引っ越してきて以来、空けることのなかった引き出しを空けてみる。
内装工事以来、全くお掃除したことのない場所を覗いてみる。
このシーズンは誰でもそう言う気分になるのだろうか。
たしか、5年前、オーディションで注目を一心に集め、7つのレーベルやA&Rの面接から彼女自身が一つに決め、もらわれて始まったレコーディング、そして、ジャケットやPVの撮影、取材。必ずデビューにはつきまとう怒濤の日々。売れているからでなく売り出すための準備にも怒濤の日々は付いてくる。
やがて、ライブのためのリハーサル、もちろんすべてのための打ち合わせ。
ここまでで売れてるような気分にもなる。
今までと全く違う日々が毎日を塗りつぶしていく。
次々と知らない人たちが笑顔で現れ、新人という名の未来に向かって一人じゃないんだと気持ちが引き締まる思いになる。
夢の先へ。
もっと先へ。
ギターで作ったみずぼらしい曲もアレンジでヒット曲のようなフォーマルな姿に変わり、自分が自分じゃなくなっていくような時間がすぎていく。
けれど、3ヶ月、6ヶ月過ぎると、夢の先が不安に変わり始めたりもするんだ。
デビューしたとたん賞味期限が目の前に迫ってくる。
1年もすれば、回りから答えが勝手に見えてくる。
まだはじまってもいないのに、と彼女だけが取り残されて。
あの頃にあった人たちに会うのが怖くて。笑顔であの時と同じように現れた人に彼女だけがバーゲンに出されたコートのような気分になって。
このあたりからズレていく。
彼女はレーベルを移籍することに決めた。
再出発の12月は5年前の彼女を以前より輝かせただろうか?
一度通った道だから、もう迷わないと、彼女は心に誓う。
レーザー・ラモンHG見ていると去年のギター侍を誰だって思い出す。
それでも、売れた方がいいんだ、売れないままに消えていくよりは。