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最悪のコロナ禍の最前線で奮闘 米在住の日本人医師に聞く

2021-04-10 13:30:00 | 日記

下記の記事は日刊ゲンダイデジタルからの借用(コピー)です


 世界最悪のコロナ禍に襲われる米国、それも最前線で患者と向き合うボストン在住医師の著書「医療現場は地獄の戦場だった!」(ビジネス社)が話題を集めている。ワクチン接種開始から3カ月が過ぎ、事態は改善に向かっているのか。聞き手を務めたノンフィクションライターの叔母が最新情報を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――日本では医療従事者へのワクチン接種がまだまだ終わらず、先が見えないが、米国では?

 昨年12月11日に使用許可が出されると、すぐに始まりました。全米の最新データ(3月18日付)では医療従事者、教員、70歳以上の高齢者の65%が必要量のワクチンを接種済み。一般の人を含むと全国民の21%が済ませ、2月中旬から多くの州で69歳以下の一般の人への接種も始まっています。

 ――スムーズに進んだか。

 とんでもない。接種に関する情報は、国から州へと伝わるわけですが、ルールがコロコロ変わっています。私の住むマサチューセッツ州では、当初は接種場所が病院に限られていたのに、ある日突然、町のクリニックやドラッグストアチェーンなどに変更され、病院は指定病院だけになった。前例のないことだから仕方ないとは思いますが、混乱を免れませんでした。

 ――日本と同様、接種券が配られたのか。

 いいえ。マサチューセッツ州では、州政府が提供する「コロナウイルス最新情報」のウェブサイトへ自分でアクセスしなければ、具体的な情報を得ることができません。3月下旬現在、接種資格があるのは医療従事者のほか、60歳以上、特定の病状を持つ人々、低所得シニア住宅・介護施設の居住者とスタッフ、ファーストレスポンダー(救急医療、警察、消防などの最初の対応者)、教育者・学校スタッフ、特定のカテゴリーの労働者などと細かく決められています。自分が該当すると確認し、接種場所を選び、ウェブ予約をしないといけないのです。

■「なぜ救急医の私より先なんだ」嘆いたことも

 ――自身がワクチンを打ったのは?

 昨年12月下旬と1月末の2回。接種場所は職場でもあるハーバード・メディカル・スクール系列のブリガム・アンド・ウィメンズ病院ですが、ここでもスムーズに順番が回ってきませんでした。系列病院は15あり、計7万8000人が働いている。スマホのアプリで予約するシステムが採用されましたが、初日に予約殺到でパンク。結果、1週間ほどシステムが止まってしまった。「どうなってるんだ」「もう待てない」などと病院内メールが飛び交い、騒然としました。コロナ患者が毎日運ばれてくる私たち救急部と、コロナ患者とほとんど接することのない他部や事務スタッフなど、感染リスクの度合いはさまざまです。ところが、予約アプリにそうした配慮がなく、運良く早く予約が取れた人が事務職のスタッフだったり。「何でこの人の方が救急医の私より先なんだ」と嘆いたこともありました。

 ――筋肉注射ですか?

 はい、もちろん。私は利き手でない方の左腕に打ってもらいました。ファイザー製。接種後は別室でソーシャルディスタンスに配慮したイスに座り、15分のタイマーが作動。副反応はなく、そのまま帰宅しましたが、注射した箇所に2日ほど痛みが続きました。

 ――副反応については?

 アレルギー症状のアナフィラキシーはCDC(米疾病対策センター)の報告では20万回に1回の割合。私の目の届く範囲では全く聞きません。手元にあるデータでは、2回接種して痛み、倦怠感、筋肉痛、寒け、熱などの症状が出た人が3%、死亡例はありません。

 ――それでも、拒否する人はいるのでは?

