュともに、衣食住の“住”の部分からこの問題に取り組んだ先達者といえよう。

マッキントッシュの作品の多くはグラスゴーにあり、現在、十数軒が残っているが、そのうち、「グラスゴー・スクール・オブ・アート(グラスゴー美術学校)」※4と「ヒル・ハウス(住宅)」の2軒がほぼ完全な状態で残っているといわれている。今回は、この2つの建物を訪ねた。

 

※1 アーツ・アンド・クラフツ運動(Arts and Crafts Movement)は、イギリスのウィリアム・モリスが主導したデザイン運動で、産業革命の結果、粗悪で大量の商品があふれた状況を批判し、生活と芸術の一致を主張した。しかし、結果は高額商品となり裕福な階層以外は手が出なかったという。日本の柳宗悦の民芸運動もアーツ・アンド・クラフツの影響が見られるというが、日用品の中に美(用の美)を見出そうとするところに違いがあるといわれている。

※2 アール・ヌーヴォーは、19世紀末から20世紀初におこった芸術運動。アール・デコは、1920年代から30年代におこった芸術運動。アール・ヌーヴォーとアール・デコは、それぞれに特徴があり、好みもあるが、ちなみに私は、アール・デコ様式ではニューヨーク・クライスラービルが好きである。

※3 「コロンボ・スリランカでジェフリー・バワの建築に会う」(http://blog.goo.ne.jp/shaku-ken14)参照

※4 グラスゴー・スクール・オブ・アートは、私が訪ねたあと2014年5月に火事にあっている。

 

●チャールズ・レニー・マッキントッシュとの出会い

『ハイバックチェア』

私のマッキントッシュとの出会いは、実は、建築ではなく家具であった。

写真のカップを見ていただこう。このカップは、マッキントッシュの有名な『ハイバックチェア』をプリントしたものである。この椅子を部屋の装飾品として買おうとしたのが、最初の出会いであった。

 *グラスゴー美術学校のショップで買ったハイバックチェアをプリントしたマグカップ

 

チャールズ・レニー・マッキントッシュは、建築だけでなく、このような建築空間に収まる家具や装飾品なども同時にデザインしている。

ハイバックチェアは、基本的に幾何学的な直線で構成されていて、この直線によるデザインは、マッキントッシュの建築ディテールや建築まわりのエクステリアデザインにも活かされている。

 

*ハイバックチェアを思い浮かべる幾何学的な直線で構成された道路照明(グラスゴー美術学校)

 

『ウィロー・ティールーム』

マッキントッシュのデザインしたものに「ウィロー・ティールーム」(Willow Tearooms )という喫茶店があり、ここにハイバックチェアが使われている。

私は、はじめハイバックチェアを室内装飾として考えていたが、ウィロー・ティールームで、椅子の背もたれが見事にパーティションとなってプライベートな空間を作っているのをみて、ハイバックチェアには隠れた空間的機能的な意味があるのではないかと考え直した。

 *ウィロー・ティールームの内部(写真:チャールズ•レニー•マッキントッシュ協会HPより)※5

※5 チャールズ•レニー•マッキントッシュ協会は、スコットランドの建築家やデザイナー、チャールズ•レニー•マッキントッシュの意識を促進するために1973年に設立された独立の非営利慈善団体。

 

●グラスゴー・スクール・オブ・アート(グラスゴー美術学校)

マッキントッシュの代表作である「グラスゴー美術学校」は、伝統的な日本のインテリアデザインに多くを負ったと言われている。

この建物は、予算の関係から、1897年から1899年および1907年から1909年の19世紀末および20世紀と2期に分かれて建設された。このため、前期ではアール・ヌーヴォー、後期では、アール・デコへとつながる新しい世紀(20世紀)の息吹を取り込んだものとなっている。

多くの書物でマッキントッシュのスタイルについて、アール・ヌーヴォー、アール・デコであると表しているが、磯崎新氏は、 “均衡感がない”“様式がない”“パターンがない”“空間概念がない”と言い、マッキントッシュの建物は感性でつくられたものであって「論理的に理解できない」と言っている。6

実際に建物を前にすると、彫刻家が芸術的感性によって、あるいは、子どもが砂山から、次々と切り出していったような、教科書からは生まれない自由は発想の建物であった。

これは、次に紹介する『ヒル・ハウス』においても同じであるが、それでいてスコットランドという風土に溶け込んだ建物でもある。

*グラスゴー美術学校の正面玄関

※6 都市住宅セミナー・近代建築入門「チャールズ・レニー・マッキントッシュ」における原広司氏との対談において(都市住宅7109)

 

●ヒル・ハウス(Hill House)

ヒル・ハウスは、20世紀初頭に開発されたグラスゴー郊外の住宅地にある。オーナーは、この頃台頭してきた中産階級に属し、日本で言えば田園調布の成り立ちに例えられるだろうか。

建物は、スコットランドの田園が見渡せる丘に建っており、建物からの見晴らしだけでなく、この地区におけるランドマーク的な役割も持っている。

訪ねたのは7月でスコットランドとしては最も過ごしやすい時期であったが、できあがった写真を見ると雨の中に佇む、厳しい気候と調和した姿が見てとれる。

*南側から見たところ

比較的平板でシンプルな形状である

 

*南東から見たところ

円形の塔、いろいろな方向へ流れる屋根、形の異なる煙突など変化に富んだ形状をしている

 

*西面を見たところ

変わった形状の煙突と建物のボリュウムに対して小さな玄関がアクセントとなっている

 

 *北面を見たところ

北面が最も複雑な形状をしている

 

 *今回は休館日であったため内部へは入れなかったが、マッキントッシュの建築で忘れてはならないのが、「トータルデザイン」と言われている。

内部壁面のテキスタイルから家具、照明類、さらに妻のマーガレットがデザインした装飾品などその全てをデザインしている。

 

●マッキントッシュを扱った『コミック』

報われなかった天才達の栄光と挫折を描いたコミックがある。これは森田信吾の漫画で、確か1990年代の初めに『新・栄光なき天才たち』チャールズ・レニー・マッキントッシュ「革新的なデザインのモダン建築家」として「週刊ヤングジャンプ」に掲載されていたと思う。

一般には知られていない建築家がコミックに取り上げられ、人気週刊誌に掲載されたいきさつについては不明であるが、マッキントッシュは、酒によってグラスゴーを去り、晩年は建築の仕事はなく、南フランスで絵を描いて暮らしている。

「モダン・デザインの展開 モリスからグロビウスまで」を書いた建築史家ニコラス・べヴスナーは、耳を切ったゴッホ、破産したレンブラントを例としてあげ、“酒も何もかもひっくるめてのマッキントッシュでなかったら、あの複雑にからみ合った空間のヴィジョンを決して実現し得なかった” (平本健次/訳「都市住宅」)と言っており、人を惹きつける何かを持つ天才には、何か欠けたところがある人間性が求められるのではないか。

そういえば、先に取り上げたジェフリー・バワについても、常人とは異なるエピソードが伝わっており、このような人たちによって地球の危機を救うヒントとなる先進的な取り組みが行われていたことに考えさせられるものがある。

 

記:錦織英二郎


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