信おん御伽草子

信長の野望onlineの世界を題材のオリジナル小説を書いておりました。令和二年一月、ブログを閉鎖しました。

せんごく小話 九

2019-12-22 22:51:00 | せんごく小話
《せんごく恋話》

恋の花

咲くは

春の桜の木の下か

夏の眩しい光の中か

秋の紅葉の映える中か

冬の舞い散る雪の中か


そんな理はどこにも

でも、たしかに

『くりすます』

というものには、
それを覆す不思議な魔力があるようで…?





女「あっ」

男「やぁ、待たせたかな?」

女「ううん、さっき着いたところだよ」

男「そうか、良かった。
ああ…ここに来るの、久しぶりだな」

女「うん。ここで初めて会ったんだよね」

男「そうだね…見て、今日も傀儡死者がうろついているや」

女「ふふ、本当だ。あの頃は、腐敗ネズミに追いかけられたりしたわね」

男「ははは、そうだった、そうだった」

女「…懐かしい。随分経つわ、あれから」

男「…うん…あ、あのさ!」

女「なぁに?」

男「安土の道場前で…巫女さんが売り子してたんだ」

女「あ、うん。良く見かけるわね」

男「そこで、その…これを」

女「え?まぁ、綺麗な耳飾り…」

男「君に似合うかと思って、さ」

女「嬉しい…」

男「その巫女さんに言われたんだ。

『好きな方に差し上げると喜ばれる』

って…だから…」

女「そ、それって…」

男「君のこと、ずっと前から好きだった」

女「私も…実は巫女さんのお店で買ったものがあるの」

男「え?」

女「…これ」

男「ハサミがこんなに沢山…」

女「前に髪切りたいって言ってたじゃない?」

男「あ、うん」

女「巫女さんが

『想いを寄せる殿方にいかが?』

って…」

男「それは、つまり…」

女「私も、あなたのこと…」




真希「ちょちょちょ、ちょっと待って、
ちょっと待って、姫ちゃん」

姫巫女「ん?なんじゃ?」

真希「さすがにハサミって無理があるんじゃないかな?」

姫巫女「えー?そうかの?
でも、こういう流れじゃないと、
ハサミ売れないでの」

真希「そっかぁ、そういう理由かぁ…

あと、どこで待ち合わせしてるの?
傀儡死者とか腐敗ネズミとか…」

姫巫女「んと、あそこ。富士地下洞穴」

真希「怖いなぁ…待ち合わせに向かないと思うよ?」

姫巫女「んー、たしかに。

くりすますに向けて、
お洒落屋さんの商品動向を想像してみたが
なかなか難しいの。

真希はどう思う?」

真希「え?私?そうねぇ…」



女「ごめんごめん!お待たせ!」

男「本当だよ、まったく…」

女「ごめんなさいってば!」

男「どうせ、
また忘れ物でもしたんだろ?」

女「えへへ、バレたか…
ところで助太刀いる?」

男「いや、もうかたがつくから大丈夫。
あとはイカだけだしな」

女「そう。じゃあ、頑張って♪」

男「おう!」

女「私、甲板で潮風にあたってるね」



姫巫女「真希、真希」

真希「ん?なぁに?」

姫巫女「まさか、幽霊船?」

真希「そそ、海の上とか良くない?」

姫巫女「……いいかも!」



男「お待たせ、片付いたよ」

女「遅い遅い!」

男「悪い…って、
最初に遅刻したのはお前だろ?!」

女「あはは、そうでした。
で?なぁに?話って」

男「うん、まず、これを受け取ってくれ」

女「白粉?」

男「その…前に欲しがってたろ?
安土の売り子さんところで」

女「覚えてて…くれたんだ」

男「それつけなくてもさ、
俺は綺麗だと思うよ、お前」

女「え?」

男「でも、もっと綺麗になるんだろうな。

まいったな…
俺、もっと惚れてしまうじゃないか」

女「もっとって、え?本当に?」

男「ああ、本当さ」

女「ありがとう…
ねぇ、私も実は渡すものあるんだ」

男「え?そうなのか?」

女「これ…髪染料。二人分あるの。
大好きな人と、お揃いにしたいから…」

男「…女」

女「男…」



真希「なぁんて?」

姫巫女「いいのっ!
一番高価な白粉なところも最高じゃ!」

真希「でしょ?!」

姫巫女「髪染料も、ちゃっかり二人分売れてるしの!」

真希「でしょでしょ?!」



雷斧「…どこから、突っ込めばいいのか、もうわけわかんないっすよ」

揚羽「あら、
素敵な妄想話ではありませんか♪」

雷斧「えぇ…マジっすか…?」


なんとなく、
十分ほどで書いたくだらないお話…

まぁ、内容はともかく、

『聖夜短し 恋せよ もののふ』

ということで?

ブログ村参加復活中♪



☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、伝承、
システム、設定等とは一切関係ありません。








せんごく小話 八

2019-12-22 09:34:00 | せんごく小話
『聖なる夜は 鐘の音と共に』

《鐘》

姫巫女「うわぁ、これは可愛いのじゃ!」

雛子「喜んでもらえて嬉しいな」

姫巫女「職ごとに色が違うのじゃな」

雛子「うんうん。八色の鐘があるんだよ」

姫巫女「姫は…白じゃな。
他の鐘も、とても綺麗なのじゃ」

雛子「鳴らし合うと、お互いの鐘が手に入るよ」

姫巫女「ほぉ、それは全部集めたいが…」

雛子「???」

姫巫女「全部持つとなると重そうじゃの」

雛子「た、たしかに…」


そんなこんなで、
不思議な箱が配られましたとさ?



