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しんどいなと思ったら、堂々と《家事定年》してもいい。88歳・樋口恵子の〈老い〉の知恵

2021-09-19 12:00:00 | 日記

下記は婦人公論jpオンラインからの借用(コピー)です

昨日できたことが、今日できなくなるのが高齢者。家事が面倒になったらどうすればよいのでしょうか。『老~い、どん!』『老いの福袋』などの著書で、高齢者のリアルをユーモアをもって綴る樋口恵子さんは、何をするにもヨタヨタヘロヘロ=「ヨタヘロ期」まっただ中。ある時、「調理定年」「家事定年」したというが……(構成=篠藤ゆり 撮影=村山玄子)
買い物や料理がしんどくなってきた
私は、いま88歳。気づけば女性の平均寿命を超えました。50代の頃、仲間たちと「高齢社会をよくする女性の会」を結成し、2000年には「介護の社会化」を旗印にした介護保険制度を実現しました。最近では新型コロナウイルスが高齢者の生活に与える影響について、厚生労働省の分科会などで話し合っています。
常に書いたり走り回っている私ですが、後期高齢者になってはじめてわかったことがあります。70代までは元気だったのに、80代になったとたん、昨日できて今日できなくなることが増えてきたのです。
たとえば、買い物から帰宅した時、レジ袋を両手に提げたまま玄関からサッと上がるつもりが、框(かまち)に足をひっかけて派手に転んだことがありました。ある時は公共の和式トイレでしゃがんだあと、どうやっても立ち上がれなくなって……。これは思い出しても泣けてきます。
加齢とともに体力が落ち、体を動かすことが難しくなる──こうした高齢者の運動能力低下について、最近はフレイル(虚弱)、サルコペニア(筋力低下)などの名称がついていますが、何をするにもヨタヨタヘロヘロするので、私は「ヨタヘロ期」と呼んでいます。

85歳以上の女性の約28%が低栄養傾向
昔から掃除は苦手でしたが、料理は得意でした。もともと食いしん坊だったからでしょう。70代までは近所のスーパーやデパ地下でたくさん食材を買って帰り、自分好みの料理をつくって楽しんでいました。
ところが80歳を過ぎた頃から面倒になってきたのです。昔ほど空腹感を覚えないせいもありますが、次第に料理もおっくうに。好きなものを適当につまんでいたら、低栄養との診断を受けてしまいました。厚労省の国民健康・栄養調査によると、85歳以上の女性の約28%が低栄養傾向だそうです。
「良妻賢母」の見本みたいだった同世代の知人女性も、「夫が亡くなったあと、自分一人のために料理をつくるのは面倒」と言っていました。家族のために頑張ってきた方はモチベーションを保つのが難しいのかもしれません。
そこで提案です。定年退職と同様に「調理定年」があっていい。さらに言えば、「家事定年」があってもいいのではないでしょうか。
以前、「女性に調理定年があってもよいのでは」と本に書いたところ、「気がラクになった」という反応がかなりありました。真面目な主婦ほど、宅食サービスを頼んだり、お惣菜を買うことに罪悪感を覚える方が多いようです。
でも、夫は定年退職したのに、妻は80歳を過ぎても家事に縛られているとしたら、ちょっぴり不公平。もちろん家事が日々の張り合いになっているなら問題ありませんし、そういう方を尊敬します。でも「いままで続けてきたから」「私しかやる人がいない」なんて言わずに、主婦業も堂々と定年宣言してよいと思います。
樋口恵子さんの新刊『老いの福袋』中央公論新社
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「シルバー人材」「宅食サービス」を活用
「調理定年」「家事定年」を宣言した私は、人の手を借りることにしました。私は84歳で家を建て替え、娘と同居中ですが、彼女は医師として忙しく働いています。いわば大人が2人、シェアハウスで暮らしているような生活。食事時間も違いますし、家事をすべて娘に任せようとは考えませんでした。
そこで、週に2回、私が自宅で仕事をする日に、「シルバー人材センター」から派遣される女性に家事をお願いすることにしました。「シルバーさん」には、買い物、昼食の用意と夕食のつくりおき、掃除などをお願いしています。掃除は、週2回だけで十分。私はもともと神経質ではないですし。さらに、食事に関しては、週に1回、昼夜の「宅食サービス」を契約中。これで週に3日は食事の心配から解放されます。それ以外の日は娘と夕食をとることもあるので、栄養状態は格段に改善されました。
そして、予想外に大変になったのがゴミ出しです。地区のルール通りに分別して、時間までに集積場まで持っていくのは、高齢者にはハードルが高い。地域の方の親切心に頼ってばかりもいられません。結局、ゴミ出しは娘に全権委任しました。

「家族減少社会」が教えてくれたこと
いま日本の高齢化率はぶっちぎりの世界1位。きょうだい親戚がたくさんいた時代は去り、一人っ子同士の夫婦の場合、2人で4人の親を支えなければならない。この高齢化が進んだ「家族減少社会」が教えてくれたのは、「困った時は、有償でアカの他人の手を借りてもいい」という、新しい助け合いの精神だと思います。
私のささやかな貯蓄は、そのためのものでもあるのです。依頼する側としては、自宅の冷蔵庫と心をオープンにする覚悟が必要で、これは「介護され上手」になるための第一歩ですね。
「シルバー人材センター」に興味がある方は、お住まいの市区町村に問い合わせを。また介護に関しては地元の「地域包括支援センター」に相談するとよいでしょう。民間や市民団体の生活支援サービスも増えています。
しんどいなと思ったら、ご自身の判断で「家事定年」を決めるとよいと思います。もし他人の力を頼りたい場合は、上手に取り入れて。老いの暮らしを安全で充実したものにしていただければと思います。
老いの福袋
作者:樋口恵子
出版社:中央公論新社
発売日:2021/4/20
出典=『婦人公論』2021年5月11日号
樋口恵子
評論家・東京家政大学名誉教授  



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