ファンタジーノベル「ひまわり先生、事件です」

小さな街は宇宙にリンク、広い空間は故里の臍の緒に繋がっていた。生きることは時空を翔る冒険だ。知識は地球を駆巡る魔法の杖だ

今年の出来事を漢字で1文字で表わすとーね・・・『嘘』

2015年12月25日 | エッセイ
今年の出来事を漢字で一文字で表わすとね・・・『嘘』

』です。
だってだって、消費税をもう10パーセントにすることにしてしまって、しかも、税と社会保障の一体化・・・とかなんか言いながら、社会保障はよくなったのかな?安倍政権の「嘘」のトリプルプレーを誰か止めてくれ・・・!!!

私は今失業中ですが、。雇用保険はどんどん切り詰められていて、失業給付だけでは「生活保護」受けるよりも低い給付ですよー!!!尚且つ生活保護でさえも抑制されていますーよ。いつの間にか、えーー、そんな規則は、何時作ったの…と驚くような法律ができていました。実は雇用保険も年金も縁のない人は知らないけれども、年金と失業保険は、どちらか一方鹿給付されないんでーよ!!!特に、60才~65才で充分年金をもらえず、尚且つまだまだ働かなくては生活できない中高年には、厳しいです。いや、実は65歳過ぎても働かなくては生活できない中高年が多いんですーよ!!!

医療費も安くない、これは病気で入院してみると実感しますー。それなのに、国際競争率を高めるために企業には優遇して、「法人税」低くするー、設備逃避に対して課税をおさえるー、まるで企業のために消費税を上げるみたいですー。そりなのに、外国へ行ってニコニコしながら、なにあれ、大盤振る舞いして海外支援金をポンポン挙げているー。安倍総理は、あれも税金で国民のお金であることを忘れているのでは…!!!
安倍政権の「嘘」のトリプルプレーを誰か止めてくれ・・・!!!止めてくれ・・・!!!

第6章連載≪8≫「ひまわり先生、大事件です!…大雨が6年2組を襲います…」

2015年12月21日 | ファンタジーノベル


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誘拐されたひまわり先生の子ども、勇樹を捜すために、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に戻ってきた。5人は手をつなぎ桜の満開の下で、今この時の再会に感涙した。時の経過と共に失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた心の糧を見つけた。

小さな街は、宇宙に繋がっていた、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。多摩川小学校には、茜や竜や緑たちの仲間がいた。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…
 


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">★登場人物の紹介茜編★

秋葉茜は、新聞班ではないが、同じ6年2組のクラスメートです。君子、悟、美佳、太一、徹とも仲の良い仲間です。皆は茜を、ニックネームでスミレちゃんと呼んでいます。地元の賑やかな商店街、多摩川商店街の中に花屋「フラワー弥生」を開いています。10年後は、母親の後を引き継いでフラワービジネスの商売で世界を駆け回る。よく「青い薔薇」はこの世に実現しない花で、いくら品種を掛け合わせて青い薔薇を改良しようとしたが、古来より不可能の代名詞のように言われていました。しかし、最近、遺伝子操作で青い薔薇が咲きました。茜は、10年後に母の安らぎのために花のかおりと色と音楽と光の光線で、精神に慰安と安らぎと微睡みを与え、トキ婆さんの温泉効果とインドのマッサージを併用したリラックスルームを銀座の真ん中に作った。此処で疲れた会社経営者や政治家の評判を博し、「身心の魔術師」と呼ばれていました。
 
弥生は多摩川商店街で花屋を経営している。多摩川小学校のPTA会長。茜には失踪した父が居るが行方知れずになっている。茜の父、賢治は生来の正義感から暴力団組長と争って、正当防衛とはいえ喧嘩の末に組長を殺害。裁判では正当防衛が認められたが、組から命を狙われて逃走中。関西で金融業界紙のルポライターをしているという噂がある。


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「…台風23号は、グアム島北西の海上で発生、沖ノ鳥島の南西海上で非常に強い台風となった。中心気圧は940hpa、最大風速は450m/sに発達した。沖ノ鳥島の西北西の海上で、超大型で強い台風となり、20日18時ごろには、大阪府泉佐野市付近に再上陸した。台風23号は、その後北東に進み、近畿、東海、関東を横断、21日6時頃には、銚子沖に進路を進めた。台風の北上に伴い、日本付近に停滞した前線の活動が活発となり、各地で大雨を降らせ始めた。この台風の影響で、各地に大雨、強風などによる大きな被害が発生した。台風が接近・通過した20日午後には、各地で非常に激しい雨を降らせた。降り始めの総降水量は、関東・甲信、東海地方の山沿いを中心に、300ミリを超える大雨となった。三重県宮川村宮川では455ミリ、静岡県伊豆市天城山では350ミリ、岐阜県郡上市長滝では325ミリの記録を観測した。台風の通過に伴い、管内は暴風域に入り北陸地域を中心に最大風速20m/sを観察した。富山県富山市では、累年の極値を超えた最大風速22,9m/sを観察した。…」。

非常に強い風と大雨を伴った台風が近づいてきた。今年は大型台風が幾度となく日本列島を襲った。テレビの台風情報は、過去10年の中で、最高の雨量を記録しそうな激しさあると報じている。