《合掌…もとい、合唱、もとい、合奏》

姫巫女「ん?あれは…?」

カランコロン♪
カランコロンカラン♪

姫巫女「八人で演奏しておるのかぁ。
楽しそ…」

???「はいはいはい!違う違う違う!
もっとこう、ねっとりと麗しく!
悶えるように感情をおもてにだして!」

???「はい!まえすとろ!」

???「もっかい、イのロから!
さんはい!」

姫巫女「た…いへんそうじゃの」


数刻後、
それは素敵な音色が響きましたとさ♪


《開店じゃ!》

姫巫女「これだけ沢山人がいるもの。
お店屋さん、開かぬ手はあるまい。

さぁ、いらっしゃ…

あ、鐘じゃの♪はいはい」

カランコロン♪

姫巫女「さて、では開店…ん?
あ、鐘の、はいはい」

カランコロンカラン♪

姫巫女「よし、今度こそ…
鐘?もちろん、はいはい」

カランコロンカラン♪

姫巫女「はいはい」

カランコロンカランコロン♪


鐘屋さん八割の楽しい時間


《職は??》

「すいません、侍様。鐘を…え、薬師?」

「ごめん、俺、傾奇…」

「陰陽師さん、どこーー?!」

「え、鍛冶屋なんですか?
てっきり僧かと…」

「忍者じゃない…だとぉ?!」

姫巫女「今は色んな格好できるから…の」
( ̄▽ ̄;)


鐘の色で判断…何ぃ?!
それも効かないだとぉ?!!!


《だって…の?》

姫巫女「あ、雷斧殿に揚羽!」

雷斧「やぁ、姫さん。こんにちはっす」

揚羽「こんにちは、姫様」

姫巫女「こんにちはぁ!
おぉ、二人して『さんた』の格好じゃの」

雷斧「やっぱり、これ着ないと、
くりすます感が出ないっすからね」

揚羽「ふふふ、そうですわね」

姫巫女「うんっ、二人とも、
すごく似合っておるぞ。

揚羽、とっても可愛い!」

揚羽「まぁ、ありがとうございます。
姫様は、いつもの装束でいらっしゃいますね。さんた装束はお召しにならないのですか?」

姫巫女「あ、いや、着てはみたのじゃが」

雷斧「きつかったすか?」

( ' ^'c彡☆))Д´) パーン

揚羽「あらあら…何か不都合でも?」

姫巫女「その…ほら…丈が短すぎて…」

揚羽「まぁ、左様ですわね」

姫巫女「座ると…の?」
(//∇//)


