Sagami タイムズ 社説・時代への半鐘

潮流の本質を見極める

金と銀で創られたヤヌスの像が導く行方は

2023-06-11 12:24:25 | 旅行
 ロシア外務省は日本政府に対し、「ウクライナへの軍事装備品の供与を決定したことは敵対行為のエスカレートや犠牲者のさらなる増加につながる」と懸念を伝えたと発表した。陸上自衛隊が保有するトラックなど、100台規模での提供といった支援策を対象にしたものとみられ「この決定は、ロシアと日本の関係をさらに危険な袋小路に追い込み深刻な結果を招く」とした。

 これに対し日本は、「今回の事態はすべてロシアによるウクライナ侵略に起因しているにも関わらず、日本に責任を転嫁しようとするロシアの主張は極めて不当で断じて受け入れられない」と、切り返したという。

 日本の主張は正論のように聞こえる。確かに、法の支配に依った世界秩序を乱し人道への冒涜や地球環境への破壊を繰り返しているのはロシアかもしれない。しかし、その正論を当事者である相手側に直接言ってしまうとトゲにもなるし角が立つ。そもそも、ロシアが西側の唱える正論(=正義)を理解できるのであれば、もともとこの戦争は起きていなかったからだ。

 二律背反の中で、一方的な正義を直接ぶつけてしまうとロシアが言うように事態をさらに悪化させてしまう。今回のこの場面では、「日本が提供するのは機材や人員を運搬する車両のみ(なので人道支援の一環だ)」くらいに止めておいた方が得策だった。

 「雄弁は銀、沈黙は金」と古くから言われる通り大上段から自身の考える正論、いわゆる正義をかざしてしまうと『エスカレーション・シップ』を招き世相は混沌とする。

 イソップ童話集の中にこんな物語があった。

 質素な暮らしをしている普通の樵が池に鉄の斧を落としてしまったところ、突然、神様が降りてきてその樵に問いを投げかけた。「あなたが落としてしまった斧は金の斧ですか銀ですか、鉄ですか?」と・・・。樵は「鉄の斧です」と、正直に答えた。すると、神様は「あなたは正直ですね、その正直さが素敵なので全部差し上げます」と、落とした鉄の斧どころか金銀の斧まで樵に与えてくれ、以後、樵は安泰な生活を送ることになる。

 このように、「正直」は神からも認められるほど大切なものでビターな世相の中で一筋の光となることがある。しかし、「正義(=雄弁)をかざす」ということは「正直」がゆえになされてしまうものではあるが、時に、「正直」を遥かに超え※「ばか正直」になってしまうことがある。

 聞き流しても良いではないか、相手側の主張を聴く姿勢をみせることが外交上重要だ。日本政府には、今の戦時下においても日ロ平和条約締結という課題に対し「正義とは一体何なのか?」を問い掛けながら如何に取り組んでいくのかが求められている。
※「ばか正直」とは日本語で、臨機応変の才がない、正直すぎて気が利かない(正直一点張り)の意味



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