米国防総省“北朝鮮発射の飛しょう体は複数の弾道ミサイル”
2019年5月10日 18時29分北朝鮮情勢
北朝鮮が9日に再び発射した飛しょう体についてアメリカ国防総省は、複数の弾道ミサイルだったとする分析結果を明らかにしました。国連の制裁決議は北朝鮮に弾道ミサイル技術を使ったあらゆる発射を禁じており、制裁決議に違反する可能性があります。
北朝鮮は9日、今月4日に続いて再び飛しょう体を発射し、米韓両軍が詳しい分析を進めています。
アメリカ国防総省は9日、声明を発表し、発射されたのは複数の弾道ミサイルだとの分析結果を明らかにしました。
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北朝鮮は初めての米朝首脳会談が調整されていた去年4月、核実験とICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験を中止すると表明しました。
また、ポンペイオ国務長官も今月4日に北朝鮮が飛しょう体を発射したことを受けて答えたメディアのインタビューに対し、北朝鮮が中止の対象としているのはアメリカにとって脅威となるICBMとの認識を示しています。
ただ、国連の制裁決議は北朝鮮に弾道ミサイル技術を使ったあらゆる発射を禁じており、今回、弾道ミサイルだったとするアメリカ軍の分析結果が出たことで制裁決議に違反する可能性があります。
北朝鮮が再びイスカンデル短距離弾道ミサイルを発射
5月9日夕方に北朝鮮が短距離弾道ミサイル2発を発射しました。北朝鮮の北西部から東方向に発射され朝鮮半島を横断し日本海に着弾、うち1発は水平距離420kmを飛翔しています。5月4日に朝鮮半島東部から発射された短距離弾道ミサイルに続き、僅か5日後に再びミサイル挑発が行われました。
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翌5月10日に北朝鮮は発射したミサイルの写真を公開。ミサイルそのものは5月4日に発射されたイスカンデル短距離弾道ミサイルと同一ですが、移動発射機は装軌式(クローラー式)で初めて確認される車両です。同じく装軌式の移動発射機を用いていた準中距離弾道ミサイル「北極星2号」は戦車型の車体でしたが、装軌式イスカンデルは従来の装輪式車両のタイヤ駆動系をクローラーに置き換えたような構造をしています。ただし装輪式イスカンデルより車体全長は若干短くなっているようにも見えます。
韓国軍合同参謀本部によると5月9日に北朝鮮から発射された2発のミサイルは水平距離420kmと水平距離270km、最高到達高度はどちらも50kmとされています。水平距離420kmで最大到達高度50kmの弾道ミサイルならば打ち出し角度が約20度の浅い弾道(ディプレスト軌道)となるので、最もよく飛ぶ角度の45度(最小エネルギー軌道)で飛ばした場合は水平距離600kmを超える最大射程を有していると推定できます。
イスカンデルは以前から最大射程がINF条約の制限である射程500kmを超えているのではと見られていました。本家ロシア版イスカンデルと北朝鮮版イスカンデルは全く同じ仕様ではないので、これをもってロシアがINF条約に違反していたとは言えませんが、イスカンデルの本当の能力を推定する材料の一つとなるでしょう。
なおイスカンデルは通常の弾道ミサイルより低い高度を飛ぶことで弾道ミサイル防衛システムを突破できると本家のロシアが喧伝していますが、弾道ミサイルは上昇初期段階でロケットエンジンの燃料を使い切る特性がある以上、最大到達高度50kmを維持しつつ飛び続けることはできません。高度15~20km以下の低い高度に降りて来たところを待ち構えればPAC-3地対空ミサイルで迎撃が可能ですし、迎撃可能高度40~150kmのTHAAD地対空ミサイルならば高度50kmだろうと迎撃が可能です。
イスカンデルが低い高度で軌道変更を行いながら飛翔するのは、実際にはミサイル防衛突破用というよりは発射地点を容易に解析されないようにすることが主目的です。そしてこの目的ならばアメリカのATACMS短距離弾道ミサイルでも同じことを行えます。弾道ミサイルである以上、巡航ミサイルのように常に噴射を続ける大気吸入式ジェットエンジンを持っているわけでもなく、滑空ミサイルのように滑空用の大きな主翼を持っているわけでもないので、軌道変更ができるといっても小さな範囲でしか行うことはできません。
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