普段と変わらないですよねぇ
( ' ^'c彡☆))Д´) パーン


《威圧感満点さんた》

姫巫女「そうか。二人で南蛮船に行くのじゃな」

雷斧「そうっす!美味しい『わいん』が飲めるそうなんで」

揚羽「楽しみですわね」

姫巫女「なるほど、の。
ところで…揚羽?」

揚羽「はい、姫様」

姫巫女「あそこに隠れている…
まぁ、丸見えじゃが、
大きな身体の坊主殿と、
目つきの鋭い殿方は誰かの?」

雷斧「え?!」

揚羽「…はぁ、ついてきたのですね。

きっとお察しかと思いますが、
私の兄たちでございますわ」

姫巫女「あぁ、やっぱり。

あんな殺気をまとった『さんた』は、
初めて見るわ」

揚羽「来るなと申しましたのに…」

雷斧「こ、怖えっす…」


可愛い妹への、お目付役らしいです


《待ち人来たりて》

姫巫女「みんな楽しそう。
くりすます、盛り上がっておるの」

カランコロン♪

カランコロン♪


姫巫女「はぁ…まだかな」

カランコロン♪

カランコロン♪

???「よっと、だーーれだ?」

姫巫女「あっ…」

真希「えへへ、お待たせ、姫ちゃ…え?!
涙?!何で?!何で泣いてるの?!」

姫巫女「え?あれ?」

真希「ごめんごめん!
寒い中待ってたから?」

姫巫女「いや、なんか、ほっとしちゃって…大丈夫!大丈夫じゃっ!」

真希「ごめんねぇ。
姉様の倉庫整理手伝わされてさぁ」

姫巫女「ふふ、お疲れ様なのじゃ」

真希「さってっと、じゃあ姫ちゃん、
約束どおりやろっか?」

姫巫女「うん!」


カランコロン♪

カランコロンカラン♪


日が昇り、日が落ちて
月が現れ、星が輝く

それは、幾千万年も続く
この世の日常

その中の、とある一日

その日の夜が、聖なる夜と
奇跡の夜と愛されるのは

信仰や風習

きっと他にも

人を

世界を

愛する 愛したいという心

そんなものが

たしかにあるからなのだと


一年に一度

特別な夜

きっと多くの人に

奇跡が起こる


鐘の音鳴り響く安土


咲き誇る笑顔も

何気ない挨拶も

楽しげな笑い声も

目と目が合った瞬間も


そのすべてが

愛のあふれる
素敵な奇跡なのだから


カランコロン♪

カランコロンカラン♪


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大地の友愛 八 「隠遁熊と黒狼爺」

2019-12-17 11:54:00 | 姫巫女の書
「さぁて、到着っと。
久しぶりだなぁ。何年ぶりだっけ?」


上野のとある場所へやって来た海月は、
大きな門を見上げ感慨深そうに言った。


ここは『りちうむ屋敷』

あまり、というか、
まったく人の立ち入らない、
上野山中にある大きな屋敷だ。

人が近づかないのには理由があり、
化物が出るだの、呪いがどうだの、
色々と噂をされているから。

ことの真実は別のところにあるのだが、
現在の状況は狙い通りであり、
それを否定することもない。


そんな場所に海月は…


「なんか、髪の色変わってるけど、
海月だよね?あいつ来るの何年ぶり?」

「たしか二年くらいだったな」

「頼んだこと、わかったのかなぁ?」

「さぁな。それにしても…」

「うん?」

「いや…迎える準備をするとしよう」

「はぁい、私、後から行くね」


そこは、屋敷の中の一室。

一人の女が部屋を出るのを、
もう一人の女が見送った。


不思議な光景である。

薄暗い部屋の中、
空中に光の板のようなものが浮かび上がり、門前の様子が映し出されている。


何番風の装束を着た長身の男。

銀色の髪にをかきあげると、
装飾をあしらった黒い眼帯が見える。

腰に一振りの刀を帯びた男を見つつ、

「さて、見つけてくれたなら…いいけど」

そう言って、女はため息をついた。


《隠遁熊と黒狼爺》


「…かの小さきものに平穏と安らぎを…
だろ?開けてくれよー」


海月は門の上に止まる小鳥に向かって
手を振り、話しかけている。


何も知らぬものが見れば、
ああ、ついにどこか飛んでしまったのね?
可哀想に…と思う奇妙な光景。


だが、ここ『りちうむ屋敷』においては、
『正式』な訪問手段であることに間違いないのだ。


詳しくは『虎空』の物語、
『剣聖との腕くらべ』
をご覧頂きたく…


さて、

海月が首を傾げていると、

『…用件は何?あの事がわかったの?』

少しくごもった声が、
小鳥の口から聞こえてきた。

「お?その声はミコトさんだな。
お久しぶり〜」

『はいはい、久しぶり。で?
あのことわかったの?』

「…あ」


一瞬の思案の後、
海月は、しまったという思いを、
はっきりと顔に出して頭をかいた。


『あ、って何よ?あんた、まさか忘れてたわけじゃないわよね?』

「いやいやいや、忘れてないよ?
ただ、ちょっと今回別件で来たから、
頭から抜けてただけで…」

『世の中じゃ、
それを忘れるって言うのよ。どうも、
お久しぶりでした。さようなら』

「まま、待って!ちゃんと調べてるから!
とにかく、今回は他の理由で来たんだよ!
お願いします!開けてつかぁさい!!」


パンっ!と手を合わせ頭を下げる海月に、微かなため息が聞こえた。

それと同時に、
目の前にある大きな門扉が、
すぅっ、と開いていく。


「お!やったぜ。
ありがとうな、ミコトさん!」

顔を上げた海月は、嬉しそうに言うと、
小鳥に向かってニッコリと笑った。


「お邪魔しまーす♪」

開いた門をくぐり、
中へ足を踏み入れた海月を、

ヒュン!!

と、風を切って迎えたのは、

「おわぁっ?!!」

殺気のこもった、鋭い斬撃だった。

身体を翻し初撃を皮一枚で避けると、
続く追撃は刀を半分抜いた状態で受け止める。

どちらも刹那の速さで撃たれたもの。

それを凌いだ海月も、
同じく神速の使い手であった。


未だ力を込め続ける襲撃者に対して、
海月は苦笑しながら、

「や、やぁ、翠銀さん、しば…らく。
元気だった?」

と、挨拶をしてみる。

「ああ、おかげさまでな」

翠銀と呼ばれた、その女性は、
不思議な技法で右腕を鋭い爪と変え、
ギリギリと押し込んでいく。

美しい切れ長の瞳をした美女。

何よりも目立つのは、
陽の光に輝く銀色の髪の毛だ。


ん?銀色?


「ちょっと…怪しい奴じゃないのわかった、でしよ?そろそろ、力抜いてくれないかな?」

「その頭はなんだ?私への当て擦りか?」

「え?」

睨まれた瞳から、
視線を彼女の髪へ。

そして、見えるはずもないが、
自分の頭部へと、それを向ける。


「あっ、ああ!これ?
いや、そういう訳では!

南蛮船の奴からもらった染髪料使ったら、
戻らなくなっちゃって…

あ、おそろいだね♪」


最後の一句が余計であった。


「ふざけるな!誰に断って!!」

鍔迫り合いの状態から、
翠銀は海月の刀を上に打ち上げると、
一歩、距離をとった後、
怒涛の乱撃を繰り出した。


あらゆる方向から、
『確実に』急所を狙ってくる攻撃。

「ぢょっと!危な、危ないって!」


流石の海月も刀を抜き放ち、
命を守るための防御に徹する。


「今すぐ戻せ!
もしくは、全部抜いてこい!」

「無茶言わないでよ?!」


防戦一方の海月。

その意識の殆どが、
翠銀の動きに囚われようという時、

「?!」

別の方向、正しくは背後から、
新たな光が迫ってきた。


翠銀の動きに合わせながら、
海月は素早く左手を空けると、
腰から苦無を取り出し、
振り向くことなく、光にそれを合わせた。

キィィンッ!!

