訳語田の舎で私は待っているだけなのと悲しくて、寂しくてやっと大津さまと心で繋がっているように思えたのに、また大きな力に私は抗えないまま大津さまのお心の繋がりを断たれたように感じて…今までにないわがままを初めて言ったわ。
「私も伊勢に連れて行ってくださいませんか。斎王…大伯皇女さまは私の憧れでございました。近江の宮でも一番美しい女性になると皆口を揃え申しておりました。あなた様の姉上…一度でいい、お会いしたいと思っておりました。」と。
「今回は急ぎ参らなくてはならぬ。勅使でもある。今生で姉上に会えるかどうかの状況なのだ。
道なき道を精錬した舎人らと参る。聞き分けておくれ。」大津さまは心の動揺を抑え私を説得なさったけれど私は大津さまとの繋がりがなくなってしまうと必死だった。
「嫌です。あなたさまは伊勢から戻られぬ気がいたします。私のようなものでも感じています。私を忘れ…いえ、いまでもあなたさまにとって私など必要とされてない。」
「必要と思うておる。わかってほしい。」と大津さまは苦渋に満ちた表情で仰言った。
私は激情のまま「先日、あなたさまの留守に草壁皇子がこの訳語田の舎に立ち寄られました。あなたさまが采女の石川の娘女、大名児に声をかけている、私に夫を大切にしていただかないと草壁皇子は困ると仰せになりました。草壁皇子はその采女をたいそう気にされておりいずれ自分の妃の一人にされたいそうなのです。ですから…」と今思えば恥ずかしいことを言ったわ。
「根も葉もない…嘘だ。そなたしか我は必要ではない。そなたが我を信用してくれないと困る。」
大津さまは私を引き寄せ「必ず戻る。」と抱きしめてくださった。またこの広い胸に帰れたことが嬉しかった。
大津さまは私の髪に鼻孔、唇を当て「我が妃ぞ。」と仰っ言った。
「誠にございますか。」
「大名児のことは知ってはいる。しかし草壁のやっかみだ。そなたを迎えたのだ。我は姉上とこの大和と伊勢で引き離され我はそなたがいることで孤独からようやく解き放たれていたのだぞ。戻らぬわけがない。心の繋がりがないのに我の寵愛を得て功名心を望む女人と戯れたとて虚しいことがわかった。
そなたは夫婦の契りがないことに不安を感じているが、我の母大田皇女は若くして姉上を産み、産後の肥立ちも良くないまま我を生み若くして亡くなった。そなたが万が一我の子を身籠り母のような運命を辿るとしたら我はどうすれば良いのだ。また我は我が産まれたことを悔やまねばならぬのか。正直言う。怖いのじゃ。今度は姉上か…そなたか…我は我の生があることで周りを不幸にしているのではないかと…」
「申し訳ございません。唯一の姉上さまが苦しんでおられ、あなたさまがどんなにご心配されているかを今見ているというのに。」と言った。
「この訳語田の舎の留守は引き受けてくれるな。そなたの香具山の邸もここのところ留守にさせているが…草壁などの戯言に惑わされず。我が妃よ。」と大津さまはにっこり笑われえくぼが愛おしく「あなたさましか信じませぬ。私は身体だけが丈夫なのが取り柄。あなたさまを不幸になどいたしませぬ。」と私もつられて笑顔で答えたわ。
すぐ大津さまは礪杵道作と腕のたつ舎人3人で伊勢へと旅立たれた。
大津さまは一度振り返られ私に手を振ってくださった。
私は大津さまたちの姿が見えなくなるまで手を振り大津さまと義姉上の無事を祈ったわ。
「私も伊勢に連れて行ってくださいませんか。斎王…大伯皇女さまは私の憧れでございました。近江の宮でも一番美しい女性になると皆口を揃え申しておりました。あなた様の姉上…一度でいい、お会いしたいと思っておりました。」と。
「今回は急ぎ参らなくてはならぬ。勅使でもある。今生で姉上に会えるかどうかの状況なのだ。
道なき道を精錬した舎人らと参る。聞き分けておくれ。」大津さまは心の動揺を抑え私を説得なさったけれど私は大津さまとの繋がりがなくなってしまうと必死だった。
「嫌です。あなたさまは伊勢から戻られぬ気がいたします。私のようなものでも感じています。私を忘れ…いえ、いまでもあなたさまにとって私など必要とされてない。」
「必要と思うておる。わかってほしい。」と大津さまは苦渋に満ちた表情で仰言った。
私は激情のまま「先日、あなたさまの留守に草壁皇子がこの訳語田の舎に立ち寄られました。あなたさまが采女の石川の娘女、大名児に声をかけている、私に夫を大切にしていただかないと草壁皇子は困ると仰せになりました。草壁皇子はその采女をたいそう気にされておりいずれ自分の妃の一人にされたいそうなのです。ですから…」と今思えば恥ずかしいことを言ったわ。
「根も葉もない…嘘だ。そなたしか我は必要ではない。そなたが我を信用してくれないと困る。」
大津さまは私を引き寄せ「必ず戻る。」と抱きしめてくださった。またこの広い胸に帰れたことが嬉しかった。
大津さまは私の髪に鼻孔、唇を当て「我が妃ぞ。」と仰っ言った。
「誠にございますか。」
「大名児のことは知ってはいる。しかし草壁のやっかみだ。そなたを迎えたのだ。我は姉上とこの大和と伊勢で引き離され我はそなたがいることで孤独からようやく解き放たれていたのだぞ。戻らぬわけがない。心の繋がりがないのに我の寵愛を得て功名心を望む女人と戯れたとて虚しいことがわかった。
そなたは夫婦の契りがないことに不安を感じているが、我の母大田皇女は若くして姉上を産み、産後の肥立ちも良くないまま我を生み若くして亡くなった。そなたが万が一我の子を身籠り母のような運命を辿るとしたら我はどうすれば良いのだ。また我は我が産まれたことを悔やまねばならぬのか。正直言う。怖いのじゃ。今度は姉上か…そなたか…我は我の生があることで周りを不幸にしているのではないかと…」
「申し訳ございません。唯一の姉上さまが苦しんでおられ、あなたさまがどんなにご心配されているかを今見ているというのに。」と言った。
「この訳語田の舎の留守は引き受けてくれるな。そなたの香具山の邸もここのところ留守にさせているが…草壁などの戯言に惑わされず。我が妃よ。」と大津さまはにっこり笑われえくぼが愛おしく「あなたさましか信じませぬ。私は身体だけが丈夫なのが取り柄。あなたさまを不幸になどいたしませぬ。」と私もつられて笑顔で答えたわ。
すぐ大津さまは礪杵道作と腕のたつ舎人3人で伊勢へと旅立たれた。
大津さまは一度振り返られ私に手を振ってくださった。
私は大津さまたちの姿が見えなくなるまで手を振り大津さまと義姉上の無事を祈ったわ。