商店街のシャッターは全部下して、強風に備えていた。シャッターの内側で、ジッーと、台風の過ぎ去るのを待っている人の息を殺した気配があつた。「一身太助」も店を閉じていた。「ヒポクラテス」もシャッターを降ろしていた。夏目印刷工房からは、印刷機の音が消えていた。フラワー弥生のショーウィンドも、極彩色の花は真っ暗であった。商店街のバス通りは人気もなく、時々、オートバイが水溜りを、四方に飛沫を飛ばしていた。乗用車の轍は路面の水を掻き分けて、急いで帰宅した。6年2組のグループは、銭湯「玉肌の湯」のトキ婆さんの番台に顔をそろえて、嵐の通過するのを息を潜め、行方を眺めていた。昨日の地震に続いて台風の襲来なので、自然と話題は過去の災害になった。町一番の情報通のトキ婆さんの話は、問わず語りに明治大正の震災の惨事になった。

町内の生きた化石と呼ばれているお風呂屋「玉肌の湯」の暖簾の奥の番台に座るトキ婆さんは、推定95歳。町内の古今東西、今昔の裏表の情報を知り尽くしている、なんでもよく知る博識婆さん…。「あのねー。昔から、おうちの湯の中にはいろいろな薬草が混ぜられてるんだよ。薬用効果のある薬湯があってね、捻挫をしたー、腰が痛いだー、風邪を引いたー、頭が重ーと言ってはーね、このトキ婆さんのお風呂に入りに来るんだよ」。銭湯にやってくる一見の客も、医者のように症状を聞いて、いちいちそれに答えて、何やら怪しい緑やら紅いやら乳白色やらのドロドロした液体を湯船に流し込んでいた。今日もトキ婆さんは、女湯にいるひまわり先生のために、お湯の中になんの効用があるのか、そのつど妙な薬草を入れていた。ひとみ先生のアパートには、チャンと内風呂があるのだけれども、トキ婆さんとおしゃべりするのが大好きで、町内のことをいろいろ細々質問しているー。聞くと、幽玄寺の和尚と共同で昔から、境内で一緒に育てている薬草がたくさんあるようです。体から温めて病気を直す薬草風呂は、トキ婆さん独特の、秘密の特効薬がたくさんあります。中には、とき婆さんが秘伝の、夫婦円満、仲良く元気な子供が授かる「安産の湯」という薬草があるようです。噂によると、遠く関西の方から評判を聞きつけて、わざわざ夫婦が入りに来るそうです。

「…村を襲った天変地異のことは、町の外れの垣根の奥に住んでいた<おしゃべり爺さん>からよく聞かされたもんだが…」と、ペリーの黒船が日本に来た頃に、お江戸を襲った安政の大地震まで時間が遡った。明治27年の≪明治・東京地震≫こと、大正12年の≪関東大震災≫のことまで延々と聞かされた。時々、大風の激しい雨音がガラス戸を打ちつけた。いつもは、喧噪に包まれている商店街は異次元の空間のようにひっそりとしていた。風呂屋の暖簾をくぐった途端に、六年ニ組の仲良しグループは、トキばあさんの声に乗ってタイムスリップしたようだった。「…安政年間には、天変地異次々と起こったそうだ。地底に大地の音が響き、地が裂れ、天が堕るかと驚き、火が、四方より炎々と燃え出し、焔が天を焦がしおったが、手の施しようがなかった…助けてくれ、起こしてくれと、叫ぶ声が方々に上がったが、自分の命が精一杯で、もとても…」と、まるでさっき見てきたかのように、大昔の地震を語り始めた。太一が茶化して、「トキ婆さん、講釈師みたいだぞ…」と言うと、トキ婆さんも年の功、太一なんかより一枚も二枚も上手だった、「太一、実を言うとな、わしは魔女なんじゃー、今は185歳、ペリー提督と握手だってしたことがあるんだぞ…」と、みんなを煙に巻いた。「…安政年間には、今日みたいに巨大台風が関東を襲ったぞ。恐ろしいインフルエンザも大流行したそうだぞ。コレラや麻疹も流行って、何十万人も無惨に死んだぞ。鯰が騒いで、本所の井戸水が濁って、眼鏡屋の磁石に張り付いていた釘がポロポロ下に落ちたそうだ。象山のもの好きのバカたれが、磁石の地震予知機などをつくったぞ…昔にな、<稲村の火>という安政の大地震のエピソードが国語の教科書に載っていたがなあ。お前ら知ってるか? 大津波が村を襲うぞと、自分家の稲に火をつけて村人を避難させた、という話なんだがなー。徹よ、知ってるか…?」と、淡々と喋ったので、まるで昨日のことのように思えて、みんなの眼がだんだん真剣になってきた。「…それからな、わしたちの街を襲った明治27年の地震のありさまを、龍の爺さんの昔ばなしだがな…」と続いた。今の江東区を震源地とする震度7の地震は、東京の下町や、横浜や川などに31人の死人をだした。「…レンガの建物が多くてな~、特に煙突の倒壊が多かったので、<煙突地震>と呼ばれたそうだ。築地居留地の立教大学校の校舎も壊れたそうだぞ。…」と、トキ婆さんの昔ばなしは、泉のように次々と湧き出してきた。

