小諸大橋の近傍の高台から眺めた千曲川と浅間山連邦です。小諸大橋の遥か下を千曲川が流れ、遠くに浅間山連邦の全貌が見えています。
千曲川はモルダウのように佐久の山奥から流れはじめ、次第に水嵩を深めて小諸城、上田城の傍を通り、依田川、神川などの支流を集め、長野に至って松本方面から流れてくる犀川と合流して信濃川の大河となり、新潟の穀倉平野を成して日本海に流れ込みます。千曲川は上田の我家からほんの100m程先を流れており、泳いだり、魚釣りしたり、石集めしたり、思い出は尽きません。
島崎藤村にとっても千曲川は忘れ得ぬ川で、「小諸なる古城のほとり」と「千曲川旅情の歌」の2つの詩を残しました。藤村は27歳の時、木村熊二が主催する小諸義塾の教師として赴任し、ここで33歳まで勤めます。その間、第4詩集「落梅集」を発表し、「藤村詩集」を刊行します。小諸駅の直ぐ南側に小諸城址の懐古園があり、中に藤村を忍ぶ藤村記念会館があります。この藤村記念会館のかたわらに藤村記念碑が建っており、「小諸なる古城のほとり」の詩が刻まれています。藤村記念碑から見下ろすと遥か下方に千曲川が流れ、その向うにのどかな田園が広がって見えます。
藤村の詩といえば、「小諸なる古城のほとり」や「椰子の実」、「常盤樹」、「初恋」等ですが、「初恋」は特に懐かしい詩です。というのは、同級生の山浦君が高一のとき興奮して私に「藤村の初恋はいいなあ」といって語りかけてきたことを思い出すからです。彼は誰かに恋をしていたのでしょう。懐かしいので「初恋」の詩の全文を掲載しました。
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