甲高い金属音が鳴り響く。

「え?!」

背後から、若い男の声がした。

驚きの声。

無理もあるまい。

不意うちとしては完璧だったのだ。

それを、この男は、
右手で翠銀の爪を抑え、
左手で光の正体、太刀による攻撃を
受け止めているのである。

なんという、技量であろうか。


「あっぶな…
でも、ちょっと素直すぎだな。

気迫が太刀筋に乗せられすぎている。

正直すぎるんだよ。

見えなくても、どんな軌跡を描くのか
わかられてしまうぜ?」


ニヤリと笑った海月は、
一瞬、翠銀の爪を押し戻すと、
背後の男へ後ろ蹴りを繰り出す。


「ぐはっ!」

思いがけない攻撃を鳩尾にくらった男は、
後方に吹っ飛び、地面に倒れた。


腹を抑え、呻き声を上げる。


「久しぶりだな、翔太」

海月は翠銀に背を向けると
刀を鞘に納めながら、
その男、翔太と呼んだ青年に近づいた。


もう、
翠銀から攻撃の気配は感じられない。
武器も必要ないと判断したからだ。

が、
髪の色のことは、
納得していないのだろう。

殺気のこもった視線は、
ビシビシと背中に打ち込まれている…が。


「お久しぶりです、海月さん。
悔しいな。いけると思ったのに」

「おう。いや、でも良い攻撃だったぞ。
避けるの諦めて、これを使ってしまったからな」

左手に握った苦無を
ヒラヒラと振りながら言う。

「まだまだ、叶わないや。
もっと修行します」

「ああ」


海月より差し出された手を握ると、
力強く身体が引き起こされる。

二人、真正面に立ち、
どちらともなく笑い合った。


この青年は翔太。

元は前橋の町に住む少年であった。

十数年前。

色々な理由から、
この屋敷を訪れることとなり、
その後は、


「で?どうよ。
理夢ちゃんとは仲良くやってるのか?」

「え?あ、それは、まぁ…」

「くぅっ!いいねぇ、いいねぇ、
甘酸っぱいねぇ。
お兄さん、興奮しちゃうよ!」

「やめてくださいよ、もう…」

男同士のコソコソ話。


そう。

その後は、
一目惚れした『少女』とともにいたいと、
ここに留まっているのである。

その子を守れる男になりたいという
大きな夢を抱いて。


「あ!海月だ!」

遠くから、そんな声が聞こえてきた。

噂をすればなんとやら。

甘酸っぱいお相手であるところの少女、
理夢が現れた。


あどけない笑顔で駆け寄ってくる少女。

「久しぶりだね!」

そう元気よく話す彼女は、
二年前に会った時のままの姿。

もっと言えば、
十数年前、翔太と出会った時のまま。

さらには、その前の前、
ずっと昔から少女のまま、である。

翠銀も含めて…


「今日は何をしにきたの?暇なの?」

「うわ、ひでぇ。
遊び人みたいに言わないでくれる?」


理夢の無邪気な言葉に肩を落としていると
こんな辛辣な言葉が飛んできた。


「こんなところふらついてるんだもの。
暇と言われても仕方ないでしょ?」

門の前で聞いたのと同じ声。


新しい声の主は、

「ほんと、何しにしたのよ?
厄介ごとなら、ぶっ飛ばすからね」

そんな物騒なことを言いながら、
ジトッと海月を睨んだ。

「ああ、ミコトさん。
いや、厄介ごと…ああ、どうかなぁ?」

「はいはい、お客様のお帰りです。
みんなでお見送りしましょ」

「待って待って!話くらい聞いてよ!」

慌てる海月の様子に、
理夢と翔太が楽しそうに笑っていた。


ミコト。

薬師の女性だ。

翔太と同じく、
他の場所に住んでいた者で、
彼女は冒険者だった。

ここで、
ある研究をしたくて滞在している。

そうしてから、もう…
十数年になる。


翔太と同じくすること、
それは、もう一つある。

動きやすい薬師の装束を纏う彼女は、
快活な振る舞いの中に、大人の女性としての魅力もあわせ持っている。

ここに来たばかりの頃とは違う魅力。

なぜなら、

「ミコトさん、旦那さんは?
お子さん、おっきくなった?」

海月が尋ねると、
ミコトは表情を和らげながら、

「うん。もう三歳だからね。
遊びたい盛りで、タケルが連れ出してる」

「そっか。
旦那さんにも会いたかったけどなぁ」


そう、母親としての魅力だ。


変わる者、変わらぬ者。

それが混在する場所、
『りちうむ屋敷』

世界の『理(ことわり)』
その中で生きる人々の『夢』

海月は翔太と楽しそうに笑い合う理夢をチラリと見て、こんなことを思い出した。

ここに来る時。

例の老狸との別れ際の、
何気ない会話。



「そういや、仁王で現れた時、
『司夢理』って名乗ってだけど、
あれが、あんたの名前か?」

海月の問いに、
老狸は首を振って答える。

「あれは咄嗟に出たんだ。『司夢理』は昔から伝わる伝承の守り神さ」

「上野の守り神?」

「いや、どうなのだろう?
どんな方か謎が多いのだよ」

「ふぅん…
じゃ、あんたの本当の名前は?」

「ただの年寄りさ。
ぽんぽこでも何でも好きに呼ぶといい」

「ははは、なんだそりゃ、はははっ」



「…似た名前があるもんだな」

「ん?どしたの?」


見つめられていることに気づいた理夢が
海月に不思議そうにきいた。


「いや、何でも。
元気そうで良かったと思ってさ」

そう言って笑う海月に、
翠銀が声をかける。

「そんな挨拶だけしにきた訳ではあるまい。早く厄介ごととやらを話さないか」

「ははは、実は…」


海月は、この上野に来て起きたことを、
皆に説明をした。

そして、この屋敷に何らの知恵を貸してくれる存在があることを。


「…って訳なんだけど」

「ふぅん。
知恵を貸してくれるって、
理夢や翠銀さんのことかな?」

その二人を見ながら、ミコトが言う。


海月の話を
神妙そうに聞いていた理夢と翠銀は、
顔を見合わせると首を振って話した。

「ううん、多分それは…」

「私たちのことではないな。

知っての通り、この屋敷にいるのは、
からくりの動物たちだが、
二匹だけ普通の動物がいるんだ」

翠銀の言葉に、
ミコトが目を丸くして言う。

「え?!知らなかった!」

「お、俺も」

翔太も同様の様子だ。


「それぞれ、
部族の頭をつとめていたそうなんだが、
次代に役目を受け継いだ後は、
山野のものに関わらない方が良いと言って
ここにやってきたんだ」

「お爺ちゃんたち、
ノンビリ暮らしたいんだって」

「そういう訳で、
数年前から居候している」


そんな会話の後、翠銀に案内されて、
屋敷の離れへとやってきた。

納屋くらいの大きさの建物。
木製の引き戸が閉まっている。

翠銀は、その前に立つと、

「翁たちよ、客人だ。入るぞ」

そう言って、ガラリと引き戸を開けた。

格子からわずかに差し込む光だけの部屋。

その中に、
二つの影が佇んでいる。

不思議な紺色の毛並みを持った熊。

白い毛を混じらせた黒い狼。


「隠遁熊と黒狼爺だ」


〜続く〜
次回「大地の友愛 九」
蠢くもの

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☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、伝承、
システム、設定等とは一切関係ありません。