今、6年2組の天野龍が乗った「アマノ電気店」のワゴン車がせわしなく通り過ぎた。トキ婆さんが関東大震災のことを話し始めた時に、助手席の窓から龍が手を振った。悟がすぐに、「あー、龍がこっちを見ている、茜を見て手を振っているぞ…」と、言ったので、急に現実に戻された。電線がビーン、ビューンと震えながら風の音を受けてまるでチェロの弦が低音を奏でるように反響した。風雨にたち向って挑むように、ピンクの傘をすぼめながら、全身に激しい雨を被って、風に踊るあや吊り人形のように人が歩いている。一歩一歩こちらのバス停の方へ近づいてくるのは、ひまわり先生です。朝から台風の危険を予測して、多摩川小学校は臨時休校になっていた。学校の職員も生徒の安全を確認して、早めに帰宅するようだ。

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第5章連載≪7≫「ひまわり先生、大事件です。豪雨と土砂崩れと土石流が地球を襲います…

2015年12月15日 | ファンタジーノベル


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ひまわり先生の子どもたち…、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、誘拐された勇樹を捜すために、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に帰ってきた。5人は固く手をつなぎ、桜の満開の下で、今この時の再会に、それぞれの顔を見合いながら感涙した。時の経過と共にお互いか失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた末に見つけた心の糧がここにあったことを頷いた。多摩川小学校には、町に住む茜や竜や緑たちの仲間がいた。

小さな街は、宇宙にしていたリンクしていた、そして、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…


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★登場人物の紹介★徹編★

安政4年の横浜開港時代より文明開化の波に乗り外国との貿易商を開いている横浜の老舗貿易商「横浜極東貿易」の小泉家の小泉徹は、小泉家の次男です。徹の一族は、遠い祖先から、親戚一族は、大なり小なり水に関係があった。東京湾に浮かぶ海苔船の船大工から出発して、多摩川の砂利を採掘する舟、蝦夷地と大阪を日本海を回遊して結び、海産物を運ぶ北前船の造船を手掛け、幕府の遠洋航海御用船の補修部品の御用を受け、明治期の夜明けには、横浜商人原善三郎や茂木惣兵衛などの生糸の貿易商人とも親交があった。幕末から明治維新にかけての騒乱期には、外国から来たイギリス人グラバーなどの貿易商とも交流があったと伝わっています。神奈川に設けられた運上所に慶応元年に、トロイ遺跡を発見したシュリーマンが日本を訪れたときに、運上所の通詞たち、福地源一郎や子安峻らと親しかった小泉家の語学上手の遠い親戚が、シュリーマンと片言の会話をしたとかーも伝わっています。彼は、この横浜で改掛の福島久治から輸入品の値踏みを教わり、貿易を始めたという。日清、日露戦争、第一次世界大戦、太平洋戦争にいたるまで、日本の歴史の動乱期と深く関わっていた。噂では、陸軍の食料量抹や武器火薬の輸送も兼ねて、中國大陸から大陸の貴重品を日本に輸入して莫大な利益を上げていたともいわれています。彼の家系のおじいちゃんもお父さんも、秀才のエリートでした。徹も利発で秀才ならば、兄の優雅は、それに輪をかけて天才肌であった。その才能を持て余でしたしている兄は商人の道から退けられて、小泉家の後継者とはならなかった。むしろ、趣味の陶芸と音楽、和歌の世界に生きている。子供の頃より、社長になるべくしてなる帝王教育を受けていたが、優雅の才能はそれを大きくそれていた。10年後の徹は、期待通りに貿易会社の社長となり、ひとみ先生の嬰児・勇樹失踪の捜索を真剣に追いかけていた。

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 眼を見つめながら話しをするひまわり先生の瞳が、次第に潤んできた。「…私たちと同じ東北の小学生に愛の手をさしのべたいのだけれども、みんなはどう思う?」と、一息に話して、みんなの反応を窺った。クラスの視線は、さっきまで地震の被害者を助けようと、呼びかけていた徹の方へ一斉に集まった。徹が、先ほどの「…大地の揺れに怯える子供たちに、温かい手を差し伸べましょう…」と、次を言い掛けたところで、突然に太一が立上って、ひまわり先生に第一声を発した。「俺は、家の店先の野菜をダンボールに詰めて、米俵を積み込んで、石川五右衛門の大釜のような大きな炊飯道具を乗せて、トラックの荷台を一杯にして東北に向ってひた走るつもりです。何より父ちゃんも母ちゃんも、俺に人助けを望んでいるはずなんだー。徹も、俺に賛成してくれるだろー。「先生、俺は1週間の欠席届を出します、いいですか?」と、大胆なことを言い始めた。君子が、太一の言葉に感激したように拍手をした。美佳が顔を紅潮させて、「素晴らしい、nice great…」と、瞳を輝かせた。悟が内心で、「よく言うよな…」と言った呆れ顔で、太一と君子を眺めた。徹が半信半疑の顔で、「運転は誰がするのかな?」と、心の隅で思いながらも、大の親友に近づき、「太一よ、よく言った…」と、肩を叩き熱い握手をした。ひまわり先生は、太一を叱るように、いつものようにニコニコして、「太一君、1週間の欠席は、たとえ崇高な目的をもったボランティア活動でも認められませんよ…」と、きっぱりと返事しました。

