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サテュロスの祭典

神話から着想を得た創作小説を掲載します。

兎神伝〜紅兎四部〜(27)

2022-02-04 00:27:00 | 兎神伝〜紅兎〜革命編其乃二
兎神伝

紅兎〜革命編其乃二〜

(27)遣属

朝靄薄れゆく大兎海峡。
飛沫の彼方より、一隻の聖領船(ひじりのかなめのふね)が朧に姿を現す。
それは、蜃気楼の見せる幻の如き雅な船…
いや…
三階建ての船室の入母屋根には、金箔瓦が葺かれ…
翡翠の鬼瓦に、雨の如く吊るされた、金銀細工の庇飾り…
朱に塗られた壁一面には、細やかな意匠…
それは、さながら海神(わたつみ)の宮殿のようでもあれば…
荒れ狂う波上に咲いた蓮のようでもあった。
迎賓楼門前では、軍弾庁の招請を待つまでもなく立ち現れた近在の産土宮司(うぶすなのみやつかさ)達が、呆けたように見惚れている。
しかし…
『ケーッ!また、あんなガラクタで来やがって!』
西武警邏衆弾正与頭(せいぶけいらしゅうだんじょうくみがしら)、館(たち)の弘成(ひろしげ)は、埠頭に佇み眺めやりながら、吐き捨てるように言った。
『あんなもん、船でも何でもねーっ!ただの箱!重石の箱だ!』
『声がでけぇぞ、弘成。後ろに控える神職(みしき)達に聞かれたら面倒だ。』
西武警邏衆軍部与頭(せいぶけいらしゅういくさべくみがしら)、沖浦の友和も、同僚を嗜めるように言いつつ、表情は険しい。
『おめぇ、何も感じねぇのか?迎えに出向いた仲間が、あんな船を漕がされて戻って来るのを見せられてよ。今度もいってぇ何人の渡瀬人(とせにん)が流されてるこったか…』
弘成が尚も歯軋りして言うと…
『良いから黙ってろ。』
友和は、やはり嗜めるように一言言うと、苦飯噛み潰した顔をして押し黙った。
思いは、この同僚と同じだ。
出迎えに行く時…
熟練の船職人達が、荒波に備えて粋を凝らせて造った船に乗り、選び抜かれた渡瀬人(とせにん)達が迎宗使(げいそうし)として送られる。
しかし、その船は満載した貢物と共に取り上げられ、代わりに見栄えばかりの粗雑な船に下級神職(みしき)の使いの者を載せて送り返される。
漕ぎ手は、勿論、迎宗使(げいそうし)船の水夫として送り出した渡瀬人(とせにん)…
その際、渡瀬人(とせにん)達は、同伴を命じられた十二歳以下の娘達の着物を一枚残らず剥ぎ取らせ、人質として置いて行かされる。
戻るまでの間、一切着物を着せられない娘達に、剥いだ着物を着せて連れ帰る事が許されるのは、生きて送り出した使者を連れ帰った者のみ。
しかも、使者に一人でも死人が出れば、残りの渡瀬人(とせにん)達は全員奴隷にされ、贖兎(あがないうさぎ)とされた娘達は、命ある限り弄ばれ続ける定めとなる。
これまで、一体、何人の渡瀬人(とせにん)達が、そうして同伴した娘達と共に消えて行った事か…
しかし…
何よりも腑煮えくり変えるのは、船首に書かれた幟の文字…
遣属使(けんぞくし)…
『遣属(けんぞく)…
我らを属領民(やからのかなめのたみ)だと…
奴らが宗主(むねつあるじ)だと…
我らの貢物がなければ、三日で干上がる青瓢箪のくせに…
そして…
その船に乗せられた、聖領(ひじりのかなめ)では、最下級の神職(みしき)が携える薄っぺらい書類を、涎を垂らして待ち焦がれる、背後に控えた産土宮司(うぶすなのみやつかさ)達…
『友和、何を考えている。』
不意に、彼らの先頭に立つ男…
大門軍弾丞(だいもんぐんだんじょう)、渡の哲也が目を細めて口を開いた。
『いえ、別に…』
『おめえの言いてえ事は、だいたい察しが付いている。
