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がん「だけ」死滅、光免疫療法 開発の道程と治療のいま

2021-06-14 15:30:00 | 日記

下記は朝日新聞デジタルからの借用(コピー)です

「光免疫療法」はがんだけを狙い撃ちする新たな治療法です。国内20施設で、保険による治療が受けられます。いまはまだごく一部のがんが対象ですが、どのように開発され、どんな治療なのでしょうか。
 光免疫療法の開発者で米国立保健研究所(NIH)のがん研究所主任研究員、小林久隆さん(59)にお話を聞きました。
小林 久隆さん 略歴
こばやし・ひさたか 1961年兵庫県生まれ。87年京都大医学部卒。95年京都大大学院を修了し渡米、NIH研究員に。98年に帰国し京大医学部助手を経て2001年に再渡米、NIHの国立がん研究所(NCI)に勤務。05年から主任研究員。21年1月、「がんを瞬時に破壊する 光免疫療法 身体にやさしい新治療が医療を変える」(光文社新書)を出版。
世界初、新薬承認
 ――従来の治療が効かなくなった頭頸部(とうけいぶ)のがん患者向けの新薬に公的医療保険が適用されました。
 米国で研究をしてつくったもので、アメリカでの承認が先かなと思っていました。
 日本人のためにまず、使われることになったことは素直にうれしい。
 患者さんの数はまだわずかですが、「治った」と喜んでもらえるのが一番の喜びです。
 ――30年越しの研究でした。
 「がんだけを死滅できないか」と考え始めたのはまだ大学生のころです。
 たんぱく質の一種で、体内に入った病原体などの異物にあたる「抗原」にくっつく性質があるのが「抗体」です。
 抗体を使えば、がんの治療も簡単にできると思っていて、こんなに長くかかるとは思っていませんでした。
 放射線診断・治療を専門とする臨床医になったころから、「手術」「放射線」「化学療法」の3治療が、がん治療の中心でした。
 しかし放射線治療の多くの場合、照射すると正常の細胞も含めて、「焼け野原」になってしまう。
 従来のがん治療は、がん細胞だけでなく、体を防御する免疫力を落としてしまうという大きな矛盾を抱えているのです。
 「がんだけ」を実現するため、失敗と工夫を重ねた30年超。ある意味、放射線科医が放射線を捨てたんです。
がんがあるところで「毒」に変化させる
 ――開発途中に限界を感じたこともありましたか。
 抗体に何かをつけて体内に入れれば、がん細胞に到達すると見当はついていました。
 数々の薬や放射線同位元素などで試しました。しかし薬はどうしてもがん細胞だけでなく、正常な細胞にもダメージを与えてしまう。使う量の限界というネックがありました。
 2004年ごろに発想を変えました。「がんを殺す毒を入れるのでなく、がんのところでだけ毒に変身させればいい」
 がん細胞のところで「毒」に変わるトリガーが必要になります。何がいいか? トリガーが毒になっては意味がない、と発想は少しずつ変わっていきました。
 体に無害な光を使うことを決め、光に反応して細胞を殺せる化学物質を探すことが次の目標になりました。ついに09年、「IR700」を見つけました。
ここから続き
 ――渡米し、ご苦労もありましたか。
 米国の研究が順調だったわけではありません。日中は所属するラボのプロジェクトの仕事があります。
 共用の機械を使って自分の研究の実験をするのは、夜中がほとんど。研究所の近くに部屋を借り、ほかの研究者の実験が終わるのをじっと待って、夜中の1時や2時から始めていました。
 昼間にデスクで仮眠するなど、不規則な生活でしたね。若くて元気でした。今なら絶対、体がもちません。
 そんな僕の姿を今のボス、チョイキ先生が見ていて、「夕方の僕たちの機械の時間を使っていいよ」と言ってくれた。それで、だいぶ実験がしやすくなりました。
やりきるまでやろう。やめられるか
 ――研究を継続する意欲をどう維持してきたのでしょうか。