 涙があふれるばかりに昂揚したさっきのひまわり先生とは打って変わって、冷静であった。アメリカ生活の長い美佳が第二声を発した。「私が以前に居たニューヨークでは、地域のコミュニティ単位で、救援活動をしたわ。いらない物を持ち寄って救援物資をまとめ、ズボンのポケットから小銭を探って募金するの。私もずっしりと重たい貯金箱の中身を救援基金に入れ、サイズの合わなくなった洋服をダンボールの箱に投げ込んだわ。ニューヨーカーを真似て、多摩川の地域ぐるみで救援活動をしたらどうかしら…」と、太一と同じ勢いで提案をした。美佳のアイデアに異議を唱えるものは居なかった。「賛成、それがいい、すぐに始めよう、家にも不要品がたくさんあります、みんなで早速やろう…」と、美佳に賛成する声が合唱した。

悟だけがさっきから黙考している。何かを言いたいが、口から飛び出しそうな言葉を手で抑えているようで、苦しげである。ひまわり先生もこれに気が付いて、「悟君の意見は、どうなの?」、と聞いた。悟の家は、多摩川商店街で「ヒポクラテス薬局」を経営しています。ヒポクラテスというのは、古代ギリシャの哲学者で、医学の祖とも言われている。この薬局の屋号は、開店の時に母が熟慮の末につけたネーミングであった。以来、シングルマザーの母は、悟をこのお店の立派な後継者か、最近では、このまま商店街の薬局で燻らせたくないと考えていた。夫の亡くなった後は、だから、家出した神戸の実家に悟を預ける気でもいた。兎も角も、悟の将来に生き甲斐を見出していた。母の背中であやされている頃より、医療関係の仕事につくこと、薬局か病院の跡継ぎへの期待は、ミルクと一緒に悟の意識に注ぎ込まれた。今では、「ヒポクラテス」は、頑固な父親のような存在になっていた。だから、家出をして落語家に成りたいという悟の荒唐無稽な気まぐれは、父代わりのヒポクラテスへの幼い反抗でもあったともいえます。

以前より、悟はギリシャ哲学の本を図書館から借りて熱心に読み、古代ギリシャのコス島で生まれた「医術の父」を詳しく調べ、よく知れば知る程、「父」への懸命な反抗は、深い尊敬に変わった。多分、彼は、日本中の小学生で一番ヒポクラテスに詳しく、医学部のどんなに優秀な医師の卵よりも医の倫理を心得ていたかもしれない。「僕の母の実家は神戸で、お爺さんとお婆ちゃんが住んでいました。でも、10年前の阪神・淡路の大震災の時に震災の犠牲となりました。だから、災害の被災者のことが親戚のことのように思えて、涙が出てきます。ヒポクラテスは<医者に涙は要らない、悲しむ間に患者の命を救いなさい…>といっていますが、ヒポクラテスは違っています!医者も患者と同じ涙や痛みを持たなくてはいけないと思っています。東北の人たちが今、一番欲しいものは、怪我人の手当てをする医者と薬なんです。出来るならば、店の薬を全部梱包して送りたいです…」と、ここまで咽喉を詰まらせながら一気に言った。すでに、悟の目に涙が溢れていました。教室は水を打ったようにシーンとなって、校庭のざわめきがみんなの耳に声援のように浮き上がって聞こえた。感涙したひまわり先生が悟に拍手をした。君子は、「悟君、悟君は立派だわ…」と、泣いた。

でも、最近の地球はなんか変だ…。地球の今までの安定した自然システムがどこか狂ってしまったようだ…。地球を襲う大地震もそうだ、頻繁に世界を襲う津波もそうだ。ゲリラ豪雨も、それによって大雨が山を崩し、川を氾濫させ、土砂豪雨が家と町を押し流していた…。
海の温度は上昇しているー、海流も変わっている、温暖化は天候を異変させています。海底のマグマも地殻変動も活発である、火山が噴煙を上げて火山活動が始まっているー。この先、地球に何かが起きても不思議ではないです。生きているものを取り囲む自然環境は、徐々に、人間の生存を追い詰めていっているようだ。原始、恐竜が突然地球から消滅したように、人間もこの緑のプラネットから消えていくのかー?


第5章連載≪6≫「ひまわり先生、大事件です。…6年2組を大地震が襲いました。」

2015年12月09日 | ファンタジーノベル


ひまわり先生の子どもたち…、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、誘拐された勇樹を捜すために、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に帰ってきた。5人は固く手をつなぎ、桜の満開の下で、今この時の再会に、それぞれの顔を見合いながら感涙した。時の経過と共にお互いか失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた末に見つけた心の糧がここにあったことを頷いた。多摩川小学校には、町に住む茜や竜や緑たちの仲間がいた。

