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「死にたいと思うと、安心する」チャット悩み相談に寄せられる10代の逃げ場のない孤独

2021-04-12 15:30:00 | 日記

下記の記事はプレジデントオンラインからの借用(コピー)です

親の思い込みが子供をさらに苦しめる
「生きる意味がわからない」
「消えたい」
「死にたい」
慶應義塾大学3年生の大空幸星さん
翌日から学校や会社が始まる日曜の夜は10代、20代からのそんな悩み相談が多い。NPO法人「あなたのいばしょ」理事長で、慶應義塾大学3年生の大空幸星こうき(22)はそう話す。
2020年3月、大空はチャット相談サイト「あなたのいばしょ」を、友人と2人で開設。チャットとは、ネットで交わす文字での会話のことだ。
長引くコロナ禍で増えている相談中、10代から寄せられるものは親とのトラブルと、勉強やいじめ関連、友人関係の悩みが多い。
苦境にある子供をさらに追いつめがちなのが、多くの親が陥りやすい「子供のことは自分がいちばんよくわかっている」という誤解、と大空は指摘する。そのせいで問題の発見が遅れる危険性があるのだ。
「たとえば、いじめ問題に悩んでいる子は親には絶対言いません。子供なりのプライドもあれば、親を心配させたくないという優しさもあるためです。また、親の『自分の子供は優等生だから大丈夫』という楽観論も的外れ。優等生は優秀な成績を維持しなくてはいけない、というプレッシャーを感じています。だから成績が少しでも落ちると、不安になりやすい。むしろ優等生ほど、平均的な同級生以上に狭くて、崩れやすい場所にいることを、親はもっと認識しておくべきでしょうね」(大空)
コロナ禍による外出自粛によって、親から暴力や虐待を受けている子もいる。コロナ禍の長期化で、10代や20代の子を持つ親世代も、時短営業や雇用不安にさらされているためだ。子供たちは学校やアルバイト先、カラオケやネットカフェにも行けない場合がある。結果、悩む彼ら彼女らは自宅以外の逃げ場を失い、精神的にかなり追いつめられているという。
「子供に過干渉ぎみの受験ママや、パパからのプレッシャーに苦しんでいる子たちも多いですね。また、生真面目な子ほど、親からの期待に応えられず、成果が出せないことに人一倍責任を感じ、『親にも先生にも申し訳ない。自分が情けないから死にたい』と漏らす子もいます」
慶大生の彼がかつて自傷行為に及んだ理由
大空自身、小学生時代に両親が離婚してから、さまざまな悩みを抱えて一人で苦しんできた。
「離婚後は父親との生活になじめず、中学進学後は、再婚した母親の下で暮らしたりしましたが、留守がちな母親とは口論が絶えませんでした。結果、自傷行為を繰り返し、『死にたい』と思うほど精神的に追い込まれたこともあります」
大空を救ってくれたのは、当時通っていた私立高校の担任教師。大空が自殺をほのめかすメールを深夜に送ると、翌朝心配して自宅に駆けつけてくれて、大空は心底救われた気がしたという。当時の自分の状態を、彼は「望まない孤独」と呼ぶ。
「当時の自分みたいな人が、コロナ禍で増えているという現実が、僕には耐えられない。それは怒りにも近い感情で、若者に限らず、『望まない孤独』に苦しめられている人たちを、一日でも早くなくしたいんです」
大空が始めたチャット相談は、24時間365日対応で、年齢や性別は不問。誰でも無料、匿名でも利用可。同サイトの相談フォームに悩みの内容を記入して待つと、相談員と1回40分を目安にチャットできる。
20年3月から同年末までに、悩みを寄せた相談者数は約2万8000人。相談依頼に相談員が回答できた返答率は約6割。一般的な悩みの電話相談よりも断然高い。チャットに着目した大空の狙いは的確だった。
「普段からスマホやパソコンでのチャットになじみがある一方で、電話は心理的なハードルが高いと感じる若者世代にこそ、気軽に相談してほしかったんです」
20年10月時点では約400人だったボランティア相談員は、21年1月上旬時点で研修生も含め約900人に増員。10代、20代からの相談比率が高いが、全体を見ると未就学児から70代まで、裾野は広い。
相談員のチャットは傾聴が基本。途中で口をはさまず、相手の話を全部聞くことが前提だ。傾聴には、受容・共感・肯定・承認の4要件がある。相談員の意見を押し付けたり、アドバイスしたりすることは禁止。