だがな…あの青瓢箪どもが携えてくる紙切れが、一触即発の諸社領(もろつやしろのかなめ)の紛争を、辛うじて抑えている。』
『逆に、うちの赤瓢箪どもの対立を煽っているとも言えやす。』
友和は瞑目したまま、ムスッと一言呟き返した。
『まあ、待て…それも、あと少しの辛抱…我らが浦主(ぼす)が、必ず神領(かむのかなめ)を一つにまとめてくんなさる。そうなれば…』
『独立…』
『そうだ。用済みの青瓢箪どもとは、永久に手を切れる。』
『どうですかね…
浦主(ぼす)…鱶腹裕次郎(ふかはらゆうじろう)とて、所詮は神職家(みしきのいえ)の者…
あっしは、お頭ほど信じる気にはなれやせん。』
やがて、見栄えだけは絢爛な聖領船(ひじりのかなめのふね)が、ゆっくりと接舷してきた。
岸に渡板が掛けられると、中から最初に姿を表す男…
『井浜の源太…げんさん…』
眉が太く性悪な目つきの男に目を留めるなり、一層細められた哲也の眼差しに複雑な影をさす。
井浜の源太…
哲也が心の中で呼びかけた男は、彼の顔を一瞬目に留め物言いたげな眼差しを送るが、すぐにそっぽを向いて前にすすむ。
次に、彼らの配下と思しき、聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)達が姿を現し…
首に縄を掛けられ数珠繋ぎにされた十一から十三くらいまでの全裸の少女達が、彼らに鞭打たれながら、引き摺られてやって来た。
あれは、去年、迎宗使船に水夫として乗り込まされたり渡瀬人(とせにん)達の娘…
哲也が心の中で呟くと同時に…
『繋いどけ!』
源太の図太い声に命じられるまま、聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)達は少女達を乱暴に岸壁に連れ出し、柵に繋いだ。
哲也の後ろでは、友和が固く瞑目し、弘成が目を血走らせ、歯軋りしながら、この光景を見つめている。
すると…
『お父さん!お父さん!』
『浮音(ふね)!
柵に繋がれた少女の一人が、目の前に引き摺られてきた、やはり全裸にされた傷だらけの男に取り縋って泣いていた。
『さあて、おまえはもう用済みだ。今生の別れにしっかり娘の顔を見ておけ。』
『航海中、毎日、実の娘に穂柱しゃぶって貰って、良ぇ思いしたんだ。もう、この世に未練は無かろう。』
二人の聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)が、ゲラゲラ笑いながら、男の髪を掴んで娘に突きつける。
『お願い!お父さんを殺さないで!殺さないで!』
少女がなおも泣きじゃくって父に取り縋ると…
『そうか、そうか、よしよし、それじゃあ、もう一度、父ちゃんの穂柱をしゃぶってみな。』
聖領渡瀬人(ひじりのかなめのとせにん)が、ニヤけながら娘に言った。
『それで…それで、本当にお父さんを助けてくれるのですか?本当に?本当に?』
『ああ、おめぇが、船の中でしたのとおんなじに、ちゃーんと父ちゃんの穂柱から白穂を絞り出して、上手に飲み込めたならな。』
全裸にされた男はそれを聞くと…
『浮音、よせ…もう良い…俺はもう良い…だから…』
最後の力を振り絞るように、娘に言った。
しかし、娘は飛びつくようにして父親の穂柱を咥えると、必死に舐めしゃぶり出した。
『よせ…やめろ…やめるんだ…』
男は娘から顔を背け、涙目で言いつつも、穂柱は自然と娘の口腔内で膨張してゆき…
『ウッ!ウッ!ウッ!ウゥゥッ!』
呻くような声を漏らすと同時に、大量の白穂を放った。
次の刹那…
『お父さんっ!』
娘が叫ぶより早く、聖領渡瀬人(ひじりのかなめのわたせにん)二人は、同時に男の脇腹を突き刺しえぐった。
『ふ…浮音…』
男は、最後の声を漏らしながら、血の海に沈み、息絶えた。