小さな街は、宇宙にリンクしていた、そして、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…

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★登場人物の紹介★君子編★
多摩川を挟んで東京都と神奈川県川崎市の両岸に跨る、多摩川沿線地域にも戦前戦後から今日に至るまで昭和史に残るような大事件も幾つかありました。が、ただ、歴史を変える10大事件というよりも、街を上へ下への大騒ぎになる、街の人々の生活と生命を脅かす大事件や大異変や大自然災でありました。例えば、1963年(昭和38年)に安藤組の幹部・花形敬が川崎市の二子で刺殺される花形敬事件がありました。1960 年代(昭和30年~40年代)に多摩川に工場排水の有害物質や家庭の生活排水が流れ込み、河面は洗剤の泡が浮き、どぶ川のように多摩川は汚濁した。多摩川流域の生活環境を壊した。1968年(昭和43年)12月10日に東京都府中市で現金輸送車に積まれた東芝府中工場の従業員ボーナス約3億円が、偽の白バイ隊員に奪われた三億円強奪事件があった。1974年(昭和49年)9月に台風16号の洪水により多摩川が氾濫して、二ヶ領宿河原堰わきの左岸堤防が決壊、東京都狛江市の民家19棟が流失するという大水害が発生しました。さらに戦後では、2000年12月30日~31日の未明にかけて、東京都世田谷区上祖師谷3丁目の会社員宮澤みきおさん宅で、みきおさんと妻泰子さん、長女にいなさん、長男礼君の四人の一家が殺害されているのが見つかった世田谷一家殺害事件が、未だ未解決事件として残され、既に時効を迎えています。最近では、2015年月20日に神奈川県川崎市川崎区港町の多摩川河川敷で13歳の中学1年生の少年が殺害され、遺体を遺棄された川崎市中1男子生徒殺害事件がありました。更に、2015年5月24日に川崎市川崎区の簡易宿泊所「吉田屋」で火災が発生、2棟の焼け跡から死者9人が発見された。昭和平成を生きた川崎の住人は、昭和の大事件を決して忘れないだろう…。ただ、玄遊和尚の幽玄寺境内でボヤのような火災があり、街では全く無縁なよそ者で、刺青の彫師が殺害された終戦の混乱時期の殺人事件を覚えている人間は少ないだろう…よ。君子の父・大橋はこの多摩川商店街の交番に勤務する警察官で、その娘・君子もまた警官への職業を運命づけられていた。父親の大橋巡査は、街の未解決殺人事件「幽玄寺刺青師殺人事件」に関心があるようで、熱心に聞き込み捜査をしていた。ある夜に、玄遊和尚のお寺を訪ね、その足で極東貿易の社長・小泉満を訪ねると言い残して、途中何者かに襲われ、謎の死を遂げた。誰に何の理由で、何故殺害されたのか、未だに未解決になっていた。しかし、君子の心の隅には、父の殉死の理由を突き止めたいー、謎の死を遂げた父の敵を取りたいー、という秘めたも父親譲りのデカ魂があった…父がいつも言ってたのは、「君子よー、この多摩川に住む町の人が安心できるように、君子の小学校の友達を守るためにいつも目を光らせているのが私の仕事だー。その仕事は大切だぞ。お前も、私の後をついでくれ…」というのが父の遺言でした。彼女も一時は父の遺志を継いでいたのだが…。

ただ、君子にはまだ少女の淡く可愛い夢もあった。漫画作家になりたくて。幼稚園の頃より、画用紙や学校のノートに漫画ばかり書いていた。よく悟に見せては自慢していた。警察学校を主席で卒業した後、警官である父親の仕事の崇高さを身近に理解していた君子も、女性警官としての警察庁初の女性管理職も望めたかもしれない。しかし、父の殺害事件を体験したことで人生が変わった。

後々、東欧でジプシーのように世界を放浪するサーカス団で、アクロバットをしているとの噂があつた。元々小さいころより器械体操の練習をスポーツセンターに通い、体は柔らかく、幽玄寺の和尚の道場で古武道の柔術を教わっていた。まれに見る身体機能は、スポーツの小学校部門の県大会でも100メートル短距離とマラソンと器械体操でトロフィーをいつも多摩川小学校に持ち帰っていた。10年後に再び、君子と美佳は、ニューヨークの中華街で偶然に再会、ひまわり先生の幼子・勇樹の失踪を知ることになる。。
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霜柱を溶かす朝日のように、初春の静けさを破る地震は、じわじわと忍びより、突然に地表を襲ってきた。もうすぐお雛様の5段飾りが君子の家にも飾られる3月の初めでした。先程から、一心不乱に左手のB5の鉛筆を走らせながら、時々右手の17色の色鉛筆を持ちかえていた君子は、「ゴーウー、グガーン、ドドドードー、ギシーギシィー」と、誰かが教室の床を大きな拳骨で叩いたような振動音を感じた。震動の最後に一気にドスーンと不気味な体感が伝わった。君子の手からレッドとイエローとブルーとグリーンの色鉛筆がバラバラと転げ落ちた。誰からともなく教室内に、どよめきが湧き上がり、静かな恐怖が皮膚に浸透した。「地震だー、揺れているよ。キャー、地震が来た…」。甲高い恐怖の叫び声、そのあとに、好奇心を含んだ驚き声がまきあがった。「何なの、これー」「後者の揺れてぞー」「どこが震源地かしらー」「みんな落ち着いてよー」と、徹が皆を宥めた。「君子、泣くなよー」と、悟が笑いながらふざけた。「ガラス窓がわれないかなー」と、龍が心配気に行った。俺の店の野菜が地面に落ちてるぜー」と太一が怒鳴った。

美佳が、遊園地の絶叫マシンの重力に耐えられなくなた恐怖心を吐き出すように、 「アースクエーク! イママダ、イマモユレテイル。Just now do you feel、地震よ、大変。地球が揺れている…」と絶叫した。建物の土台が小刻みに震動して、クラスのみんなの心は不安に揺れた。ハムスターのように急いで廊下へ飛び出すもの、猫のように頭を下げて机の下へもぐり込むもの、ネズミのように教壇に駆け寄り、部屋の四隅を無意識に走り回るもの、兎のようにジーッと体を震わせて硬直しいるもの…。恐怖を体感した者の防衛機制は、小動物のようにさまざまに反応を示した。

