Sagami タイムズ 社説・時代への半鐘

潮流の本質を見極める

失われた過去に報いるため

2022-05-29 14:09:07 | まち歩き
 今年の「原爆平和祈念式典」について、長崎市の田上市長は、「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いている状況を踏まえて、式典の妨げとなる不測の事態が起きるおそれがある」などとし、「世界情勢を踏まえ来賓としてロシアとベラルーシの駐日大使に招待状を送らない」考えを明らかにした。これについて田上市長は、「長崎の被爆の実相に触れてほしいという思いはもちろんあるが、厳粛な式典ということを考えたときに難しい面が現実にあり、こういう対応をせざるをえないのは非常に残念だ」と、想いを語った。
 
 また、同じく広島市で行われる「平和記念式典」に松井市長は、「ロシアのプーチン大統領にも招待状を送る予定だったが、政府と協議した結果、招待を見送った」、「被爆の実相に触れてもらう絶好の機会だが、プーチン大統領を招待することがほかの国の出欠を左右する検討材料にもなる」として、「式典の執行に支障をきたすことがないよう判断した」などと、理由を説明した(以上、NHKの報道より)。

 これに対し、ロシアのガルージン駐日大使は25日、SNSに「重要行事である式典からロシアを排除する挙に出た」、「恥ずべき措置だ」などと反発し、通信アプリのテレグラムでもロシア語で声明を投稿し、「ロシアがウクライナで核兵器を使うといった、でたらめを流布している」と非難したうえで、「ロシアこそ核不拡散に真剣に取り組んでいる」などと自国の立場を主張したという。

 ことの真偽は別として、ガルージン駐日大使のこの主張は、「おいおい、俺たちも呼んどいた方がいいんじゃない!」と言っているかのようで、非常に興味深いものであると考える。俯瞰すると、ロシアなくしては核兵器廃絶などにたどり着くすべもなく、しかも、今回の招待見送りは長年培ってきたロシアと日本との外交をも蔑ろにするものだからだ。

 ロシアによるウクライナへの壮絶な攻撃を日本が過去に味わったアメリカによる沖縄への無差別的な上陸作戦、長崎、広島への原爆投下に投射して、「何としてでも救いたい」、「ロシアなんてあっち行け!」という切実なる想いは理解できる。しかし、外交、突き詰めて言うと、核兵器廃絶という極めて高度な地球規模での課題は自国の想いだけで成功へと導くことができるものではない。

 もう一度、世界における日本の立ち位置、立場を考えるべきだ。招待はできないまでも自主的な参加ならロシアの参加も認めるべきではないだろうか。そして、自主的な参加となった場合には、アメリカ、欧州連合と同じくらいの席順を用意したらいかがだろうか。

 岸田首相をはじめ閣僚各位には、もし、核兵器廃絶を推進するという強い想いがあるならば、日本独自の外交を繰り広げていただきたい。(※アメリカによる)上陸作戦や原爆投下により失われた人々の人生に報いるためにも。

※ただし、日本が行なったアメリカ・パールハーバーへの急襲が戦争への経緯であり、東南アジアにおいては、日本も殺戮を行なったという