「お母さん、ほら、ゆっくり動いてる。」(放課後、私が相手してもらう時は本当の母親のようにこんなふうに言っていました。)時折、バランスが崩れて転倒しないように、咄嗟に手ブレーキを握り、左脚をつきました。停車させると、アクセルグリップがパッと戻りました。
「重くない?」
「うん。チェーン巻くと難しい。」
ボタンをポンと叩きながら答えました。止まりかけたエンジンを活かそうとしました。
カチッキュヒュートットッ…
「暖まるとすぐかかったね。」
「ボタンこうでかかった。」
気を取り直し、手ブレーキをゆっくり緩め、アクセルをゆっくり上げながら、しっかり握ったクラッチをゆっくり緩めながら、走り始めました。
「頑張って。少し走り出したら、右に力入れて。」
「うん。」
トットットットッドッドッドッドッチャリンチャリン
繰り返し繰り返し、止まっては動き、止まっては動きをしてブロック塀のある境まで行きました。積雪前の倍くらい時間がかかるのがわかりました。雪が降ると、お父さんが早めに出るのがわかりました。

ウォンドッドッウォンドッドットットッウォンドッドッ…
低トルク、中トルク、高トルクと上げ下げしクラッチをグイッと握り、ギアをローに入れました。
ガチャ ウォン〜〜〜
ゆっくり手ブレーキを緩めながらアクセルグリップをゆっくり上げ、ゆっくりクラッチを緩めました。
チャリンチャリンチャリンチャリン…
身体が上下に揺れ、ゆっくり動き始めました。軸足の左足を接地させせながらゆっくりフットレストに上げ、今までと同じく車体を立てました。お母さんにつき沿ってもらいながら、ノロノロ運転しました。

ウォ〜〜
エンジンの唸りを聞きながら、左手で手袋をしたまま、シリンダーヘッドに手の平を翳しました。これでエンジンの暖まり具合を確かめるのだそうで、お兄ちゃんやお母さんに教わりました。右の親指と人差し指ですセルボタンを挟んで押したり撫でたりしました。撫でているうち、軽く凹むから、意外とバネが軽く出来ているに驚きました。因みにキックペダルも軽く踏み降ろせて、楽に感じて驚きでした。
カチッカチッカチッカチッ
ボタンを押すと灯火が一瞬チラつきまた明るくなりました。緩めると何もなかったようにエンジンが唸り続け、切替器の音がしなかったです。暖まりを感じると、チョークを戻しました。セルボタンを押したままにしていました。
ロロロロドッドットットットッ トッ キュコ カチッキュルキュルキュルキュルキュルキュル…
アクセルグリップが戻る方に手を取られていました。やがて、キュルキュル音が持続しました。面白がりながら、お母さんと微笑み合いました。
キュルトットッキュトットッル
微かな点火音が混じるようになりました。
吸気弁が安定して動き出しました。
キュドッルキュドッル…
点火音が次第に大きくなりました。やがて、明かりのチラツキも少なくなり、エンジンのアイドリングが低トルクで安定していました。
ヒュ〜トットッ…
モーターの電源が切れ、惰力になり、発電が始まり、エンジンが暖まり安定感がより高まっていました。アクセルグリップを上下させ、ギアシフトに耐えるようにしました。
トットッドッドッドッウォンドッドットットッ…
エンストに備え、セルボタンを押したままにしてアクセルグリップを操作すると、傘のストッパーを外したり、懐中電灯のフラッシュボタンを押すような感覚になっていました。秋口から初冬にかけて、暖機運転って大事で、時間がかかると実感しました。さて、いよいよ、ギアをローに入れて走行です。