慌てて6年2組の教室に飛び込んできたひまわり先生は、「みんな、落ち着いて。ほらほら、騒がないで。廊下に飛び出た生徒は、直ぐに机に戻りなさい。教室をふらふら歩きまわっている生徒を見たひとみ先生は、「怖い時にはまず大きく一息呼吸して、気を静めてーね」と注意した。よかった、「今、揺れが収まったみたい。怖かった、ビックリして、先生の心臓、まだドキドキしているわ…」と、みんなの戸惑いに共感し、動揺を宥め、パニックを諌め、恐怖を慰めた。でも、ひまわり先生自身も、慌てていたようです、「怖い、誰か守って」というゆかしい女心を、先生らしい言葉の中に隠した。

翌日の6年2組の一時間目は、クラス会から始まった。昨日の地震は、飽食の笑いに満ちた関東地方を、一瞬ぴりっと引き締めた。さっきから徹が教室の前で、「私たちは、困った人たちに何か出来るとはないでしょうかーね? 喉の渇きを潤す水、空腹な腹を満たす食べ物、大地の揺れに怯える子供たちに、温かい手を差し伸べましょう…」と、懸命に救援活動の話している。いつも穏やかで冷静な口調の徹であるが、今朝の徹の仕草も話し方も、まるで檀家に説教をしている幽玄寺の和尚のように、激昂している。

始業チャイムが鳴って、ひまわり先生がいつも通り教室に現われた。いつもと違ってニコニコはしていない。こわばった表情に、硬い決心があった。昨日の恐怖をもう一度噛み締めるように、「まずは、昨日は恐かったですね。皆さんに怪我も事故もなくて、本当に良かったです。地震の震源地は東北地方、福島、宮城、山形の方でした。マグニチュード.8だそうです。神戸の震災なみね…。今朝からTVは現地の中継ばかり、震災の被害を見ると、津波に飲み込まれた人も、家屋の下に押しつぶされた人もー、被災者にお悔やみの言葉もなくなってしまうわね…」と言った。悟が、一語一語を短く区切りながら、「マ・グ・ニ・チュ・ゥー・ド」と、ゆっくり反芻した。美佳の脳裏に、「マグニチュード8」が、怪獣ゴジラのように巨大怪獣が地球を襲い、恐怖の爪痕を残した残像が浮かんだ。太一でさえ冗談口が出なかった。他人の悲しみに誰よりも素直に共感する君子の唇は、憂いを含み、薄氷が張っているように青ざめていた。

奇心旺盛の龍が、揺れ始めたときに先生は、どこにいたのと聞いた。「みんな、こわかたっわね、先生も恐かった。足がすくんで廊下で動けなかった。怖くない人なんて、いない筈よ。でも、この恐怖心が、恐竜のように絶滅することなく、ヒトが地球で生き延びて来た理由だと思うの。グラグラと揺れた時、震えて頭が真っ白になった。だからみんなと同じように先生も頭の中が混乱していたわ…。」と、言った。ひまわり先生は、揺れがたった今、収まったかのよう、昨日の地震を思い出していた。


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第4章連載≪5≫「ひまわり先生、大事件です。初春を迎えた6年2組は…」

2015年12月03日 | ファンタジーノベル


誘拐されたひまわり先生の子ども、勇樹を捜すために、君子、悟、美佳、太一、徹たちの6年2組の新聞班は、10年後にもう一度、小学校の桜の古木の下に戻ってきた。5人は手をつなぎ桜の満開の下で、今この時の再会に感涙した。時の経過と共に失ったものに哀しみ、世界を彷徨い探し続けた心の糧を見つけた。

小さな街は、宇宙に繋がっていた、広い世界の先は、生まれた街の臍の緒に繋がっていた。生きることは、いつも時空を翔る冒険だ。多摩川小学校には、茜や竜や緑たちの仲間がいた。知識は、地球を駆巡る魔法の杖だ。見つけたものは、地球を闊歩した巨大恐竜の足跡とグーテンベルクと戯れる蝶だった…

 
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★登場人物の紹介★悟編

悟は、多摩川町の街にある、商店街の薬局「ヒポクラテス」の息子です。将来は、母の実家が経営する神戸の総合病院の薬剤師か医師になれと、運命付けられ、期待されていました。医者になれなければ薬剤師…。でも悟は徹のようにあまり勉強好きでなかった。医者になれる薬剤師になるかは、彼の学力次第だった。君子が悟を、「サトチャン」と呼ぶのも、彼の薬局の前に「サトちゃん」の大きなキャラクター人形が置いてあったからです。毎朝、悟を迎えに来る君子は、眠そうに現れた悟の顔を見て冷やかし、「悟ちゃん、象のサトチャンが、笑っている…」と、クスクスと囃したて、揶揄しました。それで、いつの間にかそのまま、街では悟のニックネームになりました。だが悟の心底から望んだもうひとつの希望は、落語家になることでした。まあ、それは悟の母親への反抗心の一つでもありました。もう一つの悟の隠れた夢は、医師になることではなくて、寧ろ「病気」、人間の病をいやす薬に興味がありました。それはもう生まれたときから、悟の周りには色とりどりの薬のパッケージが並び、母親の言葉を覚えると同時に、その唇から響く薬の名前が、母の乳房と共に意識に刻まれのですから、自然に薬の箱は悟のおもちゃのようでした。世界の果てのアマゾンの未知と神秘に満ちたジャングルやアフリカの未開の未開の奥地を歩き、難病や不治の病気を治す新しい薬種を発見する探検家に興味は大きく膨らんでいた。果たして、10年後の彼は、ユーラシア大陸やアフリカ大陸などを植物ハンターとして放浪していました。偶然に、日本を遠く離れた外国のある町で、悟は君子と再会する。