 研究はスポーツに似ています。世界のトップをめざすなら、常に走り続けていないと。そう思ってきました。
 過密な生活でしたが、自分の頭の引き出しにはオプション、まだやり残したことがある。やりきっていないのにあきらめられない。やりきるまではやろうと。やめられるかという思いでした。
 今までにないものの開発に挑み、できるという確信はなかった。でも完成すれば絶対に多くの人の役に立つという自信と、理論的には進めていけそうな道は常にあったので、日々、研究を続けてきました。
 ――光免疫療法によって、免疫力が高まるのですか。
 動物実験では、確実に免疫が上がることがわかっています。
 この手法は、体内のがん細胞を壊して減らし、そこから出てくるものをターゲットに、さらに体に免疫を作らせようという両にらみの手法です。
 つまり、光を当てて破壊されたがん細胞の破片が「質の良い」多種の抗原となり、健常な免疫システムがそれらを認識して体の免疫を上げる。
 がんを認識するリンパ球が増え、残ったがんを攻撃する。いったん治癒した後は長く再発を防ぐことになる。こうした免疫の「教育システム」を健常なまま残すことが光免疫の「みそ」です。
 まだヒトでは証明されていませんが、それをめざした治験も始めています。
 ――保険適用となるのは現在、進行した頭頸部がんの患者のみで、実施する施設もまだわずかです。
 「いつどこでこの治療が受けられるのか」と多く問い合わせをもらいます。現時点では該当する方以外は、標準治療を優先してくださいと答えています。
 医師は自分がいま出来るベストの治療を選択します。主治医に相談して適切な治療を受けてください。
がん治療が根本から変わる可能性
 ――将来の理想の姿をどうみていますか。
 対象となるがんの種類は増やしていきたい。将来的には、がんの部位にかかわらず、まず光免疫療法をして、それで治らなかったら外科手術や放射線、化学療法といった選択をするのが理想です。
 光免疫療法は体へのダメージが小さく、何度でもできるので、これを先にしたから他の治療ができない、効果が落ちるということがないのです。実現すれば、がん治療が根本から変わります。
 ――実用化も少しずつ進みます。
 安い開発費で、効く薬をつくる。安い値段にしていくことをめざしてきました。
 それ抜きには、医学研究は医療にはならないし、やっと研究が医療になりつつあると感じています。
 科学として深いところに到達することと、人の役に立つ、実用化を進めることは少し異なる方向性です。ある程度までは同じですが、どこかでどちらに行くかを決めなければならなくなる。
 どちらかといえば、自分は実用化を選びます。
 ――今年、60歳。日本流には還暦です。この先どうされますか。
 NIHって定年がないんですよ。昔のボスは88歳で、いまだにブランチチーフです。時々相談にのってもらうのですが、論破されて帰ってきます。
 NIHではいつまでもプレーヤーでいられますが、研究が一定のレベルに達さなくなれば、すぐクビになります。
 もともと僕は「明日は明日の風が吹く」というタイプなので、あまり先々のことまでは決めていません。
 ただ、がん治療の新たなチョイス、あまりつらくない光免疫という治療をさらに成熟させて、多くの人に届くようにどんどん進めていきたいと思っています。
 自分の世代の多くの人ががんになる前に、なんとかこの治療で完治できるよう、若い世代に届けられるよう、頑張って今後も研究を続けていきます。(聞き手 編集委員・辻外記子)
国内施設で保険治療始まる
 光免疫療法によるがんの治療は国内でも進んでいる。
 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)では、2人が治療を受ける。
 口腔(こうくう)がんが再発した50代男性は、治療の約1カ月後にがんが小さくなっていることが確認された。その後周囲にがんが増え、2回目の治療を受けて経過観察中だ。
 中咽頭(いんとう)がんが再発した50代女性は、1回目の治療でがんが縮小し経過をみているという。
