2015年8月30日,東京・茗荷谷にて,サイエンスライティング研究会を開催しました。
小説,ノンフィクションなど,エンターテイメントとしてのサイエンスライティングの第一線でご活躍中の瀬名秀明さんと植木不等式さんをお招きして,作品を書く際の心がけや工夫についてお話しいただきました。また,渡辺政隆さんにはサイエンスライティングを研究する立場から解説をいただきました。
瀬名さんは,これまでのお仕事(小説,ノンフィクション,書評など)についてご紹介くださったあと,フィクション作家の立場からという企画者のお願いに沿ってお話しくださいました。
例に挙げられたのは,現在連載進行中の『生まれかけの贈りもの』です。再生医療を題材としたこの作品は,書くにあたって取材の過程でいろいろと思うところがあり,主役になりそうな人(たとえば幹細胞の研究者)の周囲で頑張る,あまり主役にならない人たち(薬剤師,理学療法士,などなど)を描きたいと思ったそうです。
後半には,SFの中で未来を描く手段についてのお話がありました。よくある方法の1つは,現時点のサイエンスから考えて,ありそうな未来を描くことです。そしてもう1つは,絶対にありえない物理法則を使うなど,ナンセンスを狙うこと。瀬名さんは,もう1つ,これらとは違うやり方を指摘しました。それは,現在のサイエンスを踏まえて,科学者が考えたこともないような未来を描くことです。この方法は,ほかの2つの方法と違って科学者から批判される可能性がありますが,瀬名さんは,こういうやり方をする人がいてもいいのではないかと思って書いているとのことでした。
植木さんのお話は,まずペンネームの由来から始まりました(最近の大学生には説明するのが難しいそうです……)。
ノンフィクションライターとしての経緯とバックグラウンドについてご紹介くださった後,ライティングの技法について,6つのポイントにまとめて解説してくださいました。6つのポイントとは,比喩,擬人化,スケール置換,つかみ(タイトルのつけ方),“逃げ”(簡潔に言い切って不正確な表現にならないよう文章が長く煩雑になることを避けるなど),ストーリーラインの仕立て方,です。これらはサイエンスに限らず,ライティング全般において重要なことです。
それから,文章の機能についてお話しくださいました。「説明」することの効果の1つは「理解」ですが,もう1つ「説得」があります。特に,一般販売の書籍や不特定多数の人を相手とするところでの語りは,受け手の方々に「納得」という現象が起こってくれるよう,「説得」できたほうがよい場合が多々あります。ライティングは後者に重きを置いて書いているのでは,とのことでした。確かに,納得させないとお金は取れません。
本研究会の企画者でもある渡辺さんは,相手が耳を傾けてくれるようなサイエンスコミュニケーションの基本はライティング,ストーリーテリングにあるにあると考え,ライティングにこだわっているとのことでした。日本にはそのよい例として科学者の随筆という伝統がありますが,近年見られる,キャラクター,マンガ,お酒など,さまざまなポップカルチャーとのコラボによる成功例もあります。本日はそのいくつかをご紹介くださいました。
休憩時間を挟んで,講演者の方々には,参加者からの質問にお答えいただきました。時間が足りず全ての質問にお答えいただくことはできませんでしたが,たくさんの参考文献情報や,第一線で活躍なさっているからこそ出てくる印象的なお話を聞かせていただきました。
具体的な技法についても教えていただきましたが,具体的な技法の前にまず「読んで読んで読みまくれ,書いて書いて書きまくれ」というお言葉が,強く心に刺さりました。
ご登壇者のみなさま,ご参加くださったみなさま,ありがとうございました!
(質疑応答のひとコマ)