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 朝の6年3組は、騒がしかった。1時間目の授業が始まるつかの間の数分間、教室内は無政府状態になる。その中で飛び交う、切れ切れの会話の騒々しさと猥雑さは、町内の事件から日本の裏情報まで、地球の出来事は、その数分間に圧縮されているかのように地球の出来事が充満していた。まるで、ガラスのジグソーパズルが教室の真中にぶち蒔かれたように、種々雑多の事件と噂と言葉が散乱していた。級長の徹はさっきから、「静かに、静かにしましょう…」と、カトマンズの僧侶が読経を読むように、教室の隅々にゆっくりと声を響かせたが、一向に沈静しそうになかった。

 すでに6年2組の役者の一人、悟の独特会が始まっていた。興奮の坩堝の朝は、鎮まりそうになかった。机にランドセルを置くや否や、悟は、古典落語話の寿限無の一席を喋り始めている、「…和尚さんにめでたい名前を紙に書いてもらったが、そりょ長々、おーいあのそのあれ、朝子供の声を聴いて一言。おはよう、イイ子だねー」と子供に声をかけても長くて長くて、…寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の、水行末、雲来末、風来末、食う、寝る所に、住む所、薮ら柑子のぶら柑子…ジュゲムジュゲム、ゴコウノの、パイポパイポの…長くて長くて、子供の名前を言い始めて日が暮れちまったよ…もう暮れ六つのお寺の金が…ゴーンと鳴り始めちゃったよ…」と、唾をあちこちに飛ばしながら、体を後ろに曲げてひとくさり、隣に身をのり出したりしてまたひとしゃべり。仕草も玄人はだしだしです。彼独特のおどけた声で、いっそうテンションが上がってくる。「茜、おれの落語って案外、面白いだろ!?」。寄席に行ってじっくりその仕草まで観察して、よく真似ている。ア~ダメだ。ちょっと、上手くなーい? 「茜、その内に寄席の高座に立つからさ、聞きに来いよな…」と、しきりに茜に吹聴している。トキ婆さんの噂だと、「悟は茜に惚れてるね・・・」だってさ。

反抗期に入った悟は、母親の期待通りに、医学部に入って、勉強して、母の実家の大病院の医者か薬剤研究者になるのが嫌でイヤでたまらない。でも、ときどき、落語家の語り口をそっくり真似て、教室の前列に二つ並べた机を高座に見立て、みんなを前に駄洒落まじりの一席を、剽軽と披露するのが、今の悟の唯一の反抗と楽しみだったー。幼いころから悟を一番よく知っている君子に、よく愚痴を吐いていた。「あーあ、医者なんかになりたくねーえ。だいたい、俺はね、注射も薬も嫌いなんだーよ。中学を卒業したら家出して、名人を目指して落語家一門に弟子入りするぞ。子供がなりたい仕事に一心不乱に努力して、名人と呼ばれるのが、それがママに見せたい俺の晴れ姿だーよ。そうだろ、君子」。君子は笑い乍ら、「悟はバカね!お母さんが許すわけがないでしょ。悟の神戸の実家って、ものすごい家系なんでしょー。昔の御殿医で、大きな病院を経営しているんでしょ…。」と、些か呆れ果てている。悟をだけよりも理解している君子は、悟の幼稚な気まぐれと見ていました。悟の運命づけられた医師という職業も、子供たちの憧れの職業でもあります。

でもとうの君子は君子で、授業中に勉強はそっちのけで、ノートに漫画を制作中です。君子を一番よく知っている悟によると、「君子は漫画家になることが夢だから、がんばれ君子…。人間は、なりたい仕事で一流になるのが、一番幸福なんだーよ」。だから悟も君子を心から応援している。ペン先から自分によく似た楽しいキャラクターを雑誌に描きたいそうだ。「君子よ、キャラクターの瞳がちょっとキラキラ輝きすぎていないかな、なんか眼が大きすぎるよ?今の流行のキャラクターを追いかけんだ、君子。いまどきの少年少女が求めているキャラクターは、イチロウのようなスポーツヒーローか、ウィンブルドンで活躍しているテニスの錦織か、ITで巨万の富を掴む青年実業家、例えばだな、マイクロソフトのビル・ゲーツとか、アップルのスティーブ・ジョブズとか、そう、日本で言えばソフトバンクの孫正義とか、楽天の三木谷浩史とか、医者ならば、手塚治虫の登場人物のブラック・ジャックみたいな謎のドクターがいいよね。、今のアニメならば≪ワンピース≫ナンカいいよねり…、肉体か、金か、夢だよ…ね」と、悟は、君子のマンガを応援している。若者たちのマン人気は凄いものです。近頃の漫画家の収入は、「ONE PIECE」の漫画家、尾田栄一郎の年収は31億円以上と言われています。漫画一本のヒット作で、昨日まで教室の片隅でノートの切れ端にチョコチョコ漫画を描いていた地味で見立たないマンガオタクが、突然の幸運と偶然のヒットによって、趣味が高じてプロの漫画家への夢を実現した漫画家はたくさんいます。途端に、高級マンションに住み、ベンツを乗り回し、ハワイにペンションを持つ贅沢でゴージャスな生活を送れる人気漫画家になるのだから、凄い社会現象です。ひょっとしたら、パティシエやサッカー選手なんかよりもずっと若者の憧れの職業かもしれません…。