『お父…さ…ん…』
娘は、父の亡骸が足元に転がると…
『イヤッ…イヤッ…イヤーーーーーーーーッ!!!!!』
半狂乱の声を上げて、泣き叫びだした。
『やっ…野郎っ!』
『よせっ!弘成っ!』
遂に耐えきれなくなり、長脇差を抜きかける弘成を友和が遮るのと同時に…
『離せっ!離せっ!源太っ!てめぇ!ぶっ殺す!ぶっ殺してやる!』
新たに姿を現した男が、長脇差を抜いて叫び暴れるのを、周囲の男達が五人がかりで必死に止めに入った。
『あっ…アイツ…』
『柴の俊雄…』
弘成と友和が同時に呟くと…
『どうした、俺をやりてぇか?うーん?』
源太が、抑えつけられた俊雄の側に行き、したから覗きこむように睨み据えた。
『なら、やってみな。聖領(ひじりのかなめ)に残した娘が、繋がれてる奴らと同じ目に遭わされてもよけりゃーな。』
『て…てめぇ…』
俊雄は、尚も憎悪に燃えた眼差しを源太に向けつつ、振り上げた長脇差を力なく落としていった。
そこへ…
『ホッホッホッ…何の騒ぎにおじゃりますかな?』
垂纓を被り、錦に彩られた水干を着込んだ神職(みしき)が五人、迎宗使(げいそうし)である神領(かむのかなめ)の神職(みしき)達と警護の神漏兵(みもろのつわもの)達に伴われ、ゆったりとした足取りで姿を現した。
『何かと思えば…』
先頭に立つ神職(みしき)が、血の海に転がる亡骸にとも、取り縋って泣き喚く少女にともつかず、目線をくれて舌舐めずりをした。
そこへ…
『仰せの通り、娘に穂柱を咥えさせながら、始末しやした…』
源太が進み出て言うと…
『それは、良い事をしたのう。ちゃんと、白穂を放たせてやってから…で、おじゃろうな。』
『へぇ…』
『上出来、上出来…麻呂も、あの娘には楽しませておじゃったが…実に具合がようおじゃった。さぞかし、あの虫ケラも、良い思いをして逝ったであろうのう。』
神職(みしき)はほくそ笑みながら言い…
『まこと、まこと…あの娘は具合ようおじゃった。』
『特に一番最初、父親の前で五人掛りで泣いて暴れるのを抑えつけて可愛いがってやった時は最高でおじゃったの。』
『何の何の…少しでも噛めば、父の手足の指を寸刻みで切り落とすと言ってやって、我らの穂柱を咥えさせてやった時もなかなかでおじゃりましたぞ。』
『できれば、父の骸の前でも、一度五人で抱いてみたいものよのう。そう、骸が腐り果てる前にの。』
他の神職(みしき)達も口々に言うと、ホッホッホッ…と、手に持つ笏で口を覆い笑い出した。
『野郎…』
『許せぬ…』
遂に、弘成だけでなく、友和も耐えきれず、長太刀に手をかけるや…
『これは、これは、遠路はるばるようお起こし下された。』
哲也が二人の前を遮るように進み出るや、両袖を合わせて膝をつき、神職(みしき)の前に平伏した。
『それがしは、西部大門軍弾小丞(せいぶだいもんぐんだんすないのじょう)を務めさせて頂きまする、渡の哲也にござんす。どうぞ、お見知りおきを…』
『ホッホッホッ…そちが、噂に名高う大門軍弾丞(だいもんぐんだんじょう)の哲也か…
麻呂は、遣属使筆頭、神妣聖宮社(かぶろみのひじりつみやしろ)の八乃祝(やつのほり)、猪狩長助(いがりのちょうすけ)でおじゃる。
出迎え、大義でおじゃる。』
『へぇっ…では、早速、迎賓楼までご案内を…
我が大門の産社(うぶやしろ)様方が、まずはあちらにて、宴の席を設けさせて頂いておりやす。』
『ホッホッホッ…それは楽しみじゃのう。では、案内いたせ。』
遣属使筆頭猪狩長助八乃祝(けんぞくしひっとういがりのちょうすけのやつのほり)が言うと、哲也は更に恭しく平伏し、案内を始めた。



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