大地の友愛 七 「散開」

2019-12-13 22:57:00 | 姫巫女の書
《散開》

からだの小さな狐が、
一生懸命に駆けている。

少し離れた場所にいる、
ほっそりとした大人の狐に向かって。


小狐が母狐のもとへ。


そんな状況が容易に想像できる。


姫巫女は小狐のそばにしゃがみ込むと、
その頭を優しく撫でた。

硬く、冷たく、悲しい感触が、
彼女の掌と心にじわりと伝わってくる。

そこに生まれた想いは、
そのまま姫巫女の表情へと現れ、
暗いそれを浮かべたまま、
姫巫女は石の小狐の頭を
もう一度撫でた。


狐の村。

当然、建物や何かがあるわけではない。

自然の縄張り、集落、たまり場。


雨風をしのげそうな、
ちょっとした穴蔵に、
広場みたいに、ひらけた場所もある。


そこで、姫巫女たち一行は、
何匹もの狐の姿を見つけることができた。

が、その姿は石へと変わり果て、
動くものは一匹とていない。



「姫ちゃん」

声のした方へ振り向くと、
悲しげな瞳をした真希が立っていた。

立ち上がり、
見つめる姫巫女の無言の問いに対し、
真希は黙って首を振り答える。

無事な狐は、
どこにもいなかった、と。


惨状に驚いた後、全員で手分けして、
石になっていない狐はいないか、
探していたのだが…

どうやら、見つけられなかったようだ。



「あんたの言った通りだな…
どういう仕掛けでこうなってるんだ?」

何かの術か、呪いの類か…

二日前に来た時にはもうこの有り様で、
どうしてこうなったのか、
見当もつかない」


老狸は海月の前で、
深くため息をついた。


その時、横の草むらが揺れて、
汀女のこんな声が、

「おーい、無事な子見つかったかい?」

「いや、駄目だった…
汀女さん、かなたさんも、
何を抱えてるんだ?」

「ん?見てわかんない?
狐ちゃんたちよ?」

かなたが怪訝そうな顔で、
海月に聞き返す。

「いや、まあ、それはわかるけど…
なんで二人とも両脇に狐抱えてるんだ?」


そう。

海月の前に現れた二人は、片手に一匹ずつ石の狐を抱えて現れたのだ。

「いやぁ、ボク達が見つけたこの子ら、
岩の上とか、崖の側とか、
危ないところにいたからさ。

連れてきちゃった」

「連れてきちゃった、って…」

「元に戻った時に、
お耳が欠けてたりしたら大変でしょ?

予防措置よ、予防措置」

あっけらかんと笑いながら、
ズシン、と重い音を立て、
かなたが石の狐を下に下ろした。


この訳のわからない状況で、
二人とも『解決した時』なことを考えて
すでに動き出している。

楽観しているわけではない。

自分の思う結果のために、
今すべきことと、したいことをする。


頼もしいことだ、な。


助力を乞うた者たちの頼もしさに、
海月にも自然と笑みが浮かんでいた。


「おおお、すごいの、二人とも。
力持ちさんじゃ!」

汀女とかなたにパチパチと拍手をしながら
姫巫女が驚きの声を上げる。

「えへへ、弓を扱うのに、
それなりの腕力は必要だからね」

照れ臭そうに言う汀女の横、
かなたは、はしゃぎながら、


「あぁんっ、姫たん♪もっと褒めて!
なんなら、五匹くらい持ち上げて見せ…」

「あ…危ないから、の?
やめとこ?かなた」

「そぉ?楽勝なのになぁ。
姫たんも、軽々抱っこできるから、
いつでも言ってね♪」


手を振りながら、ニコニコ話すかなたに、
真希が不思議そうに尋ねる。

「かなたさんって、陰陽師さんよね?
そんな石の狐持ち上げる陰陽師さん、
知人にいないから、びっくりしちゃった」

「えっへん!
かなたさんは、特別なのですよっ」

「変人だよ、変人」

「海月くんには言われたくないね!」

「どういうこったよ?!」

「二人ともやめなよ。
変わってるっていうのも立派な個性だよ」

「「いや…あなたほどでは…」」

「ひどいな!ボク変わってないよ?!」


いやいや…たしかに今のところ、
『超絶迷子娘』の汀女が
頭一つ抜けている状況、だ。


それはともかく、

「なぁ、いいか?」

やいやいと三人が言い合う中、
老狸が割って入る。


「お前達、これからどうするつもりだ?」

全員顔を見合わせた後、
海月が代表して、こう答えた。

「とりあえずは、
この状況をあいつらに伝えないとな」

「あいつらとは…木霊とネズミ、か?