さまざまな悩みに相談員たちはどう向き合い、どんなチャットを重ねて、相談者を支えているのか。3人の母親相談員に話を聞いてみた。
「死にたい。遺書はもう書きました」とくに10代に多い希死念慮
「死にたい。遺書はもう書きました。楽になりたいです」
中学1年生の男子からの書き込みを見て、ボランティア相談員の高山奈々子(41)は、ためらわずに対応することに決めた。まず「今日は来て下さって、ありがとうございます」とキーボードに打ち込む。相手も初めてで不安だろうから、丁寧に寄り添う気持ちを伝えるためだ。
『プレジデントファミリー2021年春号』
「『死にたい』と書いてくる10代には、自分からは話したがらない子もいます。ですから慎重に、基本的な情報収集から始めます。まずは体調や睡眠状況、学校や家庭生活について順番に聞いていきます」(高山)
学校生活について尋ねていると、彼からこんな返事がきた。
「学校では、友達と話していると楽しいんですが、そのほかは空元気を出して頑張っている感じです」
率直な気持ちを聞けたので、高山は「友達と話すのは楽しいけど、それ以外は自然体ではいられないんですね?」と、相手の言葉を反復しながらも、彼の「空元気」を、「自然体ではいられない」と言い換えてみせた。傾聴での「受容」だ。彼の言葉をオウム返しにせず、あえて言い換えるのは、話をきちんと聞いていると伝えるためだ。
「死にたいと一人で思うと安心する」
家庭について聞くと、専業主婦の母親への辛辣しんらつな見方が明かされた。
「いつも不機嫌で、見張られている気がします。勉強でもなんでも僕をせかしてきます。たまに面白いことも言うんですけどね」
中1の彼が、現在のようにつらく感じるようになったのは、「中学受験への準備を始めた小学校5年生から」で、「学校でも家でもいつも緊張している」という。
高山は「学校でも家でも、常に周りに気を使われる、やさしい方なんでしょうね」と、今度は一歩踏み込んでみた。傾聴の「肯定」に当たる。
すると彼は、「やさしいかどうかはわかりませんが、周りにいつも気を使っているのは事実です」と回答。高山につらい自分のことを肯定してもらえたと思って気を許したのか、彼はこう書いた。
「自分の部屋で、死にたいと一人で思うと安心する」
高山はとっさに、「死にたいと思うと、安心するのはなぜですか? 緊張から解放されて気持ちが楽になる感じでしょうか?」と尋ねると、彼からは「おかしいですよね、でも、この気持ちは本当だってわかるんです。緊張の糸がほぐれる」と回答があった。
彼が明かした本音だった。高山が「学校でも家でも本当の自分を出せず、疲れてしまっている感じでしょうか」と書くと、「そうですね」と返ってきた。高山が説明する。
「学校でも家でも『いい子』でいようとしている分、自分の部屋に一人でいて、ふと『死にたい』と思うと、それが『自分の本当の気持ち』だと考えてしまいやすい。10代の相談者に多い『希死念慮』の考え方です。具体的な理由はないのに、漠然と死を願うこと。いじめや友人関係のトラブルなど、具体的な悩みから逃れたくて死にたいと思う、『自殺願望』とは違います」
ギリギリで自分を保つ10代の悩みに向き合う900人のボランティア
10代には学校と家庭が主な世界。その両方で本当の自分を出せず、楽しいと感じられていないと、先の希死念慮にとらわれやすいという。
「大人も思春期にはそんなモヤモヤを感じてきたはずです。ここからは私の想像ですが、彼は学校で会うと、とても利発そうな優等生だと思います。でも、部屋に一人でいると『死にたい』とも思う。その漠然としたモヤモヤをすぐに拭い去る解決策はありません。ですから、私はそのモヤモヤを彼と共有しながら、これからも伴走するような存在でいたいと思っています」(高山)
この対話の後は、彼が最近好きな音楽の話で急に冗舌になり、高山は彼が好きだというバンドの歌を、後で聴くと約束して相談を終えた。午後10時頃に始めて約2時間。その後も彼との対話は続いているらしい。
(右)iPadで相談依頼の画面を開きながら、パソコンで作業。緊急対応が必要な相談にはすぐに手を打つため。(左上)「あなたのいばしょ」宣伝用ポスターの一部分。(左下)将来の夢は幼児教育を受けられる保育園を開くこと。夢に向けて、今からぬいぐるみを集めている。
