生きる意味

私はヘルパーのしごとが好きだ
誰かのために役に立っているという自己満足と
体を動かすことで得られる爽快感
あとは人とふれあえることの楽しさ
そんなものがわたしを支えていてくれる

それでも時折　負の感情にも出会うこともある

一週間に一回　掃除に伺っているSさん
統合失調症で生保を受けている
ギリギリの生活で　少しでも節約したくて
私は毎回　大量の洗濯物を手洗いしている

彼は二周り下の同じ干支
息子…とまではいかないが　
つい　母親的な感情移入もある

でも何よりおもしろいのは彼とのおしゃべり
朝一番で　いろいろな文学の話に花が咲く
朝からバタイユで盛り上がるなんて　異次元空間だ
それも　ゴキブリ常時徘徊する部屋ですからねえ

そんな彼が一昨日は　
ねえ　松島さん　生きる意味ってなんですかね　
と　わたしをのぞき込むように語りかけた
役者をめざしたこともあるしっかりした顔立ちと大きな体
やけどの為の皮膚移植した痛々しい上肢
でも　心にはいつもフラジャイルの注意書きが貼ってあるような彼

何でだろうね　何でわたし　生きてるんだろうね

もう今は　考えるのもやめてしまったようなその問いを
彼はずっと考え続けているんだね

青臭いでしょなんて言えないな
彼のその純粋さが私の胸に突き刺さる



一昨日は　彼の後に伺ったお宅でも聞き役の私
まるで電話相談のようだった

失禁続きのおふくろ　またパジャマを汚したよ
もうキレて怒鳴ってしまったよ　リハパンにしろ！と…
そうぼやいたのは　肺疾患のあるほぼ全盲の私と同じ年のSKさん
彼が日々　どんなに母親に尽くしているか見てきているだけに
彼の苛立ちとかつらさとか後悔とかがよくわかる
私は返す言葉を失ってしまった

午後は筋無力症のような病気を抱えながら子育て中のTさん
どうしても小３の息子をかわいいと思えないと言う…
私も自分の子育てを振り返り色んな思いが沸いてきてしまった


みんな一昨日の出来事なのに
なんか　ボディブローのように
今頃　心にずっしり重たい

負の感情
誰にでもいえるものではない
だって　つい
明るく元気に皆前向きに！！
そんなものが良しとされているから
負の思いを持つことさえ罪悪を感じてしまいがちだ

でも　私は思う
光のあるところには必ず影がある
それと同じに　人の心も明るいだけではないのだ
良いことも嫌なことも含めてその人なのだ
負の感情は否定するものではない

私は　多分昨日　彼らと
その負の感情を否定することなく
居心地悪くとも　一緒に
そこに漂っていたのだと思う

今夜は　その残像に少し翻弄されてるだけ

そう　それだけ…