ああ、そんな警戒するな。

これでも獣の端くれよ。
お前達から、あの者達の匂いがするのだ」

「なるほど、ね。失敗したな。
馬のフンでも、なすりつけてくれば良かったかな?」

「「「「やめて」」」」

笑って戯ける海月に、
女性陣から辛辣な言葉がぶつけられた。


「安心していい。
あの者達とは友人同士だからな。

…熊と狼のことも話しておったか?」

「うん。
なんでも、熊さんと狼さんが、
大喧嘩をしそうだとかなんとか。

狐さんも、
と言うておったが、
この状況は、ちとわからぬの」


神妙そうに考え込む姫巫女の横から、
真希が老狸に尋ねる。


「狐を石にしちゃったのって、
熊か狼、どっちの仕業なのかな?」

「ううむ…どうだろうな。

どちらかはわからないが、
『喧嘩』で済ませる気はないらしい」


老狸は動かぬ狐たちを見やって続ける。


「お前たち、頼みがある。

木霊とネズミたちには、
ワシから、この現状を知らせておく。

お前たちは、熊と狼の元へ行き、
ワシたちが話し合いたいと言っていた、
そう伝えてくれないか?」

「それは構わないが…」

「頼む。だが、急いでくれ。

もうすでに、
あやつらはやる気満々でな。

とある場所へ互いに陣取り、
開戦間もない様子だ」


「まるで、合戦ね。
随分と人間臭いこと」

かなたが、肩を竦めて言うと、

「総力戦、ってことなのかな?
止めてあげないと、
怪我や命を落とす子が出ちゃうよ」

汀女が首を振って言った。


「んじゃ、こうしようぜ。

二手に分かれて、
熊の方と狼の方にそれぞれ向かう。

話し合いなら応じるように説得だ」


海月の提案に頷きながら、

「応じなかった時はどうする?」

こんな声が真希から上がる。

当然の意見だ。

他の三人も同じ気持ち、
そんな表情で海月を見る。


「まぁ、ほら、多少の荒ごとは、
仕方ねんじゃね?」

「「「「はーい」」」」

「…素直すぎね?気味悪いんだけど?」


「だって、ほら。
党首命令ですもの。ねぇ?」

「そうよね、真希ちゃん。

私、手荒なことはニガち…っととと、
苦手だけど、仕方ないわよね?」

「噛んでる。
かなたさん、気持ちがこもってないから
台詞噛んでるよ?

あと、党首とかいつ決めたっけ?」


ジトッと睨みつける海月の言葉に、
かなたはそっぽを向くと、
小さく舌を出した。

「…さっきの謎かけといい、
意気投合するの早いよね…

いや、すげぇいい事なんだけど」

呆れと感心と、
あとは嬉しさを顔に出して、
海月はため息をついて見せた。


そこに、老狸から、
もう一つ頼み事が追加された。


「りちうむ屋敷、
という場所を知っているか?

そこにも、行って欲しいんだ」


りちうむ屋敷。


姫巫女、真希、かなた、汀女は
揃って首を傾げて、

「りちうむ屋敷?」

と、聞き返す。


「ああ。そこに、
説明がしにくいのだが、
今回のことで知恵を貸してくれる者がいるはずなんだ。

誰か行って来てはくれないか?」


「もちろん構わぬよ。
場所さえ教えてもらえれば…」

姫巫女が話す途中で、

「あー、じゃ、俺が行ってくるわ。
場所、知ってるから」

と、海月が、あっさり答えた。



「海月君、その、なんちゃら屋敷、
行ったことあるの?」

「ん、まあ、ちょっとね」

「さすがは、私設瓦版の頭目だね。
ボク、感心しちゃった。

どんなところか、興味あるけど…」

「熊と狼で二人ずつ行ってくれるか?
屋敷は俺一人で行くからさ」


五人で三箇所。

どうしたって、
そういう振り分けになる。


「海月殿…大丈夫なの、かや?」

心配そうに言う姫巫女に、
海月はニカッと笑うと、

「お?なになに?
心配?心配してくれてんの?

だーいじょぶだよ、あそこは、
そんなに危ないことないから。

それより…」


海月の目付きと言葉が、
一転、真剣味を帯びる。


「そっちも気をつけてな。

一度、散開するが、それぞれ、
目的を達成したら合流しようぜ」


「うん、わかった」

「まかせといて!」

「みんな、気をつけてね」

「熊さんと狼さん、
喧嘩両成敗なのじゃ!」


全員、差し出した右手を合わせ、

えいえい、おーー!!!

元気よく鬨を上げる。


穏便にすめば尚よしであるが、
姫巫女の言う通りかもしれない。

その方がしっくりとくる。


上野獣衆、喧嘩両成敗開始である。





高い木々もなく、
緑の野原、なだらかな斜面が広がる場所。

上野の山野に、
ぽっかりと空いたその場所では、
異様に殺気だった気配が満ち満ちている。



とある合戦に例えるならば、
かたや東軍、かたや西軍といったところか。



一方に目を向けると、
高台の上に、一頭の獣の姿が見える。


姿形は狼のそれ。

だが、
黒い毛皮を纏った彼の体躯は、通常見かける狼の、遥か数倍の大きさを誇っていた。


吹き抜ける風。


敵意匂わせるそれを受けながら、
遥か先にいるであろう、倒すべき相手、
その方角を、じっと見つめている。


「黒狼王」


不意にかけられた声に動じることなく、
無言をもって、それに答える。


「奴らも集まりつつあるようね」


背後から聞こえてくるのは女の声。


黒狼王は微動だにせぬが、振り向けば、
そこには人の女性の姿があるはずだ。


「…何の用だ?」

「いえ、戦いの前に、
一声かけておこうかと思って」

「煩わしい奴だ。失せろ」

「嫌われたものね。
何かして欲しいことがあるなら、
とも考えていたのだけれど?」

「必要ない。お前などの力を借りずとも、
あの者達を討ち倒し、我らが勝利する」


そこで、初めて女の方を向くと、
黒狼王は敵意剥き出しの視線で、
彼女を見据えて言った。


「この地の平和のため、
『大地の友愛』を手にするのは我らだ」



〜続く〜
次回「大地の…


「ぜーーーーったい、
私は姫たんと一緒がいい!!

姫たんと行く!

行けないなら、行かない!

姫たんとがいい、姫たんとがいい、
姫たんとがいいのおぉー!!!」


なんだか、騒がしいが、
もう一度やり直し。


次回「大地の友愛 八」
隠遁熊と黒狼爺


「ね?いいでしょ?いいよね?
姫たん、汀ちゃん、真希ちゃん!!」

「俺には聞かないのかよ…」

「あれ?海月君、まだいたの?
りちうむ屋敷は?」

「ひどすぎるだろ?!!」



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☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、伝承、
システム、設定等とは一切関係ありません。


















大地の友愛 六 「立ち塞がる仁王」

2019-12-01 13:41:00 | 姫巫女の書
《立ち塞がる仁王》

自然な光景、である。

弓を携えた黒髪の巫女と、
赤みがかった髪を揺らす小さな巫女が、
仲良くお手手を繋いで歩いているのだ。


「うん、やっぱり姫ちゃんの方が、
海月さんよりも違和感がない」

「ほっといて、真希さん!」


満足そうに頷く真希に、
海月が間髪入れずに言葉をさす。


おわかりだろうが、
汀女が迷わないように手を繋ぐ役目は、
姫巫女が担当することとなった。


緑豊かな山野を行きながら、
黒髪の巫女、汀女がため息をつく。

「ごめんね、姫巫女さん。
ボクのために手なんか繋いでもらって…」

と、隣の姫巫女に謝った。

「ううん!
謝ることなんかないのじゃよ?

