哀愁しんでれら 2021/2/5公開
監督,脚本 渡部亮平
主演 土屋太鳳(福浦(泉澤)小春)
田中圭(泉澤大悟)
COCO(泉澤ヒカリ)
初めて哀愁しんでれらの話を聞いた時、
その発表されたあらすじから「…またか」
と正直思いました。『普通の女の子が玉の輿に乗って幸せになったはずなのになぜか世間を震撼させる凶悪事件を起こしてしまう…』
転落するシンデレラストーリー、うんそういうの何度も見た。幸せ探しのこじれたやつ。わざわざ土屋太鳳と田中圭でそれを今更やるのか。しかも子役がかなり重要な役みたいだからきっと子供がひどい目に合うんだろうな、見たくないな…
我ながらひどい第一印象です。でもそんなよくあるネタのはずの映画を監督はじめ大勢の人達が熱く紹介しているのを見ているうちに徐々に楽しみに変わっていきました。これほどの熱量を並みの映画にかけるだろうか。今までの「シンデレラその後」の物語とは違うかもしれない。
そうして期待と不安を胸に初日初回に哀愁しんでれらを観に行ったのでした。
まず冒頭教室らしきところでドレス姿の太鳳ちゃんが机の上をハイヒールで歩く、とぐるりと画面が周り早くも目眩がしそうな歪みの世界に引きずり込まれました。
そこから始まる怒濤の不幸。
おじいちゃんが倒れつい飲酒運転をしてしまったお父さんが事故を起こし火の不始末から家は燃え、彼氏の家に避難しようとしたら職場の先輩との浮気目撃。わあひどい。でもあまりにテンポよい不幸の波状攻撃に段々笑っちゃう。麻痺してきたところで踏切に転がる我らの田中圭登場です!
今までの不幸は一晩でいっぺんに起こることはそうないかもしれないけれど、一つ一つはいつ自分に降りかかってもおかしくない不幸です。でもあまりに連続で来るから最後に泥酔してる田中圭を踏切から助け出す非日常があってもおかしくない気持ちになってます。ああもう巻き込まれてる。ここで田中圭(大悟)を見捨てればあの結末にはならなかっただろうけれど。始まってしまいました。
ここから幸せな描写が続きます。綺麗なドレスや靴のプレゼント(どこで着るんだよと思わなくもないけどあそこで断れる女はいないから仕方ない)、家族への肉体的金銭的援助。多幸感しかない美しいダンスシーン。ここはタナカーとしてつい応援しながら見ちゃいましたけど、見事な長回しでございました。圭さん頑張った!
あと予告でざわつかせた聴診器ラブシーン。あれは更に点滴の痛みとチューブの長さのもどかしい不自由さもプラスされていたというとんでもないフェチなラブシーンでした!監督…
爆発させられますよ、そりゃ。むちゅって音が映画館に響いてどうしようかと思いましたよ。え?この映画年齢制限かかってないの?
そんなことだから、ちょっとずつ引っかかる言動が混ざってきても立ち止まって考えてみることはできません。それぞれがつく小さな嘘が段々積み重なっていつの間にか小春は髪の毛をむしるようになってきてしまった。
二度目の踏切のシーンで大悟が小春になくなったはずの指輪を返していました。ちょっとわかりにくい描写かなとも思いましたが、あそこ私はすぐに大悟が隠していたのだとわかりました。なぜなら経験者だったから😅
子供のころ友人が落とした手袋を「私が」返してあげたくて帰りの会が終わったら返そうとワクワクしながら持っていた事がありました。その帰りの会で先生が友人の手袋がなくなりました、心当たりのある子は名乗り出てくださいって言ってきて…子供のころの事なので時効として欲しいのですがその後のゴタゴタも含めて黒歴史として記憶に刻まれてます。すまんかった。
でも、あの時私はちょうどヒカリくらいの年齢でした。大悟はもうすぐ41才の立派な大人だけど善悪の区別の曖昧さ、ひどい言葉で追い出しておいて追いかけてくるのも試し行動のようで、嘘をついてしまうヒカリとあまり変わらない。
そんな二人の世界に小春はここから完全に同化してしまいました。太鳳ちゃんは普段ふわふわしてるけれどキツい表情の時の美しさはゾクゾクさせられます。
踏切が日常世界の境界線でした。あのラストシーンへと逃げられない世界へ踏み入れてしまったけれど、完全な家族となった3人はとても幸せそうで、何が正しくて何が間違っているのかどんどん曖昧になっていきます。
そしてラストシーン。とても静かです。
ひどい事が行われているはずなのに静かに静かに時間が過ぎていきます。子供達の死体とともに。決してセンセーショナルな映像は撮らないという決意が伝わってきました。
このジェノサイドしか道はなかったのかと言えば他にあっただろうけれど、もう私はこの3人の親子が大好きになってしまってここにいる幸せそうな3人を今更嫌悪する事は出来ませんでした。その結果も。間違いなく共犯です。
凶悪事件を起こす人間はわけのわからない向こうにいる何かではなく、愛すべき、共感出来るこちら側の人達でした。そこにどんな違いがあるんだろう。
このラストシーンを終えてエンドロールまで動けずにいました。
もしかして、あの二度の踏切の時のように本当はそんな事なかったのかも、子供達が走り回る休み時間が重なるかと微かに期待しましたが、そのまま3人の幸せそうな声で終わりました。
あのあと、3人はどうなってしまうのか。しれっと海外に逃げて一生を無事に過ごしてくれても構わないとか思ってしまうくらいに魅力的な3人でした。残された家族は地獄しかないだろうけれど。妹ちゃん強く生きてと願わずにはいられません(無理だろうな…)
コロナ禍で延期もあったけれどそのおかげでこの歪んだでもとてつもなくセクシーで複雑な大悟な圭さんと、熱いジャンパーの圭さんと、のほほん総理の夫の圭さんが1年で見られるとは素晴らし過ぎます。世間よ、田中圭の振り幅に感嘆するがよい!高笑いの準備は万端です。
その第一弾を飾るにふさわしい問題作でした!
あ、やりやがったな黒豆!とはエンドロール見ながら思ってましたw
見応えのある映画を、圭さんへのオファーありがとうございました!
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