戯れ言 1

　まずは，お茶でも。これって月餅だよね。それと，チョコレート饅頭って言うのかな。

　今からの話は，又聞きだから正確でないかもしれませんが。ある一人の，ごくごく日常的だった日々を。

　彼の育った家庭は，傍目にはありふれた環境だったらしい，お金がないことを除いては。生活費は，大部分を母親が稼いでいた。

　そんな彼が，心の奥底に狂気の萌芽を見出したのは，成長した後だった。思春期以降にふと，訪れる原因不明の不安に，どうしたら良いのか分からずにただ立ち尽くすしかなかった頃から。普通にあるはずの記憶が，ある時期以前が，すっぽりと欠落しているのを。それを探し始めたことが。

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