ほら、こうしておると、姫と汀女殿、
どんどん仲良くなっていくであろ?

姫、とっても嬉しい!」

姫巫女は微笑みながら、
繋いだ手をブンブンと振り、
汀女にそう言った。

「そうだね。
ありがとう、姫巫女さん」

「汀女殿、姫たちは仲良しさんだから、
姫のことは姫で良いよ」

「じゃあ、姫さん、
ボクのことも殿なんていらないよ」

「ふふ、じゃあ汀女、張り切って
狐さんのところへ行くのじゃ!」

「行こう行こう!」


そんな微笑ましい二人に、
羨ましそうな視線を送る者が一人。

「いいなぁ、いいなぁ!
汀ちゃん、いいなぁ!
私も姫たんと手を繋いで、
ギュッってやって、
チュッてしながら歩きたい!!」

悶えるように身体を揺らす、
かなたである。

「チュッてなんじゃ、チュッて…じゃあ、ほら、かなたも一緒にお手手繋ご。
みんな一緒に仲良しさんじゃ♪」

「いいの?!やったあ!!」


「ふふ、かなたさん、嬉しそう」

ウキウキと駆けて行くかなたを見ながら、
真希がそう呟く。

「あの人、お気に入りになると、
とことん前のめりだからな。

っと、あれか?

おーい、みんな!
あの丘を越えた先に森があるらしい。
例のキツネ村みたいだ」


片手に持った地図を振りながら、
海月が言う。

村、というか獣の縄張り。

ネズミたちによれば、
そこからは、とても嫌な気配が漂ってきているのだという。


「…今のところ、何も感じないけどね」

かなたのいう通りだ。

ここまで手を繋ぎながらの、
ルンルン行脚であったが、
そこは手慣れた冒険者。

道すがら、
何か変なものは見当たらないか、
妙な空気は漂っていないかと気を巡らせ、ここまで来たのである。


「ま、行ってみればわかるさ」

と、海月が言った、その時、


「貴様たち、何者か」


辺りの空気を震わせて、
恐ろしげな声が聞こえてきた。


!!!


とっさに武器を手にとり、
身構える一行。


シュゥゥウっ!!

前方の地面から、
突然勢いよく白煙が立ち上った。

「みんな、気を付けろよ!」

遮られた視界に警戒していると、
煙の中から、
再び太く大きな声が聞こえきた。


「もう一度、問おう。
貴様たちは何者か?
ここへ何をしにきたのだ?」


だんだんと薄れいく煙の中から、
その声の主が現れる。



顕に見えるは赤黒い肌、
隆々と盛り上がる逞しい身体。

カッと見開かれた鋭い瞳に、
硬く結ばれた口元。

鬼、とも違う、
これは…


「仁王…さま?」

かなたの呟きの通り、
目の前に現れたのは、
巨大な仁王であった。

手にした棍棒を振り回して、
不審な侵入者である、
目の前の人間たちを威嚇する。



「…俺たちは、
ある者から依頼を受けた冒険者だ。

この先にある狐の集落に用がある」


海月が身構えたまま、
そう仁王へ告げた。


「冒険者?ふむ…我が名は『司夢理』
この上野を守護するものなり」

『司夢理』?
守護するもの?

となると、
相手は山神か何かだろうか?

ならば、
その対応も注意しなくてはならない。

そう気を引き締めた、その時、


「んあ?」

と、海月の口から、
大変間の抜けた声が漏れた。


「どうしたの?海月君」

「いや…ほら、あれ…」

汀女に聞かれて、
海月は司夢理の、ある場所を指差す。


汀女も姫巫女も真希もかなたも、
その指の先を見て、

「「「え?」」」

と、戸惑いの声を。


「なぁ、司夢理さんよ」

「な、なんだ?人間」

「それ、何?」

「え?」


海月が指差していたもの。

それは、司夢理の体のある場所。

お尻のところにある、


ふさふさとして、
もこもことした、
獣の尻尾のようなものだった。


「し、しまった!!」

司夢理はそう叫ぶと、

「なんということだ…」

ガックリと、その場に崩れ落ちた。

勇猛な外見に似つかない悲壮な姿は、
再び白煙に包まれて見えなくなる。

そして、次に現れたのは、

「あ、狸さんじゃ」

でっぷりと太った老狸だった。

僧が持つような錫杖に、
大きなボロ傘を背負い、
白く長い髭をお腹まで伸ばしている。


「久しぶりに変化をしたから、
失敗してしまった…」

残念そうに言った後、
老狸は一度咳払いをし、
仰々しく、シャランと錫杖を鳴らした。


「お前たち、見事な洞察力だ。
まずは第一段階、合格!

見たところ腕も立つようだが、まだだ。

知性あるものでなくては、
あの状況を打破できるとは思えん」


あの状況?


全員、コテンと首を傾げる前で、
老狸は声高らかに叫ぶ。


「己の知力の限界を見せてみよ!!