 います。黒人、ヒスパニックから「コロナに効果があるというのは嘘で、人体実験されるんだ」という声も聞きます。彼らが人体実験に利用された過去があるからなんです。有名なのはアラバマ州の公衆衛生局が1930年代から40年間にわたって行ったタスキギー梅毒実験です。約400人の黒人を梅毒に感染させ、治療せずにそのまま放置して経緯観察した。梅毒の自然的経過を観察する目的だったとされるこの非倫理的な人体実験で少なくない黒人が亡くなっています。終わったのが72年。当時の記憶がある人が今も少なからずいるわけです。
救急部はまさに地獄の戦場(提供写真)
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ピーク時は救急車5台同時到着、ICUに110人
 ――接種しない人が多ければ、コロナは収束しないのではないか。

 雑駁に言うと、打たない人が死に、打った人が生き残ります。そのような中で人口の60~70%の人が打つと、コロナに罹患して免疫を得て生き延びた人も含め、ハードイミュニティー(集団免疫)の状態となり、感染が収まるという意見に共感しています。繰り返しますが、米国では昨年末に接種が始まり、3カ月余りで接種率21%ですから、今年中にはある程度の結果が出るようにと、祈るような気持ちです。

 ――ボストンの街にもワクチン効果は出ているか。

 効果と言うには早いでしょうが、ボストンのあるマサチューセッツ州の近頃の新規感染者は1900人前後。多かった頃は9000人前後だったので、大幅に減ってきてはいます。全米だと、一時期に比べて減ったとはいえ、1日の感染者は約6万人、死者約1600人という状況。トータルの死者数約55万人は、第1次世界大戦と第2次世界大戦とベトナム戦争で亡くなった米軍死者数の総数を超えました。場所によっては爆発の時期がずれており、つい先日も友人が勤務する西海岸の病院は地獄だと言っていた。

 ――この1年、救急医としてすさまじい仕事ぶりだった。

 昨年3月に「研究は一切ストップし、100%臨床に入れ。これまでの倍、働け」と大学から指令が届いたのが始まりで、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の救急部に入るシフトが2倍近くに。救急車5台が同時に到着することも珍しくない中、次々と運ばれてくるコロナ患者を診たんですが、死に物狂いだったと言って過言ではありません。処置をしても、なぜ酸素飽和度が上がらないのか。なぜ急激に悪化するのか。前例のない事態に頭を抱え、感染リスクにも怯えた。家族と遮断された中でコロナ死する何人もの患者さんに立ち会いました。ピーク時は、ICUに人工呼吸器がつながれた患者110人、一般病棟に350人が入院していた。こんなに理不尽で切なくて、やり切れない病はもうたくさんです。

■ホスピスに充てる時間も残されない

 ――救急医であると同時に終末期医療の研究者。コロナによって終末期医療に変化はあったか。

 私が専門にしている患者さんとのコミュニケーションにもオンライン診療が導入されました。非常にナーバスなやりとりなので、オンラインは無理だろうと思っていましたが、意外とそうではなかった。画面で患者さんと向き合うと、2人だけで一室にいるような感じすらします。米国のホスピスの約90%は自宅で行われます。日本では、がん患者が最期を過ごす場と捉えられているようですが、米国ではケアのことを指し、ホームホスピスという言い方をします。

 ――そのホームホスピスの患者さんとの向き合い方の一例を。

 呼吸困難に陥り、救急に複数回運ばれたが、小康を得て家にいる肺がんの末期患者さんの場合。

「今後、あなたの体が悪くなるんじゃないかと心配しています。どういうケアがあなたにとってベストになるのか考えましょう。肺がんになって人生がどう変わりましたか」

「歩けなくなった。ベッドから起き上がれなくなった」

「それはがんが進行しているからで、大変ですね。どんなふうなら生きる価値があると思いますか」

 などとやりとりし、「もし生きる時間が延びるなら、どこまでのつらい治療を我慢できますか」と聞きます。つらいばかりの治療をしたくない人、それでもしたい人がいます。患者さんは患者さんの価値観のエキスパート、医師は医療のエキスパート。治療を両者が一緒に決めていくためのコミュニケーションなのです。

 ――そのメソッドはコロナにも応用された?

 いいえ。コロナの患者は急激に悪化する。救急で運ばれた高齢の患者さんのほとんどが亡くなりました。その教訓からも、コロナ収束のためにワクチンを接種しましょう、と申し上げたいです。心配する気持ちも分かります。私は本来、新薬を勧めませんし、認証後10年ほど経ってから使いたいものですが、このコロナ禍では急がないとまずい。もうギリギリのところに来ていると思います。

(聞き手=井上理津子/ノンフィクションライター)

▽大内啓(おおうち・けい)1978年、大阪市生まれ。12歳で渡米し、ジョージタウン大学医学部卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院修了。ポールB・ビーソン老化研究キャリア開発新興リーダー賞(米国立緩和研究所)受賞。ハーバード・メディカル・スクール助教授(終末期医療)



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