 地域通貨の事件以来、頻繁にディズニーのキャラクター漫画を描いては、富田工場長へ見せに行っているようだ。近頃、君子と悟の仲は、新しい関係になりつつある。ミッキーマウスの鼻の形や、ミニーちゃんの耳の大きさを、ああだ、こうだと、結構真剣に楽しく会話している。

 教室の中でも、太一の大声はガラス戸をビーン、ビーンと共鳴させていた。一心太助の店先で、並んだ野菜を前に絶叫しているようだ。野菜の話になると夢中になってしまう。どうやらまたは始まったようだ、「春の七草は、昔から身体にいいものばかり、いいかていいか、七草粥は今流行の「薬膳料理」なんだぞ、七草粥を食べると風邪ひかない…。すずしろは、大根。すずなは、蕪のこと。芹は便秘にいいんだ。今朝、ウンコでなかった奴は居ないか?君子、大丈夫だったかよ、顔色悪いんじゃないか? 」と、太一らしい話題の第一声が大きな笑いを誘った。「太一の変態、朝から汚いこと言わないでよ、バーカ~」と、早速に君子が噛み付いた。太一のそんな冗談に顔を赤らめている君子ではない。季節感がなくなった現代、八百屋に並ぶ野菜も春夏秋冬を次第に失ってきました。正月の後に、あっという間に節分が来て、すぐに雛祭り、やれやれと言う間にバレンタインデー、おやっという間に端午の節句、エー、あれよあれよと、暦が次々とめくられていきます。太一の叫ぶ野太い掛け声も、季節の移ろいを知らせる時の声なのであろうか。

 初春を迎えたひまわり先生の挨拶は、妙に熱がこもっていた。「1月15日は先生のお誕生日であり、旧暦のお正月でもあります。おめでたい日が二つ重なってます…」。
ひまわり先生が言った時、ウォーとどよめきが涌いた。乙女の微妙な年齢をはっきりと聞けないが、多分、成人式のお祝いはとうに終わってしまっただろう?「…お正月には、お年玉をたくさんもらって、おせち料理をたくさん食べたと思います。五穀を司る年神から与えられる魂が≪お年玉≫ね、年神を迎えてお祝いする膳が≪お節料理≫です…」と、ひとみ先生のいつもの薀蓄がさりげなく披露されました。

 教室の入り口で、太一の口上を耳にはさんだのか、七草粥にも触れた。「・・1月七日には一年の邪気を払う≪七草粥≫を食べる風習もありますね。それでは太一君に質問、春の七草は、どんな植物がありますか?」と、太一をすっかり調子にのせるような質問をした。太一は、先ほどの口上を再び力んで繰返した。「…先生、僕にそれを聞いてくれてよかった、僕のうちは八百屋だよ。他の人に聞いても知るわけがありませんが、それを知らないと言ったら、父ちゃんにどやされます、母ちゃんにお小遣いを貰えません」。思わず「いいぞ、一心太助」と、喝采の声が飛んで、みんながドゥーと笑った。「…エーと、芹、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草…これで七草。どうだ、俺はヤッパリ八百屋の息子だな」と、立て板に水、春の七草をスラスラと言った。

「太一君、すごい、本当に凄いわ、100点満点よ。でも先生にもちょっとだけ言わせてくれる。七種粥は平安時代からあった日本人の旧い習慣。昔は、米、粟、黍、稗、胡麻、小豆、ミノなどの穀物を入れて炊いていたそうよ。6日の夜に、ヒイラギの小枝を入り口に挟んで、〈七草なずな、唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ先に、七草なずな…〉と、包丁で刻み、邪気を払つたそうよ。今頃に丁度インフルエンザが流行るでしょうー。あれは厳しい寒さの季節にシベリヤや中国などの大陸から日本に、渡り鳥が風邪の菌、ウィルスを運んでくるのよ。だから、よくインフルエンザがはやると、今年流行のインフルエンザは、香港B型とかA型とかいって予防接種を受けてるでしょー。ある時は、鳥ウィルスH5N1が人間に感染したとか騒いでるでしょー。あれよあれ。鳥とか家畜だけにしか感染しないインフルエンザが人間にも感染して死んでしまうのー。これは悟君が詳しそうねー。だから昔の人は知っていたのねー。、唐土の鳥が日本の土地に渡らぬ前に、厄払いしましょう…と言ってるのよ。ちょっと面白い風習でしょう。日本人って、不思議な民族でしょ…」、と、付け加えた。自慢にならない、さり気無い教養、仕草からにじみ出てくる優しさ、うっとりするような話し方、天使のように明るい笑顔。太一まで、ひとみ先生の話しにうっとりと聴き惚れていました。憧れの先生に太一が寝ぼけたように夢心地に囁いた、「ひまわり先生こそ、不思議な先生ですーね。」

 それから、グーくぅーグーと、教室の中から気持ちのよさそうな鼾が聞こえてきました。「おい、太一、起きろ、目を覚ませ !」と、徹が太一の体をゆすっている。ひまわり先生の声は、太一を夢見心地の居眠りに誘ったようだ。

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