『口から出て、
耳へと入っていく葉っぱってなーんだ?」


さあ、答えられるものなら、答えて…」

「言葉、じゃろ?」


……

………

あっさりと答えられた老狸、
その動きがピタリと止まった。

「え?え??それが知力の限界を云々っていう問題なの?とんちの謎かけじゃない」

かなたが、呆れたように言う。

「私もどんな難しいこと言われるのかと、
ドキドキしちゃった。

でも、なんか懐かしいわね」

「そうだね。
ボクも子供の頃、お友達と遊んだなぁ。
おばあちゃんとかに、
色々教えてもらったりしてさ」

「うんうん、私も!」

おそらく、本気で難問を出題したつもりであっただろう老狸の前で、女性陣が無慈悲に、はしゃぎまくる。

そんな中、ため息とともに
海月が優しさを見せた。

「まあ、ほら、なんだ。
あれだろ?こんなちっちゃいのもいるから、易しいのにしてくれたんだろ?」

と、
姫巫女の肩をポンポンと叩きながら言う。

「姫、そんなちっちゃくないもん!」

「ちっちぇえよ!
今は形だけでも納得しておけよ!
意気揚々と出した問題を、
さらりと答えられたらガックリくるだろ?
かわいそうだろよ!」


言ってしまってはオシマイである…


「ま、まだだ!次は、もっと難しいのを出してやるから、心して臨むがいい!

『お姫様が住んでいる場所は、
どんな色の場所?』

さぁ、どうだ?!」

「「「「白」」」」

「容赦ねぇなぁ…」


「く、くぅぅぅっ…正解!
も、もっと難しいのを出してやるぞ!」


とのことであるので、
どうかしばらくの、お付き合いを。

「なんか姫、
ちょっと楽しくなってきたのじゃ♪」



『簡単に動かせるけど
絶対持ち上げられないもの、なーんだ?』

『お墓参りに行くときに、
着なくてはいけない衣装は、なーんだ?』

『切れないノコギリを使うと、
よけいに切れてしまうもの、なーんだ?』

『たくさんこぼしてしまっても、
全然減らないもの、なーんだ?』

『植物を育てるのが
苦手な鳥って、なーんだ?』

『ご飯を食べるときに、
抱っこして食べるもの、なーんだ?』

『口でかまずに、
手でかむものって、なーんだ?』

『絶対に売ってくれない、
そんなお店の商売は、なーんだ?』


そんな問題が次々と出されていき、


「やった!今度は私が早かった!」

「やられたぁ、ボクもここまで出かかっていたんだけどな」

「えぇと、
真希ちゃん答えたから、十二点。
うん、三人並んだね。
今は、姫たん、十四点で一番ね。

海月君、まだ二点だから、
頑張らないと負けちゃうよ?」

「いや、もう途中から、
不憫を通り越して、哀れになってきたから
俺はもういいよ…」

「まぁ、たしかに…キリがないかの」


ちらりと姫巫女が見やる先には、
うーん、うーんと唸りながら、
一生懸命次の問題を考える老狸の姿が。

謎かけ問答で、
現在コテンパンにされているのだが、
変に意地になっているらしく、
諦める様子がまるでない。


「仕方がない、の。狸殿、狸殿」

姫巫女は、
老狸の髭を小さく引きながら声をかける。

「痛い痛い!何をするか?!
今、次の問題を考えているから、
もう少し待て!」

「いや、
今度は姫が狸殿に問題を出すでの。

これに答えられたら狸殿の勝ち。
それでどうじゃ?」

「お前が?」

「うん。一回勝負じゃ。いいかの?」

「お、おお、かまわんとも」


ニッコリ笑う姫巫女に押され、
老狸は頷いて答えた。


「ではゆくぞ?

太郎殿の母君には、
五人の兄弟がおるのじゃ。

子沢山じゃの♪

名前が、一郎、二郎、三郎、四郎、
さて、最後の一人の名前は?」



老狸の顔を覗き込むようにして、
姫巫女が言う。

「さ、答えてたもれ?」

「ふふん!なんと簡単な。
五人兄弟であれば、四郎の次は…」

「あー、よーく考えての?」

「考えるまでもない。
四郎とくれば、次は五…」

「た、ろ、う殿の母君の子供達じゃぞ?」


その様子を微笑みながら見ている真希が、
小さく呟く。

「姫ちゃん、優しいわねぇ」

「あっぶな…
私、咄嗟に答えてしまいそうだった」

かなたが、
自分の口を手で押さえながら言った。


「五人…母君…ん?た、太郎の母君?
あーーー!太郎だ!
もう一人の名前は、太郎!!」

「おお、正解じゃ!
お見事じゃの、狸殿」

腕を振り上げて喜ぶ老狸に、
姫巫女がパチパチと拍手をする。

そして、チラッと四人の方を振り向き、
片目を瞑って見せた。



合図を受け取った一同、

「さすがだな。いやぁ、お見事お見事」

「姫ちゃんの難しい問題、
さらりと答えるなんて、すごいわ」

「ボク、すっかり騙されて、
五郎って答えそうだったよ」

「私も、私も!」


いやいや、みんな優しいことである。



五人の拍手の中、
老狸は照れ臭そうにしながら、

「はっはっは、
まあ、伊達に長く生きてはいないからな。

お前たちも、なかなかだったじゃないか。

うんうん、その知性、認めてやろう」

大きく頷き、そう言った。


「それでは、
姫たちが怪しいものではないと、
認めてくれる?」

「ああ、すまなかった。

友人である狐たちの村が、
大変なことになってしまってな。

どうしたものかと、
思案に暮れていたところに、
お前たちが来たものだから、
少し警戒していたのだ。

あとは、その、成り行きでな、
は、ははは」

バツが悪そうに言った後、
老狸がペコリと頭を下げる。


「いきなり、
この人数が来れば仕方がないよなぁ。

とんち問答も、
楽しませてもらったみたいだし…

ところでさ、
大変なことってなんだよ?」

「うむ…それがだな…」

太った体が萎んでしまったかのように見えるほど、落ち込んだ様子の老狸。

皆が無言で待ち続ける中、

彼の口から出てきたものは、
思いもよらない、事件の状況であった。



「狐たちが皆…
石に変わってしまったんだ」

〜続く〜
次回「大地の友愛 七」
散開

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☆この物語は、架空のお伽話です。
作中にて語られることは、実際の人物、伝承、
システム、設定等とは一切関係ありません。