「10代で『もう死ぬしかありません』という方の話を聞くのは、相当な覚悟がいります。先の事例のように2時間近くになることも多い。まずは信頼関係をつくり、次第に相談者の悩みを探っていきます。『死にたい』という気持ちなら受け止め、共有できると、『ホッとしました』と返事をくれることもあります。話を最後まで聞いただけで、『こんな遅くまで付き合ってくれて、ありがとうございます』と、お礼を書いてくる子もいます。そんな返事をもらうと、私自身もとても満たされますね」(高山)
30代でワンオペ育児に苦しんだから相談される側になった
20年7月に彼女が相談員ボランティアを始めた理由は、30代でワンオペ育児に苦しんだからだ。大空の言う「望まない孤独」だったと気付いた。40代になって子育てにも少し余裕ができた今、自分にできる社会貢献活動がしたいと応募した。相談員を始めてから、自身の家族との会話にも変化が生まれているという。
「子供から相談されると、親はすぐに答えを与えて、早急に解決しようとしがちですよね。以前の私もそうでした。でも、実は子供ってその日起こった出来事を、お母さんやお父さんにただ聞いてほしいだけではないか、と最近は思えてきました。最後まで話を聞くだけで、うちの子供たちはとても満足そうです」
仕事が立て込むと、余裕がなくなり難しいこともある。だが、子供の話を否定せず、きちんと聞こうと心がけていると、子供は以前よりも、たくさん話をしてくれるようになったともいうダメ出しばかりの母が子育ての反面教師この1月から相談員を始めたばかりの、会計士の川西夏実(仮名・39)は、20代女性とのチャットが印象に残っている。他人と自分をつい比べてしまい、自信がなかなか持てないという相談だった。
「そういう問題は、家族や友人にも相談しづらいですよね。私も似たような経験をしたことがあるので、親近感を覚えました。比べるのは仕方ないとしても、その受け止め方にはいろいろあるとお答えしたら、相談者から『少し角度を変えると、悩みの見え方も違いますね』と感謝されて、うれしかったですね」
喧嘩腰の相談者には「お会いできてよかったです」
後日談がある。川西には子供が2人いて、7歳の次女が「自分を好きになれない」と言い出したという。
「チャット相談では、同じ悩みを持つ相談者に『自分にも同じようなことがあります』と、冷静に返していました。でも、次女の発言には、母親として共感できず、『そんなことを思わず、もっとキラキラした子供時代を送ってほしい』と願ってしまった自分がいたんです。かなり矛盾していますよね」
半面、次女がネガティブな気持ちを正直に話してくれて、うれしかったとも川西は明かした。
「私は子供の頃、自分の本当の気持ちを、母親には言えなかったからです。母とは違う母子関係を築けていることに、かなりホッとしました」
小学生の頃から常に厳しく、ダメ出しばかりする母親に、川西は自分の正直な気持ちを言えなくなった。
「そのせいか、会計士になった今でも、自己肯定感を持ちづらいんですよ、他人と自分を常に比較してしまって。ですから、母は私の反面教師。でも余裕がなくなると、私も娘たちにダメ出ししちゃいます。相談員として『相手を否定しない』や『話をちゃんと聞く』ように努めることで、子供たちにも同じように向き合えるようになってきています」(川西)
(右)米国人社会起業家の本と出合ったことがNPO設立につながった。(左)世界19カ国の相談員を3組に分け、大空の将来の夢である保育園にちなんだユニット名をつけた、という。
3人の子供を育てる大学職員の鈴木千鶴(50)は、20年5月から相談員を始めた。
相談が夜間に集中するために、相談員にすぐに対応してもらえず、最初から喧嘩腰の相談者もいる。そんな人でも「お会いできてよかったです」などと感謝を伝え、丁寧に対応していると、次第に落ち着いてくるとわかった。みんな、誰かに話を聞いてもらいたいのだ。
「私も相談者の話に感想を伝えることに慣れ、家庭でも夫に自分の意見を言うことで、冷静な対話ができるようになりました。以前は声の大きい夫の前だとつい萎縮して、黙り込むことが多かったからです」(鈴木)
多様な相談と向き合うことで、本当に人それぞれだなと体感し、物事を受け止める心の幅が広がったせいかもしれないという。
チャットによる悩み相談の世界を、今回のぞかせてもらった。母親相談員らの話から見えてきたのは、相手の話を途中で口をはさまずにきちんと聞く、という対話の基本。それだけで人は救われたり、元気になれたりするという。その傾聴の姿勢は誰にでも、今日からでもまねできる。(文中敬称略)



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