 患者は1週間から10日間ほど入院して治療する。まず今年1月に発売された新薬「アキャルックス」の点滴を受ける。
 この薬は、近赤外光をあてると反応する化学物質「IR700」を、抗体(たんぱく質)に結合させたもの。この抗体にはがん細胞の表面にある特定の分子「EGFR」に結びつく性質がある。
 薬が体内に入り約24時間後に近赤外光をあてると、がん細胞に結合した薬と光が反応し、がん細胞が壊される。
 具体的には、手術室で腫瘍(しゅよう)に波長690ナノメートルのレーザー光をあてる。腫瘍に針を刺して内部から光をあてる手術法と、腫瘍の表面に光をあてる方法がある。
 腫瘍の再発部位や深さにより異なるが、照射時間は4~6分。腫瘍の大きさによるが、手術そのものは数十分という。
 術後は、投薬の影響による光過敏症を避けるため、1週間~10日間ほど薄暗い部屋で過ごす。
 1カ月間は直射日光を避けることが求められる。外出する際は、帽子にサングラスを着用し、季節によらず長袖、手袋をして過ごすという具合だ。
 治療の後、光をあてた部分の痛みや顔・首回りの腫れを訴える人が多いという。
 東京医科大学病院の塚原清彰教授(耳鼻咽喉(いんこう)科・頭頸部(とうけいぶ)外科)は、「全身麻酔をしていても、がん細胞が壊れる際の痛みなどで血圧が大幅に上がることがある。また全身麻酔後に強い痛みを感じる人もいる」と話す。
 また、薬に含まれる分子標的薬「セツキシマブ」の作用で、背中などに皮膚障害が現れることもある。その際は、保湿剤などでケアをする。
 1回で腫瘍の縮小がみられない場合は、4週間以上あけて再度試みる。
 国立がん研究センター東病院の林隆一副院長(頭頸部外科)は「症例が少なくはっきり傾向を示せないが、今のところ複数回の治療をする人が多い」と話す。
 この治療は、所定の講習を受けた医師がいるといった条件を満たす20施設でのみ受けられる。
自由診療は別、注意が必要
 費用は薬代だけで1回約400万円だが4回まで公的医療保険が適用され、高額療養費制度が使える。69歳以下の自己負担上限は、年収により月3・5万円~30万円程度だ。
 自由診療で「1回30万円」などと案内する医療機関もあるが、承認された光免疫療法とは異なり、注意が必要だ。
 アキャルックスを販売する楽天メディカルジャパンは、自社の技術基盤を「イルミノックス」と商標登録している。注意点などは、同社のサイト(https://pts.rakuten-med.jp/akalux)に掲載されている。
 厚生労働省は光免疫療法を、審査期間を短縮する「先駆け審査指定制度」の対象とし、「条件付き早期承認制度」も適用。最終段階の臨床試験(治験)の結果を待たずに2020年秋に承認した。
 販売元は市販後の調査を求められており、治療成績などについて、180例を目標に集め、結果を報告する。
 ほかに、胃と食道がんの医師主導治験も実施されている。
 がん治療全般に詳しい静岡県立静岡がんセンターの山口建総長は「頭頸部がんにおいて光療法の効果は明確になった。今後、大規模な臨床試験で、長期予後や免疫が活性化されてがんに及ぼす効果などを調べ、既存の治療に比べてメリットが大きいかどうか、明らかにされるだろう」と話す。
 胃や大腸など他の部位のがんについては、「がん細胞での薬剤の標的となるたんぱく質の存在が頭頸部がんほどでなく、また、がん表面にしか光照射ができないなど制約が多い」と慎重な見方をする。(熊井洋美、編集委員・辻外記子)
光免疫療法の治療をする病院
 宮城県立がんセンター、埼玉医科大学国際医療センター、国立がん研究センター東病院、東京医科大学病院、東京医科歯科大学病院、横浜市立大学病院、愛知県がんセンター、京都大学病院、大阪国際がんセンター、大阪大学病院、関西医科大学病院、神戸大学病院、鳥取大学病院、岡山大学病院、広島大学病院、九州大学病院、久留米大学病院
 (楽天メディカルジャパンによる。非公表の施設を除く)



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